虚弱生産士は今日も死ぬ ―小さな望みは世界を救いました―

山田 武

手乗りドラゴン



 さて、よくよく考えたらずっと俺が苦悩しながらも結局ベビー系の魔物にスタンガンを喰らわすシーンしかないし、一気に重要な場面までカットしようか。

 二層を突破した俺は、三層目に足を踏み入れた(当然だが)。
 降り立ったその地で最初に見た物は――巨大な扉であった。

「『SEBAS』、この先を見れるか?」

《……広い空間が広がっています。奥の方にもう一つ扉があり、その手前に守護をするような形で魔物が一匹》

「つまり、ボス戦ってことか」

 その『SEBAS』の言葉にわくわくしながら、念入りに装備を確認する。
 今までベビー系の魔物だったんだし、最後もベビー系の魔物だろう……が、どのような魔物のベビーなのかが判明していない。
 それを確認し、倒すまでは安心できない。


「――よし、準備完了。進むか」

 扉に手を掛けると、ゴゴゴゴッという重低音と共にゆっくりと開いていく。
 すると当然、その先の景色が見えていくわけで――

「真っ暗……いや、火が点くか。やっぱり演出って大事だよな」

 最初は何も見えない暗闇が広がっていたのだが、左右に置かれていたらしい燭台に火が灯り、少しずつ全容が明らかになっていく。

「……俺、初めて見たよ――ドラゴン」

 大気を下へと捻じ伏せ、自身を高みへと昇らせる翼。
 高速で空気を薙ぎ、払った後に払う音が出る程の俊敏さを持つ尻尾。
 存在する全ての生き物よりも硬く、そして鋭い輝きを放つ爪。
 あらゆる外敵からの攻撃を弾き、対価に絶望を与える強靭な鱗。
 万物を噛み砕き、自身の糧にする為だけに存在する牙。

 ドラゴン――それは、ファンタジーでも最強の一角に立つ空の王者。
 地球において、強さの証として使われる程に知名度も高い、まさに至高の存在である。

「ただ……可愛いな」

『クゥワァアアア!』

 そんなドラゴンもベビーサイズになると、手乗り文鳥が少しゴツく、デカくなったようにしか感じられない。

「これ、ボスなんだよな」

 死亡レーダーもそこまで警鐘を鳴らしていないので、安心してドラゴンに近付く。

『ク、クワァアア!』

「はいはい、ちょっと寝ててくれよ」

『クギャァアア!』

 必死に鳴いていたドラゴンにスタンガンを向け、スイッチを押すと速攻で泣き叫ぶ。
 スタンガンの電圧を上げたのが悪かったのか、ドラゴンの鱗が電気を弾けなかったのか分からないが、そのまま痺れてダウンしたので、俺はこのダンジョンのボスを倒したことになる。

「…………釈然としないが、これも依頼だし仕方ないか」

 そう自分に暗示をして、開かれた奥の扉へと進んでいく。


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