虚弱生産士は今日も死ぬ ―小さな望みは世界を救いました―
騎士王 その08
そうして、俺は帰還するまでの間に様々な情報を集め続けたよ。
例えば『魔道具適性0(笑)』や:DIY:で知ることのできる情報、それらは自分で応用法を見つけ出さなくてはいけなかった。
要するにアレだ、走り方は分かるけど速い走り方は分からなかったということ。
今回の旅行で、それを学べたんだよ。
特に、生産と関わらない知識――世界の常識や歴史が学べたのもありがたかったな。
そこら辺は自分で調べないと分からなかったし、何より知りたかったものもあった。
本当に、感謝しています。
「ガウェインさん、お世話になりました」
「いえ、短い間でしたが、こちらとしてもツクルさんといる日々は楽しかったですよ。是非、また来てほしいですよ」
「……面倒事が無い時に、お願いしますね」
数日して、ようやく『マーリン』が俺を送ることが予定に組み込まれたようだ。
最初に転位させられた草原に、俺とガウェインさんと『マーリン』がいる。
他の者たちは、みんな仕事に励んでいた。
俺に構う暇が無い程忙しかったのは、ここ数日凄いていたから良く分かる。
本当に、面倒事らしいんだよな。
毎日のように騎士の誰かが『マーリン』の魔術で転位し、帰って来ると、必ずと言って良い程に何かしらのダメージを受けていた。
ただ、『騎士王』だけは期間中に一度も転位しなかったのだが、『騎士王』は王であり最後の砦だ。
恐らく国がピンチな時にしか、動かないのだろう。
――いやいや、それじゃあどうして遊びに来ていたんだろうか。
「それでは、そろそろお願いします」
「了解した」
杖を持って『マーリン』がそう答え、何やらブツブツと唱え始める。
魔術師である『マーリン』の空間魔術は、『騎士王』が治める土地の範囲ならば簡単に使えるらしいのだが、それ以外の場所と繋ごうとするとそれなりの時間が掛かるらしい。
「本当にありがとうございます。ガウェインさんが居なかったら、俺もこの場所でこんな気分で帰れたかどうか分かりませんでした。今度はぜひ、私たちの街に来てください。あまり私自身土地勘があるわけではありませんけど、精一杯案内させてもらいますよ」
「そのご厚意に感謝しますよ。そうなったならば、こちらからお願いします」
そう言うと、どちらから言うまでも無くガシッと握手をする。
……ここでまた、死んでしまったことは内緒にしておこう。
「――飛ばすぞ」
術式を完成させた『マーリン』がそう言うと、俺の足元に陣が出現する。
ガウェインさんに離れてもらってから、最後にこう伝える。
「『騎士王』に伝言をお願いします、面倒事はゴメンだが、本当に俺が必要な時は言ってくれ。それ相応の対価を出すなら、必ずそれに応えてみせると」
「…………分かりました。この命に代えましても、王にお伝えします」
ガウェインさんが片膝を地に着けて、俺にそう言ってくる。
そんな光景を見ていると、光に体が包まれていく……もう、移動の時間か。
ガウェインさんから目を逸らし、先程まで居た城を眺めていると――視界が光に包まれていった。
◆ □ ◆ □ ◆
気が付くと、街の近くにある草原で立ち尽くしていた。
遠くを見ると、プレイヤーが魔物を狩っている姿が確認できる。
嗚呼、帰ってきたんだな~。
そう思える光景が広がっているや。
同時に、たった今自分を殺したスライムを処理する姿も、懐かしい日々だと思える。
久しぶりのそんな感覚に、ふと口から笑みが零れてしまう俺だった。
「――って、俺冒険してないじゃん!」
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