虚弱生産士は今日も死ぬ ―小さな望みは世界を救いました―

山田 武

販売交渉 後篇



「ポーションですが、お売りすることは約束します。ですので、少し話に付き合って頂けないでしょうか?」

「話、か。……良いだろう」

「ありがとうございます」

 そう謝礼を申してから、話を行う。

「貴方は理性を持たない魔物と仰っておりましたが、理性を持つ魔物とはどういった魔物のことなのでしょうか?」

「魔物にも意思はある、ただしそれを理解できる者が人族にはいないのだ」

「いない? それはどういうことで」

 意思があること自体は、森の魔物たちが教えてくれたので知っている。
 だが、それを深く考えたことはないんだよな……。
 丁度いい機会だ、ぜひお聞かせ願おう。

「神話の時代、魔物は敵として認識されていた。邪神が生み出した魔の眷属、人とは異なる異形の姿を持った化物。それが当初の魔物への認識だ。それが故か……魔物と人が共に対等な関係を築くことが難しくなっている」

「おや、調教士や召喚士といった職業であれば、それも可能なのでは?」

「あれはスキルの力によって、契約という関係が生まれているだけだ。真の意味で共に歩めているわけでは無い。いるにはいるのだ、そうしたことを可能にした者も。だがそれは異端者として扱われ、人からも魔物からも嫌厭される行動でもある」

 ……いやいや、ちょっと待ってくれ。
 なら俺のアレはなんなんだ?

「――それに比べ、お前には驚いたものだ。あの『クローチル』が加護を贈るとは。アヤツは柔軟な思考が持てない石頭でな、物事を忠実に行おうとするのだよ」

「……ハハッ、最近知りましたよ。それよりすみません、『クローチル』は魔物という風に考えても良いのですか?」

「なんだ、本人に訊かなかったのか? アヤツは――風兎クローチルは聖獣の眷属だ。だから正確に言えば、魔物とは異なるな」

「そうでしたか、ありがとうございます」

 うん、情報も集まった。
 知りたかったことも知れた。
 これだけ分かれば充分だろう。

「貴方に関して質問をすることはありませんのでご安心を。では、早速ポーションの値段交渉を行いましょうか」

「……ほぉ、そうだな。始めようか」

 紳士は不敵な笑みを浮かべ、俺との交渉を始めていく。
 ……いや、質問なんてしたら面倒事に巻き込まれるに決まってるじゃないか。

  ◆   □   ◆   □   ◆

 そして、時が過ぎ――。

「では、これで締結を」

「ああ、これが――代金だ」

「……はい、確かに。こちらがお求めのライフポーション一ダースです。お納め下さい」

「良い買い物だった。ぜひお前とは、また交渉の機会がほしいな」

「いえいえ、本来ポーションという物は無い方が良いのです。傷付く必要などない、そんな世界になってほしいものだと思いますよ」

「……また来る」

 紳士はそう言って、扉の向こうへと消えていった。
 それを見て数十秒後、思いっ切り息を吐いてソファーに寄り掛かる。

「あぁああああああ、疲れたぁああああ!!」

 何あの緊張感、取引先でもあそこまでオーラを放つ人は見たこと無いぞ!
 ……もう、今までの取引先なら平然とした感じで挑めそうな気がする。

「もう今日は疲れた、何も考えずに生産でもしていたいな~」

 この日、俺の頭はこれ以上使い物にならなかった。
 そして、再びアイテムを暴走するように造り続けた……らしい。


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