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虚弱生産士は今日も死ぬ ―小さな望みは世界を救いました―

山田 武

死に戻り



「……ん? ここが初期地点なのか」

 ガヤガヤと騒がしいその場所には、巨大な水晶が宙に浮かんでいる。
 プレイヤーたちはその結晶を背後にして、どこからかやって来ているようだ。
 そう、ここはアドベンチャーワールドにある初期地点。
 俺もまた、そんな結晶を背中にした状態でこの新たな地へと辿り着いたのだ。

「“マップ”……バグが無いって、良いな」

《現在地:冒険世界.…………》

 まあ、この先もずっと文章が表示されているのだが、大切なのは■が無いことであり、その本文じゃないから、別に表示しなくてもいいよな。

「まずは……歩いてみるかな?」

 今まで居た荒廃した地面では無い。
 キチンと整備され、人々によって活気が溢れる街がここにはある!
 なら、散策するのが一番だよな。

「それじゃあ、早速出発だぁっ――」

 そうして、記念の第一歩を踏み出そうとしたところ、近くにいたプレイヤーにぶつかってしまい……転んでしまう。

 めのまえが まっくらに なった!

《HPが0になりました
 (残り蘇生時間60秒)
 即座に死に戻りを選択しますか?
 [スキルの合計Lvが100になるまでは、何も失うことはありません]
    〔YES〕/〔NO〕》

 ……へっ? 俺、死んだの?
 EHOを始めてから現実では3週間程経過したが、確かに死んだ経験は何度かある。
 生産時は魔力で防御をしているし、平時であろうとある程度の対策はしていたが、最初の頃は何もできなかったからな。
 なんせ、HPは1しか無いんだ。
 何かをしなければファミコン版のスぺラ◯カーのようにあっさりと死んでしまう。

 なので、そうした装備の数々をポケットの中に仕舞って置いたのだが……プレイヤーにぶつかったから効果が機能しなかったのか?
 今までに経験したことがない出来事なだけあって、中々考え方が纏まらないな。

(あ、でも。とりあえず死に戻ろう)

 このままでは、晒し者でしかない。
 初期地点であるこの場所で死亡?
 絶対に面倒事になるだろうが!
 ならばいっそのこと、丁度何のデメリットもない死に戻りでこの場から消え去った方がいいに決まっている(というか、俺のスキルLvが100になることってあるのか? いつかはそうなるかも知れないが……なんでだろうか、全然その未来が見えてこない)。

 そう考えた俺は、〔YES〕を押してこの場から消え去る。
 ん? 確か、死に戻りの場所はある程度固定されるんだよな。
 今までは問題なかったけど、これからはそうはいかないんだった。
 結晶に触れれば、その街の結晶前で復活できるようになるんだが……俺、まだ触ってないぞ。

 つまり、俺の死に戻り場所は……。


 この後、『SEBAS』に愚痴を零してから、再びこの地へと舞い戻った。


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