虚弱生産士は今日も死ぬ ―小さな望みは世界を救いました―
貢献イベント その07
『これが、我。かつての、姿……』
「イピリア、それが貴方の今の名前です。どうぞ、胸を張ってその名を使ってください。瘴気がどういう存在であったとしても、今の貴方は民の願いが生み出した、豊穣の精霊であるイピリアなのですから」
鏡を仕舞い、イピリアにそう告げる。
実際、イピリアは己の矜持を貫き続けていた気がするしな。
口が少し悪かった気もするが、それでも攻撃に卑劣な手を使うことは無かった。
俺を殺す選択肢として、イピリアには嵌め殺しにするという方法が有ったはずだ。
そうすれば俺はリセットを選ぶ選択肢が無くなり、イベントエリアからの退場を決定付けられていた。
しかし、実際そうなることはなく、俺はこうして今もイピリアと言葉を交わしている。
……そもそも、話している時点で理性はあるのだ。
だからこそ俺は葬る選択を捨て、別の道を探すことにしたのである。
『……イピリアは、何故瘴気を纏うように。そして何故、強くあろうとしたのだろうか』
そうして生まれたイピリアは、そう俺に尋ねる。
……いや、イピリアが瘴気を纏うなんて情報、ネットにも載ってないからな。
「そうですねー。私には分かりませんし、恐らく合っていることも無いでしょうが……多分、隙を狙われたのでは?」
『隙……だと?』
「はい、隙ですよ。この世界では、明確に神という存在がいます。祈れば通じるその神へと、大衆は願いを籠めて崇める。すると、世界において神が、最も偉大な存在として世を統べるのです。……貴方たち精霊を崇拝する者も確かにいたでしょう。しかし、それは少数派であり世界は数が全てです。精霊は少しずつ力を失い、存在を消していきます……つまり、存在と力を補うための手段、最後の手段として瘴気を選んだのでしょう」
信仰が薄れようと、願われる限り祈られし存在は動く。
精霊もまた、祈りし者たちによって形を成して土地を守護していた。
……だがこの世界、圧倒的に神への信仰力が高い。
必死に足掻いた末、伸ばせる限り伸ばした手が瘴気へと届いたんだな。
『……要は、復讐なのか』
「いえ、そうとは限りませんよ? 神々にその力を奪われようと、イピリアが抵抗した証なのかも知れません。例え外道になろうと、イピリアに民を守ろうとする意思。例え精霊でなくなろうと、イピリアに存在意義を貫く意志。例え全てに嫌われようと、自分と同じ境遇を生まれさせない遺志。それによって生まれたのが貴方、そうなのでは?」
『我は、望まれていたのか? 狂気に満ちた力への渇望を。彼の地を滅ぼすことを……』
ん? ああ、もうやっちゃってたか。
この話をしながら考えたんだが、普通こういう感じの良い奴って封印されないよな?
なのに、どうしてされたか……なるほど、既に滅ぼしちゃってたのか。
まあこの言い方からして、自我が定着する前にやっちゃってた……みたいな感じなのかもしれないな。
――うーん、返答に悩む。
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