虚弱生産士は今日も死ぬ ―小さな望みは世界を救いました―

山田 武

クエスト 後篇



 それからは、ポーションを売り捌く日々が始まった。
 ただただ薄めたポーションを売り続け、報酬として金を貰う……地味過ぎる。
 ランクが特殊なせいなのか、表立って高い報酬を用意されるわけでも無い。
 本当に、少々の金と微細な貢献度が手に入るだけだ。

 風の噂や掲示板で見る家族の活躍は、そんな俺の虚しさを加速させていった。

 息子が封印された邪龍を討伐し、娘がエリアボスをテイムし、妻がいつの間にか地位を女教皇にまだ上げていたり……いや、ただのポーション売りとの差が激し過ぎる!
 追加で別の種類のポ―ションを作ろうとしたのだが、どうにも効能がヤバ過ぎる物しか作れなかったので、ライフポーション以外の物は売ることは止めておいた。
 MPが回復するマジックポーションは一国の民全てのMPを補えるし、状態異常を回復するアンチ◯◯ポーション(◯◯は状態異常名が入る)はその状態異常が100%回復して、一定の時間中、耐性まで付くなんて物ができてしまった。

 プレイヤーの情報網ではそんな異常な物は知られておらず、どちらのポーションもまだプレイヤーでは高い品質を保ててなかった。
 本来、修業をしてからそのレシピを誰かから教わり、ポーションは新しい物を作る――それが公式の情報とのことだ。
 俺は:DIY:の効果で作成法が頭の中に浮かんでくるので、そういう面倒なシステムから逸脱している。

 その気になれば、体力も魔力も状態異常も全てが回復するポーションが作れるのだが、俺はMPさえ回復できれば充分なので、そっちは全く作っていない。
 おまけに材料が伝説に記されていそうな物ばっかりだったし、作って持っていったら、ギルド長から凍てつく眼差しで睨み付けられそうな気がするよ。

 閑話休題

「はい、納品完了しました」

「あの、俺に依頼とかは――」

「出口はあちら側ですよ。では、次の方」

 ……あの、無視されるんですけど。
 今までに、何度も同じことを質問していたのが悪かったのか?
 ギルド嬢に尋ねた質問は、まるで聞いていなかったかのようにスルーされた。
 でも、訊かないと教えてくれないのが世の常だし、こっちもこっちで家族の活躍を聞いているだけだと心が折れそうなんだよ。

「依頼が……依頼が欲しい……」

 ギルドから出た俺は、街をフラフラと彷徨い続ける。
 俺には主人公的な運はないから、目の前で突然ポーションが必要になるイベントが起きるわけでもない。
 ……俺はただ、死に続けるしか無い。

 プレイヤーがどこかで叫び、その大声が耳にダメージを与えて死に戻りを続ける。
 そんな自分の虚弱さに目から雫が垂れそうになるのだが……そんな俺の悲しみを変えてくれるイベントが起きる――


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