虚弱生産士は今日も死ぬ ―小さな望みは世界を救いました―

山田 武

冥府の番犬



「結界モード・柔に変更っと」

 音声コマンドを発声すると、鞘から作動音が鳴り、結界の硬度が変化する。

 アクティビティーとしても知られる、バンパーみたいな物をイメージしてもらうと簡単に説明ができるな。
 全身を包むように結界が変形し、見事俺は着地に成功したわけだ。

「(ダムダム)……うぷっ、(ダムダム)ヤバいかも……(ダムダム)……オボロロロロロ」

 ただ、止め方を考えていなかったので、地面に着いた結界は弾み、穴の中で立体軌道であちこちにぶつかっていく。
 中の人は当然振動に襲われるわけで……本当に、これがゲームでよかったかも。

 閑話休題みせられないよ!

 結界をどうにか解除し、ちゃんと自分の二本の脚で地に着いた俺は、しばらく休憩を取ることになる。

「……ウプッ。次は絶対、酔い止めを作ることにしよう」

《……そう、でございますね》

「も、もうちょっと休憩を」

 穴に落ち、さまざまな戦いを(脳内で)繰り広げていたわけだが、死亡レーダーには反応が無かった。
 なので誰かが来る瞬間を、今か今かと待ち侘びているのが現状である。

『――ワンッ』

「えっと、犬……で、合ってるよな?」

《若干差異もありますが、間違いなく犬でありましょう》

「そっか、首が三つ付いてるし尻尾から何故かシャーシャー聞こえている気がしても……やっぱり自分を騙せない。絶対にアレ、ケルベロスだよな?!」

 ケルベロス。
 ギリシャ神話に登場する冥府の入り口を守護する番犬。
 五十の首を持ち、青銅の声で吠える猛犬とも、竜の尾と蛇の鬣を持つ巨大な獅子とも言われているが……俺の目の前にいるケルベロス(仮)は、そうではない。

『ワンッ、ワンワンッ! ヘッヘッヘッヘッヘ……!』

「お菓子……食べるか?」

『ワオンッ!(×3)』

 視界内には、三匹の子犬が居る。
 ……いや、一つの体に三つの首が付いた子犬が居る、と言った方が妥当だろうか。
 尻尾が蛇っぽいことなど、今は置いておくとしよう。

 それよりも、重大なことがあるのだから。

「『SEBAS』、あの犬を見てからさ、警鐘が尋常じゃない程に鳴り響いているんだ」

《流石冥府の番犬ですね。ですが、対策はできるので》

「いや、そこじゃないんだ。その音があまりに煩過ぎて……ウプッ」

 ケルベロスが渡したお菓子に夢中になっている間に、俺はその場から離れ、穴の奥に移動する。
 そして、胸の奥から込み上げてくる熱いナニカを――ぶちまけた。

《……と、突破できましたね》

『SEBAS』の優しいフォローが、なんだか俺の心を抉っていった。


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