虚弱生産士は今日も死ぬ ―小さな望みは世界を救いました―
貢献イベント その22
ツクルは、一人で魔物の群れに接近した。
この世界では、プレイヤー以外の存在は死ぬとそのまま死ぬ。
当たり前のことだが、それをツクルは受け入れられなかった。
故に、エルフの『超越者』たちを行動不能にして、単独で攻め入った。
――誰も失いたくない。
そのための意思を、意志を、遺志を通すために。
ツクルが使ったのは、時限式で作動する爆弾である。
自身の死をトリガーにした爆弾も用意してはあったが……それでは森を移動中に作動してしまうので、あくまで時間をトリガーとした物とした。
(うーん、爆弾の威力は結構弱めにしておいたけど……意外と逝くもんだな。やっぱり、おまけの機能が働いたのか?)
爆弾には、魔道具として特別な力が備わっている。
その中の一つに、体内の魔力を暴走させるウイルスを散布するというものがあった。
禁忌とされた魔法の一つを魔道具として組み込み、簡略化した形で爆弾に組み込んだ。
ウイルス自体を一種の魔道具のとして改造し、侵入した体の持ち主の魔力を徴収して発動する。
ウイルスに耐性を持ち、高度な魔力制御を行える者以外はもがき苦しんで死ぬ。
実験用の物であったため、ウイルスが散布される距離はそこまで広くなかった。
それでも一度に数十体の魔物が死に逝き、ウイルスの猛威を世界に知らしめている。
(なら、こっちの方がよかったか?)
しかし、ツクルが手にしている爆弾は――その何十倍も広く、そして酷く影響を及ぼす物なのだ。
(ま、止めておくか。さっきのは木々に影響が無い範囲で使ったから良かったけど、これは多分そっちにも届く。里の人たちに迷惑が掛からない範囲で、俺は戦うことにしよう)
手袋を付けた両手の指の間に、メスのような物を挟み、ツクルは魔物に近付いていく。
(普通の魔物なら、これ一発で倒せる。とりあえずは、雑魚の掃除からやっていこう)
先程の爆弾のせいで、魔物たちはツクルの存在に恐怖を感じていた。
だが、魔物の様子にツクルはそのことを感じることができず、虎視眈々と自身を殺し尽くすことができると思っている。
故に、全力で戦う気であった。
オーバーキル確定の武器を以って。
◆ □ ◆ □ ◆
(……何者なんだ、アイツは一体)
視界の奥では、死兵とも呼べる動きを見せるツクルがいた。
ツクルは周囲の魔物に近付くと、反撃を受けるのも気にせずにメスを体に当てていく。
すると、魔物は糸が切れたように体を地に伏して動かなくなるのだ。
魔物たちも仲間が倒される様子に焦り、自身が倒される前にツクルを殺そうとする……が、殺しても殺してもツクルは動き続けた。
(奴の握るあの魔具に、何か仕掛けがあるのだろう。恐らくは即死効果を持っているはずだ。しかし、当てた対象を必ず殺す? そんな魔具、神器と同等の存在ではないか!)
実際、即死であることに間違いはない。
だが、ツクルのメスに状態異常:即死、などと言った効果を付与する能力は無い。
――ただ、魂を斬るのだ。
名を『死神の短剣』とされたそれは、魂という概念に直接作用する。
魂以外の存在には一切当たること無く、ただ魂だけに干渉をする魔具なのだ。
故に、魂の強度がメスの強度を越えない限り、ほぼ確実に対象を仕留める。
触れたら最期、ほぼ確実に息の根を止める最悪の武器であった。
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