虚弱生産士は今日も死ぬ ―小さな望みは世界を救いました―

山田 武

イベントセンサー(仮)



 また何日かが経過して、穴の出現が治まったとの噂を聞いた。
 被害者の数が尋常じゃなかったからな。
 プレイヤーが最も多く所属する冒険者ギルドが陣頭に立って、問題の対処に励んだと耳にした。

 するとその中の誰かが穴に落ち、それに気付いた他の者も穴に追いかけるように落ちていき……そこで問題を解決したとのことだ。

 詳しいことは分からないが、それでも穴が二度と発生しないという結論が出たらしい。

「――はずだったんだけどな」

 安心して草原に向かい、魔物狩りを行っていたのだが、突然足が宙を切り、そのまま地下へと落ちているのが今の状況だ。

 バリアは風を通すので、髪の毛を逆立たせながら地下へ落ちていく。

「涼しいなー、普通は恐怖で心臓ごと凍えそうだけど、そっちは感じないからな。あれ、それって俺の心臓が丈夫だから? ……脆過ぎるから気にならないのか」

 危険を察知し過ぎれば、本当に危険なことが分からなくなる。
 鼠が臆病に巣穴に隠れようと、噴火した火山の猛攻に抗うことはできない。

 それと同じように、身近に死を感じ取り過ぎた俺もまた、これから先にある恐怖を感じ取れなくなっているのだろうか。

「……でも、どうして前回は穴が開かなかったんだ? ランダム、それもあるか。それにゲームと言ったらアレだ――物欲センサー。あれみたいなものがあるのかも」

 求める物が中々手に入らない、全てのゲーマー(ルリを除く)が遭遇した厄災。
 それのイベント版とでも言おうか。


「イベントセンサー(仮)が、草原に居るプレイヤーの中からランダムで選抜した者の足元にこの穴が出現する。そして見事さまざまな仕掛けを乗り切った者が、晴れてイベントを受ける権利を得られる……予想だけど面倒な仕組みだな。ただこのランダムはセンサー付きで、穴に行きたいと思う者を拒絶しやすくした。だから絶対に行けないというわけではないが、他にその意志を持たない者がいるとそっちに穴が開く……そりゃあルリでもないと、故意に向かうのは不可能だよな」


 前回は俺に行きたいという意志があったからこそ、別の奴が穴に落ちた。
 ギルドの大規模な捜索(?)は、ただ一番面倒臭がった奴が落ちただけだろう。
 今回の俺はただ狩りをしようと思っていたので、LUCうんの低さも相まって落ちた……よし、これが考えの中で一番纏まってるな。

「おっ、そろそろ終点か。結界は……うん、しっかりと機能しているな。他にやらなきゃいけないことは……それも無い」

 準備は一応整った。
 さぁ、二度目の着地だな。


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