虚弱生産士は今日も死ぬ ―小さな望みは世界を救いました―
騎士王 後篇
「ではまず、これを見てくれ」
そう言って、筒を渡してくる。
「この中に一枚の紙が入って――」
「いて、実は開けた瞬間発動する何かが仕込まれている……なんて言わないよな?」
俺がジト目で尋ねると、何も言わずに筒を片付けた。……やっぱりかよ。
「遠回しに巻き込もうとするんじゃない。『騎士王』が俺をどう思ったか、それを尋ねているだけなんだからさ」
「……『超越者』とは思えないぐらいに接しやすい、とても非力な者だと感じた。それでも『超越者』であることは確実だからこそ、謎が多いと思う」
「『超越者』かどうかって、どうやって見分けられものなのか?」
「ああ、それを知る方法が先程の紙に「なら知らなくて結構だな」……そうか」
少し残念そうな顔をしているが、さっきの会話でそれは分かっていただろうに。
これが演技ということもあるが、俺の予想している人となりからすると……本気なんだろうな。
既に『超越者』が俺の体を変質させた、ということは無いと調査済みなので、探し出す方法はそれ以外にあるのだろう。
ついでに言うと、『龍王』さんと『闘仙』さんは一部スキャンができているので、そこから『SEBAS』が何かを見つけ出してくれるのを待っているのが現状である。
「そういえば『超越者』って、何か義務とかはあるのか? 今までに会った奴は。『騎士王』も含めて凄い名前ばかりだし、少し気が引けるんだよ。……あるのか?」
「いや、特に無いぞ。私や『龍王』には国や種族を導く仕事があるが、『闘仙』などはそうした役割は持っていない。ただ、同じ『超越者』同士で色々と交流をしようとしていたのだが……」
「お断りだからな……いや、無理矢理で無ければある程度譲歩するから、そんな顔をしないでくれよ」
速過ぎた即断に、泣きそうな顔をしている『騎士王』を慰める。
しかし『超越者』っていうのは、一体何者なんだろうか。
俺の場合は生と死を超越しているんだろうが、それでも似たような存在はごまんといるだろう。
きっと何かの公認が得られた奴を『超越者』と呼ぶ……なら、それにどんな意味が秘められているのか。
「……というか、交流と言っても色々とあるだろう。どんなことをするんだ?」
「例えば戦闘を……は死んでしまうか。あとはそうだな――助け合いか」
「助け合い……救助のことか?」
「なんらかの形で一線を超えているのが『超越者』だ。そこを疎ましく思う者がちょっかいを出してくることがあってな。互いに協力して、対処することがあるのだ」
「なるほど……」
プレイヤーで例えるなら、特別なスキルの持ち主で集まってギルドを設立するようなものなのか。
集団で固まっていればそう手を出せなくなる。――それを狙っているのか。
「では改めて正式に問おう。『生者』、『超越者』の同盟に入らないか?」
「……やっぱり、同盟は断る。俺が弱いことは事実だし、何より何かに囚われたくない」
俺はそういう柵は無いから、わざわざ誰かと徒党を組む必要は無い。
本当に危険な状態に陥った場合は、ログアウトをすればいい。
あくまでここは、ゲームの中だ。
俺がこの世界に、どのような感想を持とうとな。
「そう、か。それでも私たちに関わりたくないと言うわけでは無いだろう? ならば、対等な関係は別の方法で取らせてもらおうか。今回はこの辺が落としどころだな。ではまた会おうか――『生者』」
そう言って、『騎士王』は去っていった。
いや、関わりたくないんだけどな。
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