虚弱生産士は今日も死ぬ ―小さな望みは世界を救いました―
騎士王 前篇
今日はいつも通り、魔物を回収していた。
角兎は焼き串になるし、スライムは寒天のような物に、犬は……まぁジャーキーとして料理してもらえる。
:DIY:で料理もできるのだが、やっぱり店で作ってもらうってのが、どことなく通な感じがしてな。
ほら、お祭りで売っている食べ物は高くてもつい買いたくなるじゃないか。
雰囲気と言う効果がプラスされ、普通のヤツより美味しく感じられるんだよ。
俺のも似たようなものだな。
ゲームの世界だと言う新鮮な場所だからこそ、こうして店で作った食べ物が食べたいと思うわけだ。
「どうだい、うちの新作焼き兎は。お前さんに教わった通りのたれを付けてみたぞ」
「んんっ! 美味いなこれ。やっぱり教えて正解だったよ」
「俺としても、まさかあの雑草が味を引き立ててくれるとは思わなかったぞ」
「ハハッ。偶然だよ、偶然」
『SEBAS』に調味料について相談したことがあったんだが、そのときに焼肉のタレに近しい成分を生み出す草の情報を知ったんだ(こっちの世界で手に入る物は、解析のためにある程度入手している)。
それを俺のよく行く店の店主に、少しだけ教えているのだ。
いずれプレイヤーにもそうしたことをする奴が現れるだろうし……何より美味しい食べ物のためだ、妥協するわけにはいかなかったのだよ。
「主人、私にも彼と同じ物を用意してもらえないか?」
そうしてゆっくりと食べていると、屋台の前にローブを被った者が現れた。
……物凄く嫌な予感がする。
ほぼ100%女性だろうな。
声が女性のものだし、体のラインもローブから少しだけ確認できるし。
そんな怪しい女性は、俺の食べている串を指差していた。
「え? ……いえ、これはまだ客に出せるかどうかを試しているところでして」
「ふむ。では、彼はどうしてそれを?」
「コイツが提案した物なんで、まずはコイツに出すのが筋ってもんなんです」
「そうか。なら訊こう、君はそれを客に出せる物だと思うか?」
俺の方を向いて、そう尋ねてくる女性。
……何がしたいんだろうな。本気で焼き串が食べたいと言うわけでもないだろうに。
「当然です。俺はあくまでそういう物があると提示しただけ。実際に工夫をして商品としての価値を作ったのは店主自身。商品とは万人が商品としての価値を認めるからこそ商品と成り得ます。そこまでの段階に達したと店主が認めたからこそ、今俺はこれを食べているんですから」
「よく考えているな」
「ま、食べてみるのが一番ですよ。店主、そう言うわけだから一本作ってやってくれよ。それと、もう少し食いたいから、お代わりも頼んでもいいか?」
「あ、ああ……分かった。お客さん、少しだけ待っていてくれ」
「うむ、承知した」
店主は屋台の中に戻り、焼き串を再び用意し始める。
その間、俺たちには話をする時間が生まれるのだが……体に不思議な感覚が襲う。
「結界、か。少し来るのが早過ぎるんじゃないか?」
「そうだろうか? 私としてはこれでも遅い方だと思うのだが」
「いやいや、俺としてはこのまま誰も来ないでくれるのが一番良かったんだよ。だから、いつ来ようとも早く感じるのさ」
「私も一度会ってみたかったのさ――初めまして、新たな『超越者』。私のことは『騎士王』とでも呼んでくれたまえ」
――やれやれ、面倒事が盛り沢山だ。
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