虚弱生産士は今日も死ぬ ―小さな望みは世界を救いました―

山田 武

覚悟の試練 中篇



「……いや、無理だからな。俺のステータスは説明しただろ? お前のクエストはあくまでその称号に合わせたレベルになる? なら、俺はそれをクリアするのは不可能だ」

『……まさか、ここまで弱いとは思わなかった。無双の称号を複数有しているのなら、これぐらいできると思っていたのだが』

 はい、というわけでいつまで経ってもクエストが達成できません。

 あれからかなりの日数が経過しているのだが、クエストが完遂するまではこの場所から出られないそうだ。
 ――実質、監禁だよな。
 ログアウトができるからまだ良かったが、そうでなかったら俺は、一生この場に居ることになっていたよ。

 このクエスト、本人の能力値やスキル、更に手に入れた称号などから難易度が変わる。
 俺は能力値は当然最低なのだが、『○○無双』や:DIY:のせいで『難易度:鬼』でやらされている……無理ゲーだろ?

「大体、一回クエストをリセットすることはできないのか? それができたなら、こんなに苦労しないのにな」

『魂魄は固定してあるのだ。死ぬことは無かろう。それに、一度定めた要請はそう易々と変えることはできん。要請の重要度が高ければ高い程、それは運命と結び付く。第一、私は神である。そんなに簡単に捻じ曲げていると示しがつかん』

「……完全にそっちの都合じゃないか」

 これってあれだろ? 責任を負いたくないから盥回しにするって言うヤツ。
 確かに俺も同じ立場ならば、そう言う気がするけど……やっぱり言われる側は、どうにも困るものだ。



 さて、今更だが俺が何をやっているのかの説明を行おう。
 と、言いたいところなのだが、残念なことに詳細が分かる前に死んで失敗するため、それは無理だ。
 ま、大まかなことを言うと――

「そもそも、神様の攻撃を耐えるってこと自体が無理なんだよ。……まあ、そこまで至ってないけどさ」

『言っているだろう。本題はそこでは無く、そこから何かを感じることだ。お前がこのままの状態で元の場所に戻ることを許すことはない。ならば、証明するしかないのだ。お前がそれを行うに値する者だと……そう思っていたのだがな』

 神様もビックリな虚弱ぶりってわけだ。
 神様も最初は小手調べだ、的な感じで自分の眷属的なものを召喚したんだぞ。
 だが、その存在のオーラ? 的なものに耐えることができずに、かなりの頻度で死んでいる。
 一応この場所の関係か、死に戻りはしていないのだが、自分で「あ、死んだな」と思えるのだ。
 感じた直後に一瞬体が硬直するし、それがこの世界での死なのだろう。
 現在は、そうして死に続けながら神様との会話を行っている。
 ……慣れって怖いな。体は死に続けているのに、精神は安定しているよ。

 最初はさ、確かに死に関する緊迫感的なものが体を襲っていたんだよ。
 冷や汗をかいたり足が竦んだり……でも、もう無くなってしまっている。
 平然と死を受け入れ、何事もなかったかのように振る舞えていた。

「それで、俺は一体どれだけやればそこの眷属に触れるんだろうな」

『……できるだけ、早くできることを祈っている』

 本当、これが終わるのはいつになるのだろうか。
 それが終わるのは、こんなことを思ってから――さらに数か月が経過してからだ。


「虚弱生産士は今日も死ぬ ―小さな望みは世界を救いました―」を読んでいる人はこの作品も読んでいます

「SF」の人気作品

コメント

コメントを書く