虚弱生産士は今日も死ぬ ―小さな望みは世界を救いました―

山田 武

VS狼



 しばらく歩いていると、木々が密集する地帯まで到達した。
 要するに現在地は森なんだが、たまに聞こえてくるんだよ――

『う、うわぁああああああああ!!』

 ……悲鳴が。
 木霊でしょうか? いいえ、プレイヤーです。ネタにもならない質疑応答が、俺の中で繰り広げられた。

 どうやら、ここには危険な魔物が生息していると思われる。
 実際、E1の魔物や鳩とは比べ物にならない程に、凶悪な反応が森にはあった。
 同じような反応が複数あるので、群れで獲物を狩る習性でもあるのだろう。

「集団で襲うと言えば……狼とか猿か? 他には鼠とか狸とかもありそうだな。あ、でも全然気配とイメージが合わないしなー」

 感じ取れる死の気配は、やけに好戦的なものだった。
 飢え、というわけでもなさそうだし、自分たちの力を誇張しているのか?

「……とりあえず、対策だけしとくか」

 体の至る所に噛みつかれる……なんて展開はゴメン被るな。
 毒は最終兵器だから止めておくにしても、少し強烈なアイテムぐらいは取り出しておいても構わないだろう。

  ◆   □   ◆   □   ◆

「うわぁああああああああああああ!!」

『ガウガウッ! ガウガウッ!』

「あ、ヤバッ……ってタンマタンマァア!」

 結論から言うと、森の中で狩りを行っていたのは狼だった。
 森の中に入った途端、完全に餌として俺を見るような目をして襲い掛かってきた。

 とりあえずのスタンガン――あっさりと避けられる。
 毒入りの餌――数が足りない。

 この二つが失敗した今、第三の選択を取ろうとしたのだが……狼たちはそんな暇を与えてくれなかった。
 逃げ出す俺を追いかけ、的確に体へと牙を突き立てていく。
 その都度死に戻っていく俺なのだが、狼たちにとっては都合が良いだろう。

 ――尽きることの無い餌が、目の前でフリフリと自分たちを誘っているのだから。

 全速力で逃げているのだが、狼たちの飽くなき執念に敵わず死に続ける。
 ……もう、これしか無いのか。

「掛かって、こいやぁあああああ!!」

『ガウゥウウ!!』

 仁王立ちの構えで立ち止まった俺に、狼たちは勢いを付けて攻撃していく。
 牙や爪が体に喰い込むが、称号の効果で痛覚は抑えてある。
 その隙に、アイテムボックスからある物を取り出すと――その場にばら撒く。

『ギャインッ!』

「ふっふっふ、貴様たちはここで終わりだ。どうだ、苦しいだろう? 辛いだろう? ならばもう諦めて、大人しく……ってあれ?」

 狼たちは、既に事切れていた。
 悪夢を見たような酷く歪んだ顔を浮かべ、俺に攻撃をしたまま死んで逝ったのだ。

 念のため狼を“インベントリ”に仕舞えるかを確認し、成功したことに息を吐く。
 そして呼吸をすると、鼻腔に受け入れ難い強烈な異臭が入ってきて思わず咽る。

「……臭っ! だから使いたくなかったんだよ。魔道具で取れるか?」

 そう呟き、狼達の死骸を回収していく。
 俺が立ち去った森の中には、酢の強烈な臭いだけが漂っていた。


コメント

コメントを書く

「SF」の人気作品

書籍化作品