虚弱生産士は今日も死ぬ ―小さな望みは世界を救いました―
流通偽装
「――と、いった次第なんですけど……どうです? 一枚噛みますか?」
「君って奴は……ぼくを過労死させたいのかい? 君のポーションを知ってから、ぼくが一体どれだけ働いていることやら……」
「その分の利益があるようですし、特に問題はないのでは? 私が持ってくるのは、厄介事だけではありませんし」
「だからこそ苦労するんだよ……」
トホホなギルド長から視線を逸らし、貿易について考える。
大量に手に入ったアイテムだが、アイプスルだけでは全てを消費するのは難しい。
半自動生産装置などを造ったので、膨大な時間をかければ素材は無くなるだろう。
だが、加工品を結局持て余すことに変わりないので、早めに売り捌くことにした。
各種族には予め、俺以外が素材を使うことに関することに問題がないかを尋ねていた。
一部のアイテムはアイプスルでのみ使用を許す、といった条件が付いたが、素材に関してはそういったことは全く無かった。
……そもそも、そういった危険性のある素材を貿易の品として出さないのが普通だ。
「では、ギルド長はこの話を受けないと?」
「そうじゃないんだよ。受けなきゃいけないからこそ、悩むんだ。何度も言ってきたことだけど、君の持つものを全て知った者は、例えどのような手を使ってでも君を手に入れようとするだろうね」
「…………」
「容易く死者蘇生を可能とするポーションを作り、魔力反応を見せずに森を消滅させるだけの力を有し――おまけに一種族でしか採れない特別な素材の数々を簡単に売ってくるときた……本当に、ぼくのような人格者じゃなかったら大変なことになってたんだからね」
長く語っていたが、要するに――。
「つまり……受けてもらえると」
「うん、ここだけは明確にしておこう。素材の一部を別の場所に流す許可さえくれれば、ぼくは全力で素材を売り捌くよ」
「流すので?」
転売……というわけではなさそうだ。
話を聴いてみると、どうやら根回しが主な目的らしい。
ギルド長の交友関係の中に、こうした様々な種族の素材を集めるのが趣味な者がいるとのことで。
その人に素材を渡して事情を説明し、素材の流通場所などを偽装していくそうだ。
……そう、アイプスルで手に入れましたなどと馬鹿正直に言うわけもない。
アイプスルの存在は極一部の者だけが、あくまで噂程度に把握していればいいだろう。
ま、とにかくギルド長もギルド長で何か思惑があるそうだが、既に販売の段階までギルド長の頭の中で進んでいるようだ。
「――こんな感じでどうだい?」
それは俺も納得するだけの内容であった。
故に俺はギルド長の手を取り、篤い握手を交わした。
「これからも、よろしくお願いします」
「ふっふっふ。それはお互い様だよ」
こうして貿易は完全な形となり、今始まったのである。
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