虚弱生産士は今日も死ぬ ―小さな望みは世界を救いました―
取引
「ツクル君、それは立派な罪なんだよ」
「…………やっぱり、ですか」
「魔物が住んでいようとも、あそこは立派な街の土地。それをごっそり攫っていく……もうそれは、立派な強盗だ」
「そう、ですよね。分かりました、これからは罪を禊ぐため、二度とここには来な――」
すっと立ち上がり部屋から出ようとする。
だが、ギルド長の視線が冷たくなったことに気付き、後ろを振り返る。
「……脅し?」
「いえ、言いましたでしょう? 禊です」
ギルド長に聞いたところ、あそこはこの街の偉い人が管理している森であるとのこと。
なので、その人に無許可であるもの全てをごっそり持っていった俺は――犯罪者だ。
みんな、ゴメンな。
お父さん、職業が犯罪者になっちゃった。
――なんて展開になって堪るか!
抗って見せる、例え目の前の中性的なギルド長を脅そうとも。
「例えこの街の者たちが私を死に戻りできない場所で裁こうとも、必ず私は抜け出して一人禊の旅に出ます。そうなるともう、残念ながらこのギルドにポーションを売ることもできなくなりますね」
「そう、だね。だけどね、ツクル君。契約は絶対に履行しなきゃいけないんだよ」
「……おや、そちらも脅しですか?」
「何を言っているんだい。これはあくまで契約について、『おさらい』しているだけさ」
「なるほど、勉強になります」
契約。
それは、俺とギルド長が結んだポーションに関する誓いであった。
詳細は省くが、魔力で名前を書くことで記された条件を呑んだということになる。
互いに魔力を籠めて、それを行った――とでも思っているのだろうか。
そのネタを使うのはまだ先、今は正攻法で攻めていくとしよう。
「ですがその契約、破った場合にはどうなるのでしたか?」
「ぼくが破ったら、ギルドに関することで一つだけ言うことを叶える。君が破ったら、君が今までに作ったポーション全ての製造法をぼくに提出する、だったよ」
「そう、でしたね。――はい、これがそのレシピとなります」
「――ッ!? しょ、正気かい!?」
何を驚いているのだろうか。
折角契約に組み込んでまで欲しがっていたレシピを、善意で提出したというのに……。
「これが、私なりの覚悟ですよ。ですからギルド長、私の些細な願いを一つだけ、叶えていただけないでしょうか?」
俺の提出したポーションのレシピを確認しているギルド長に、そう告げる。
さすが生産ギルドの長だけあり、生産に懸ける思いはかなりのものなのだろう。
一文字足りとも見逃さない、そんな意思が感じられそうな形相で、ジッとレシピを読み耽っている。
「――ふぅ、まさかこんな方法があったなんて。今までで見つけたのは君だけだよ、ツクル君」
「お褒めいただき、光栄です」
「それが、君たち休人の特権というヤツなのかい? けれど、今までにアイデアを売ろうとしていたどの休人とも、君の考えたアイデアは違っているよ」
「まあ、そこら辺は企業秘密ということで」
「……うーん、ここまでされるとぼくの負けだね。いいよ、君の些細な願いを叶えられる範囲なら叶えてみせる」
「では、早速言いましょうか」
そしてその後、森に行っているNPCが撤収したと掲示板に出たらしい。
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