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もののけ庵〜魍魎の廓〜

尊(みこと)

花街の祭





  店を開けるだいぶ前から、尊禍が言ったように小雨が降っていた。まだ男の姿のままで、雨が嫌いなのか不機嫌そうに煙管を燻らせる。

尊禍「そういやあ、今日は年に一度の花街の祭じゃなかったか?」

道世「ああ、そうだったねぇ。ご覧よ、まだ明るいってのに沢山の色とりどりの傘一つ一つに男女が寄り添って屋台を見ているよ。」

尊禍「祭で雨かー...たしかお前、客と祭見に行く予約してなかったか?」

 道世はしとしと降る雨を窓越しに見つめながら、ハァと短く溜息をついてかぶりを振った。

道世「この雨じゃダメだね。あの男は雨が大嫌いだから祭どころか店に来るかどうか。まぁ、私達は返す借金もないからどっちでもいいけど気になるねぇ...最近様子を見に行ってないじゃないか。そうだ、開店までまだ時間がある。二人で祭を見がてら、行ってみないかい?」

尊禍「冗談言うな、お前と歩いてたら俺がお前の客だと思われるだろうが。それに...雨降りの祭は...」

 道世も最後の意味深な言葉に暗い表情で頷いた。
 花街の祭は一般人も楽しむ事ができ、大門の中で夜更けまで行われるため、普段の閉門時間よりずっと遅くまで開いている。遊女も客も、恋人も家族も沢山の人間で溢れるため、監視員の目もゆるくなりがちだ。
 つまり、真剣な恋に落ちた客と遊女が足抜け(駆け落ち)する絶好の機会なのだった。

 もちろん足抜けは花街では大罪とされていて、逃げ出した遊女と連れ出した若者、見つかり次第廓の地下で二人共目を覆いたくなるような拷問にかけられる。拷問による死も珍しくはない。よしんば奇跡的に生き残った遊女も、格を下げられたり安店に移されたりする。
 二人には縁が無い事ながらも、花街で働く限り悲しく暗い影がある事を熟知しているのだ。

道世「でも今の季節は寒いし、あそこは人間の流行病が流行る時期だよ...」

 心配する声を出す道世に、尊禍が折れた。

尊禍「分かった分かった、行きゃあいいんだろ。ただし、あそこに着くまではお前も人間の男に化けとけ。」

 道世は頷き、片膝を軸にしてクルリと回ると猫の耳と尾も消え、瞳も人間のものになった。漆黒の長髪を高く一本結びにして淡い水色の着物を着流しにした若者の姿になった。
 尊禍も耳と尾を引っ込め、髪と同じく銀白色の着物を着流し、二人で雨降りの花街祭へと足を運んだのだった。

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