虚弱生産士は今日も死ぬ ―小さな望みは世界を救いました―
貢献イベント その03
瘴気、靄をそう例えても過言では無い。
俺の死ぬその瞬間まで、体に纏わりついてこようとするのだ。
普通の者がここに来た場合、しっかりと防御対策をしなければ即座に死ぬだろう。
「……結界、オン」
溜め込んだ魔力をケチって使っていなかったが、これから先何が起こるか分からないのでそれを使う。
俺の周囲に半球を描くような結界が生成され、瘴気はその中へ入って来れなくなる。
……風兎から、回収しておいて良かった。
「まあ、これで相手にも俺が居ることがバレたんだろうなー」
さっきから、何かに呼応するように瘴気が形を変えて動いていた。
それはつまり、この瘴気の持ち主と瘴気がリンクしていることの証明であろう。
そんな瘴気が、堅固な何かによって移動を拒まれたのだ。
当然、持ち主も気付くだろう。
「何はともあれ、この瘴気は危険だな。近付けるわけにはいかない、楽しく興奮する遊戯としてならともかく、恐怖と絶望しか寄越さないこれは……認めない」
救える手立てがあるなら救うが、救えないなら……葬るしかないだろう。
ここはゲームだが、無意味に命を弄ぶ必要はない。
それじゃあ快楽殺人者と同じだしな。
「駄目なら対価を払えば良い、とりあえずは視にいくことが大切か」
頭の中で鳴り響く警鐘を無視し、瘴気の濃い場所へと突き進んでいく。
◆ □ ◆ □ ◆
意外にも、洞窟の最奥は瘴気で視界が奪われるなんてことも無く、目はバッチリ真実を映し出している。
……まあ、上を見上げれば今まで最も濃い瘴気が漂っているのだが。
「アイツが……この気配の正体、か」
奥を見ると、瘴気と力を放つ存在が居る。
その体貌は巨大な黒いヤモリ。
鋭い爪と風を切る尻尾が、なんとも恐ろしい気がするな。
ヤモリは俺を見ると、鋭い牙を見せるように口を開く。
『――ようこそ、『超越者』よ』
「……えっと、貴方は?」
『すまないな、挨拶を忘れていた。我はとある者たちに崇められた精霊、その成れの果てが形を成したもの。故に、固有の名は無い』
「すいません、そんなこととも露知らず。私はツクル。『超越者』が末端、『生者』を冠することを許された者でございます」
……多分。
にしてもこのヤモリ、結構渋い声が来ると思ってたんだが……違うみたいだな。
「もし宜しければ……貴方様のかつての名、教えて頂けないでしょうか?」
『おお、『聖者』とは。聖性が高い故、我にも見切れぬ何かがあったのか。うむ、我の元の名……確か、イピリアだったか?』
「い、イピリア……ですか」
イピリアって――雷雲の化身じゃねぇか!
嗚呼……もう交渉だけで、どうにかならないかな?
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