虚弱生産士は今日も死ぬ ―小さな望みは世界を救いました―
貿易開始
そして、貿易が始まった。
……実際のところ詳細は『SEBAS』が取り仕切ることになっていたので、準備を終えたら俺は貿易をどう行うか、それについてあまりよく知らない。
俺は指示されるままに何かを作り、造り、創り……まあ、何かを生産していたよ。
ログインした俺が見たものは、極一部の種族にしか生み出せないアイテムの山だった。
植物を使った衣や鉱石を使った工具、花の蜜や果物や種などなど……とにかくいっぱいの品が目の前に存在していたのだ。
原因を確かめるため、知っていそうな者に挨拶をして尋ねてみる。
「『SEBAS』、おはよう」
《おはようございます、旦那様。旦那様がログアウト中にこちらの品が届けられました。旦那様の指示を頂くため、一度整理して並べておきましたが……邪魔だったでしょうか》
「いや、理解できた。それよりも、相手側の反応は分かっているのか?」
《はい、どの種族も旦那様によって届けられた品を見て喜んでいたそうです。これは戻って来た者たちから直接聞いたことなので安心だと思われます》
貿易の代表者に、言葉を解せる魔物たちを送ってみた。
一度慣れてもらわないと、こちらの世界で長期滞在などできないじゃないか。
「そうか、なら良かった。種族全体で魔物を拒むって場所は無いし、これならもう少し拡大してもイケるか?」
《人材の方に限りがありますので、今はまだかと》
「……そういえばそうだったな。先に育成を始めないとな」
スキルを入手しなければ、魔物たちをこの世界から送り出すことはできない。
ここでは住民として扱われている魔物であるが、それ以外の所だと大抵が殺害対象だ。
そんな魔物だから、という理由によって殺されないように、しっかりとした管理が必要なのだろう。
「あ、『SEBAS』。何か足りない物とかことは無いか? あるなら今すぐに作って届けるけど」
《いえ、始まる前に旦那様が必要な物はもちろん、それ以外の物の予備まで予め作られた分がありますので、恐らく大丈夫かと》
「そっか、分かった」
指示通りに作った物や、過去の歴史から貿易に使われたとされる物などを作り、それを貿易に向かった魔物に渡した。
空間を圧縮できる荷物入れや貿易用の品を確認できるタブレット、符合として使える絵札やもしもの時の非常食……うん、後者は要らないな。
まあ、彼らに何かあっては困るので、結界なども渡してあるな。
彼らは立派なこの世界の住民だ――見捨てることなどできない。
さて、今日は何をしよっかな?
こんもりと積もった貿易の品を眺め、俺はそう思った。
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