虚弱生産士は今日も死ぬ ―遊戯の世界で満喫中―
初勝利
E1
俺の目の前には、ホーンラビットが一匹出現している。
予め用意していた武器を構えて、ジッと相手を見る。
え? 相手が違う? ……死んだんだよ、もう既にさ。
スライム相手に、俺は武器を当てようとしたんだよ。
けど、それよりも前に、猛ダッシュでスライムが突っ込んで来て死んだんだ。
防御力?
どんな攻撃だって、必ずダメージは負うんだぞ。
強い奴が雑魚を相手にダメージが無いように見えるのは、受けたダメージが高速で治癒されているから分からないだけだったんだ。
と、『SEBAS』に泣き寝入りしたら教えてもらいました。
なんだよ畜生。
折角装備していた服も、ただの収納空間が広いポケットがあるだけの作業服扱いじゃないか。
ま、そんな失敗もあって今回の相手は角兎となった。
攻撃パターンが少なく、頻度が高いのは一直線にジャンプして突撃、というシンプルなヤツらしいので、敏捷が1な俺でも安心だ。
キュゥッ! と鳴いてから、角兎が走って向かって来る。
まずは様子を窺うために、ヒラリと回避していく。
角兎は俺の元居た場所を通過して、ジャンプの勢いのままに地面へと頭から刺さる。
「……よし、周りで見た通りだな」
この角兎と戦うまでに、今回は周りで戦闘していたプレイヤーたちの様子も眺めておいたのだ。
効率厨なプレイヤーたちは、そのまま攻撃するかジャンプして来た時に攻撃するかですぐに終わらせていた。
が、何か練習をしていたプレイヤーは、今の俺のように一旦地面に刺してから、じっくりとその試したいものを行っていた。
……現実なら、動物愛護団体が黙っちゃいないよな。
バタバタともがく角兎を、俺は科学者のような冷たい眼で見つめる。
油断をすると、スライム戦のようにぽっくり逝ってしまうからな。
最後まで、気を引き締めていかなければ。
俺の持つ武器は、短杖のような形状をしている。
だが、別に魔法が使えるわけじゃないし、俺のようにMPが少ない者が使える魔法など高が知れている。
というわけで、これは魔法を使うための補助道具では無くて――
カチッ ビリリリリリリッ
電気を流し込むスタンガンでした。
いやぁさ、一応空気を圧縮して砲弾のように放つ筒とか、予め溜め込んだ魔力を使って魔法を放つ長杖とかもあったんだよ。
でも、それを使った後がどうなるか全く予想が付かない。
空気の砲筒なんて反動で死ぬかもしれないし、長杖だってその余波が俺を殺して来るかもしれないじゃないか。
だが、スタンガンならば既に作業中に経験済みだ。
しかも手袋に絶縁効果もあるので、魔力さえあれば必ず防げることは理解していた。
結果、俺が使う武器が定まったのだ。
ファンタジーらしく不思議な電流が角兎へと流し込まれ、その威力で角兎は気絶状態へと陥った。
だが、燻ることも焼き焦げることも無く、ただ眠ったように倒れ込んだ角兎が、地面に刺さったままダラーンとしている。
……不思議だよな。
電気鼠なみの高電圧を流したはずなのに、スイッチを『捕獲』にしておくだけで傷一つ付かないんだぞ。
他にもスイッチは『殺傷』、『ロマン』、『ネタ』があるのだが……使わないよな?
こうして、このゲームで初めて、魔物との戦いを勝利で迎えた。
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