虚弱生産士は今日も死ぬ ―小さな望みは世界を救いました―

山田 武

VS蜥蜴



 E3

 森が無くなり、魔物の分布が変わった。
 森の中から薄らと見えていた山に居た魔物が、新たにこちらへと来たのだ。

「……うん、さっぱり分からん」

『シャァアアアアアア!!』

 目の前では、ゴツゴツとした鈍色の蜥蜴が牙を剥いている。
 しかし、もう俺の(鑑定)ではLvが足りないらしく、名前も何も全く表示されない。

「まぁ、とりあえず鈍色蜥蜴で良いか。とりあえず、いつも通りに――」

 スタンガンを用意して、鈍色蜥蜴に当ててボタンを押す。
 ビリリリッという電撃音も高らかに、鈍色蜥蜴は絶命する……と良かったんだがな。

『シャァアアアアア!! ギャウギャウ!』

「ああ……噛まれてる噛まれてる。火を吹かないだけまだマシか? 焦げるとさすがに匂いが伝わるからなー。自分が焼ける臭いなんて恐怖物だぞ」

 鈍色の鱗は、電気も通さないようだ。
 電流も気にせずに鈍色蜥蜴は俺の腕を噛み千切り、グミのようにあっさりと噛み潰していた(え、結界? 風兎に貸しているぞ)。

 一方の俺も一度この場で死に戻りをして、肉体を再構成する。
 ……本当はな、俺だって恐怖を感じて怯えてるはずなんだけどな。
 ゲームだって感覚と精神安定用の魔道具があるから、そういうのは気にしないんだよ。

 いやぁな、確かにこの世界でNPCたちは確かに生きている。
 俺はそう信じているし、それを疑うことは無いだろう。

 だけど、俺という特異的な存在に関してはゲームとして区別を付けることにした。
 そもそもNPCたちからしてみれば、何度でも蘇るプレイヤー自体が異常な化物だ。

 前にギルド長も言っていたが、この世界には死兵という言葉がある。
 プレイヤーがそうして何度でも戦える体を使って戦争でもしたら……うん、ペナルティ的にやる奴は少ないと思うし、考えるのは止めておくか。

『ギャギャ!? ……シャ、シャァアアア!!』

 俺の腕が突然消えて少し驚いていたが、それでもすぐに俺自体を倒そうとする考え……ゲーマーとしては正しいと思うぞ。
 消えたのも相手の能力のせいとでも考えれば、大体は合ってるしな。

「うーん、邪道の電気は駄目。毒はまだ味見してないから駄目。そうなると……臭いも駄目だな、また怒られる。それなら……これしかないか?」

 とあるアイテムを設置して、蜥蜴に向けてボタンを押す。

 キィイイイイイイイイイイイイイイン!!

 日本だったら即騒音の罪で裁かれそうな、爆音が辺り一帯に鳴り響く。
 俺は高級な耳栓を嵌めていたので特に影響は無かったが、鈍色蜥蜴はその音を間近で聞いてしまったため――そのまま亡くなった。

「うん、音爆弾の強化版だが……まさか、ここまで効くとはな」

 鈍色蜥蜴を回収して、一度この場から走り去る。

 ほら、また強敵に狙われると困るしな。


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