虚弱生産士は今日も死ぬ ―小さな望みは世界を救いました―
勧誘結果
アイプスル
『……ここが、貴様の世界なのか』
「あ、世界ってバレた?」
『異層に移動しておいて、バレないと思う方が愚かだ。それにこの場所は、明らかにあの世界と脈の流れが違う』
世界は異層と呼ばれる壁で遮られ、本来互いに存在を知ることはない。
ゲーム設定によると、それを神々が渡れるようにして互いに交流させたそうだ。
「へー、参考にしておくよ」
『しかし……まさかここまでの場所が、異層にはあるのだな』
風兎を連れて来たのは、屋久(魔)杉を植えた場所である。
やっぱり、この世界で最も大きい樹を見せたかったからさ。
「どうだこの大きさ、それに周辺の土地の広さは。ここならお前たちの土地ごと持ってきても大丈夫だろう」
『……そこら辺は既に調査した。だが、どうしてもこの大樹が分からない』
うん、最初はこっちも驚いたぞ。
「俺も最初は分からなかったが、確か……もう世界樹じゃなくて『真・世界樹』になっていると言われたな」
『『真・世界樹』だと!?』
驚くようなことだろうか。
もう少しすると、これが『神・世界樹』か『宇宙樹』に進化するらしいぞ(当然、by『SEBAS』の情報である)。
俺としてはどっちでも良いが、できるなら後者が良いな。宇宙旅行に行きたいし。
「まあ、この樹については置いておくとしてだな――風兎はどうしたいんだ?」
『どう……とは?』
「魔物たちは俺に付いてきたい……まあ食べ物が欲しいんだろうが、住む場所はバッチリで風兎もビックリな土地だ。これで、移動は認めてくれるんだろ?」
『ああ、そうだな。貴様と共にここに行きたいと言う者は、連れていくが良い』
「うんうん、それはそれだ。風兎がどうしたいのか、俺はそれを訊きたいんだよ」
『……私がか?』
既に『おかわり』以外にも話せる魔物から聞いたんだ。
風兎が魔物たちのため、懸命に働いているということを。
風兎は森を守る土地神のような存在で、それを行うだけの力を授かっているそうだ。
故に風兎は、森とそこに住まう者がいる限り永遠に働く必要がある、と言っていた。
「森も魔物も全部持ってくれば、お前の仕事はお仕舞いだ。みんなと同じように生き、同じように楽しめる」
『余計な世話、だとは思わないか?』
「思っているに決まっているじゃないか。それでも言わないと、誰も風兎を救えないだろう? 魔物たちには無理だった、今まで救ってもらっていた身で、それを言うのは駄目だと頑なに言っていた」
『アヤツら……』
魔物だって他者を思う心はあるんだ。
それを教えてくれた礼さ、風兎を入念に誘おうではないか。
「だからさ、俺が代わりに言うんだよ。権力も財力も武力も知力もない俺が、唯一持ったこの場所で過ごさないか? お前が働きたいならそれでもいいが、せめてみんなと対等にやっていてくれよ」
『…………それが、人に物を頼む態度というものか』
「ああそうさ。格式ばった硬い誘いより、これからは友達感覚の誘われ方が増える風兎には、これの方がちょうど良いだろう?」
『確かに、それもそうだな』
こうして、アイプスルに新たな住民が増えたのであった。
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