虚弱生産士は今日も死ぬ ―小さな望みは世界を救いました―
定まらぬ定め
遠くで犬の遠吠えが聞こえる。
即死効果でもあるのか、それだけで死に戻りのエフェクトが体に現れる……が、それは気にせず奥へと進んでいく。
穴に落ち、見つけた道を進み、犬を餌付けし、再び歩く。
物凄く地味なことをやっている感に苛まれなくもないが、死に戻りが起きていることを前向きに捉え、心を補強していく。
「しかし、ずっと下り坂だな。ケルベロスが居たからある程度予想はついていたが」
トンネルのように続く道を、下へ下へと降りていく。
底は未だに見ることはできず、ただただ視界には闇だけが確認できた。
《神話において、死の世界は天上か地底に存在します。それは、肉体を持つものと魂を隔離するためでもあるのです》
「らしいな。地球だと量子論だかそんな理論で、魂の有無がどうこう、死後の世界が云々と揉めていたが……どう思う?」
量子の観測だかと研究者が盛り上がっていた、そんなニュースを見たことがあるな。
その研究結果はVRMMOにも回されているらしいが……ゲーマーはただプレイするだけだからな。
裏にどんな事情があろうと、そのゲームを楽しむだけ。
他に何を考える必要があろうか。
……っと、話が逸れた。
『SEBAS』は、俺が生み出したとは思えない程にパーフェクトなAI。
俺のくだらない質問でも、すぐに求める答えを提示してくれるだろう。
《どう、と仰られましても。一個人の意見として言わせてもらいますと、こちら側でも魂は本来、扱うことを禁忌とされることらしいですし、一つの『定め』として捉えることが宜しいかと》
「定め?」
《はい。神住まうこの世界は、様々な世界が入り混じっております。旦那様たちが本来居るべき地球の文化もあれば、この世界特有の文化もございます。そして、死生観もまた、こちらで独特の変化を持ちました》
まあ、このゲームって中世ファンタジーの一言で纏められないからな。
地球に参考となった場所があると思うんだけど、妙に技術が混ざっているというか。
「ミックスされているからこそ、死もまた本人がそれぞれで受け入れる。だがそこに違いがあるから、一緒くたに纏めようとすることもできないのか……で、それと定めがどう関係するんだ?」
《この世界では魔法という概念がある分、死に関する考えが解明されています。光に属する魔法には蘇生術がありますし、闇に属する魔法には死霊術が確認されていますので。そうして生と死がある程度操れるようになった世界でも、死者は自分たちとは異なる場所へと旅立ち、それぞれの文化によったリスタートを切るのです。それが『定め』だと、愚考致します》
「……そうか、分かった」
――何も分からないということが、だ。
俺なりに纏めるならば、とある宗教では天国に向かい、とある宗教ではヴァルハラに向かう……ぐらいの違いがあり、そうした違いがこのゲームで様々な神話との類似感を示しているということだな。
それが分かっただけでも、俺にとっては充分だ。
「……おっ、あれが出口じゃないか?」
ついに坂は平坦な道となり、底が見えるようになった。
まだまだ先へはあるものの、その事実を力へと変換して坂を下りていった。
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