Σ:エンブレム 他人恋愛症候群
市谷零 と二人の勇者
「お付きの騎士さんもいなくなったし、もうお前を守る者は誰もいない。せっかくの、勇者の儀に観客がいないのは残念だが二人だけの戦いも悪くない」
僕は女のことしか頭にないと思っていた最低男だが、剣道の名門校の部員であることを失念していたらしい。高身長に黒い袴が良く似合い、構えた剣も様になっている。さながら、相対するは時代錯誤ではあるが武士に相違ない。
文句なしの強敵である。
「周知の事実をわざわざ口に出して言わなくてもいいよ。お互い、決着がついて戦場に行ったと思ったら、味方全滅なんて笑い話にもならないだろ? 時は金なりだ。時間の浪費は避けたいだろ?」
「本当にノリの悪い男だな。実は友達いないだろ?」
「逆にだ。これから殺し合い男と難を楽しく談笑すればいいんだ? 修学旅行の夜みたいにまくらを並べて
みお互いの好きな人の話でもするか?」
「それもそれで楽しそうだな」
会話はそこで終わる。
誰も見ていない二人だけの戦争の開戦の狼煙でしかない。
錬は実際には目には見えないが、なんとなく感じるのはこれで3度目となるがやはり僕から見ても、強烈な威圧感を放っている。
見えないけど、威圧感があるのがこれおほどまでに戦う上で、脅威だとは思わなかった。
「本当に同じ日本人かよ」
「見た目で分からないのかよ?」
取りあえず、剣を構える。幸いにして、聖剣は刃渡りが長くて、幅も20センチと広い。日本刀とは根本的に仕様の異なり、似ていると言えば西洋の大剣に酷似している。
大剣は重量をもって、肉をも砕くのが基本戦力。それに対し、日本刀は速度をもって斬るのが基本戦術。同じ剣でも違う。
たとえ、相手が大剣を使用しての訓練期間はあくまで10日程度の話。いくら剣道の達人と言え、剣術でのハンデはそこまでないだろう。そう思わないと、僕としてもやってられない。
僕は全力でかけて、何もせずに剣で戦う。
「そんなに早く死にたいのかよ」
「それはどうかな?」
前に騎士に使った一瞬で斜めに移動して、相手の死角に潜り込んでいく。そして、死角から剣を上段に構え、そのまま倒そうとした。が、なんなく予期していたかのように余裕で受け止められてしまっている。
「バスケのフェイントの応用。出来は見事だけど、剣術を舐めすぎているよ」
「違う騎士には通用したから何とかなるかと思ったんだが」
「確かに、一瞬は驚いた。でも、所詮は子供騙しだ。剣には不要な動作が入るから、次の手までがお粗末すぎる」
筋力が物を言わせる鍔迫り合いになると圧倒的に僕が不利になる。基礎的な筋力量も帰宅部の僕とバリバリの剣道部員では話にならない。
すぐさま、後ろに後退して剣の間合いから逃げる。
「話にならない。実力差は理解しただろ?」
「錬の力があるからだろ?」
「残念ながら、俺はまだ錬なんか使っちゃいない。これは純粋な力の差だよ」
別に驚きはしない。僕の当初の想定通りと言えば、そうなんだけど…………近接戦闘は絶望的。剣術の腕は変わらなくとも、筋肉量が異なるのでそもそものパワーの桁が違う。やはり距離をとるのが得策。正面を向いてながらも、ゆっくりと後退する。
「撃ち合おうぜ。これから燃える展開じゃんかよ」
距離は目測で20メートル。これだけあれば、すぐさま攻撃するにしても遠距離攻撃がない限りは無理だろう。そう思っていると、僕は殺気を感じてほぼ反射的に剣を盾にして、剣道部の攻撃を防ぐ。
僕の動体視力ではまったく視認出来なかった。瞬間移動したみたいに、一瞬であの距離を詰めて来た。僕はそのまま剣に弾かれ、100メートルほど後方まで飛ばされた。刃の直撃は防いだものも、運動量は凄まじく受け身などとる暇もなかった。
「おいおい。今のはただの挨拶だろうが。もう終わりか、イケメン?」
「心配ご無用。こんなのただのかすり傷に過ぎないよ」
すぐに立ち上がる。あまりこちらが弱っていると思われたくなかったから、意地だ。本音としては、打ち身で体が痛いし、衝撃で身体の方も限界。次に同じような攻撃を受ければ立ち上がれない。今だって、立っているのがやっとだ。
背中からには壁の破片が若干刺さっている。それに額から血も垂れてきた。
完全に、油断していた証拠だ。これは命の取り合いであることを失念していた。いや、単純に相手を格下だと馬鹿にしていた。
「今のがお望みの錬だ。正確には内力活径を使用した脚力強化だ。回数制限切れとかせこいこと狙って来そうだから、予めに言っておくがそんなことは起こりえない。そもそも俺の場合は錬の量が並外れている。だが、あり過ぎて未だに制御しきれずに錬を垂れ流ししているんだけどな」
性格は馬鹿一直線だから、付け入る隙はある。この手のキャラは大抵、嘘はあまり得意ではないし、つかないと考えていい。でも、あの瞬間移動にも近い攻撃は回避不能。それを回数無制限で打てるとなるともう出し惜しみなしで全力を持って挑むしかない。相手は強者と心得よ。今一度、心に刻む。
「さっき剣を舐めているって言ったよな。だが、お前も僕を馬鹿にしている。今のが僕を倒すことの出来た最後の機会だった。追撃して来なかったのを一生後悔しろ」
「口だけは達者だな。良くいるよ、そういう連中。俺は何度も口だけは達者な連中を打ち負かしてきた」
「流石は名門校の剣道部のレギュラーは言うことが違うな。言葉に重みを感じるよ。でもな、剣道部。別にお前だけがこの10日間。努力してきた訳じゃないんだぜ? 僕だって異世界で遊んで過ごしてきた訳じゃないさ」
聖剣を改めて握りなおす。
「僕の信念として、与えられっ放しなのは気に食わないし。僕からもご教授して差し上げよう。聖剣の使い方を」
僕がイメージするのは剣。日本刀はだめだ。そうだな…………この聖剣と同じく重量があって、強度のある剣。数は3本でいい。
「まず、初めにだ。この聖剣には剣製作スキルがある。レプリカだが、スキルは健在。使えばこういう風になる」
現実として、僕の剣が空中に3本もある。これがこの聖剣だけに与えられた力。僕的には力って表現が好きじゃないからスキルって便宜上名付けた。剣であれば、形を問わずどんなものでも作ることが可能。
「防いでみろよ、剣道部」
剣はひとりでに飛び、三者三様の軌道を描き、剣道部を捉える。速度はメジャーリーガーの豪速球並みの160キロ。剣道部の俊足には劣るが、早いことに変わりはない。勿論、これがトップスピードって訳じゃない。
しかし、剣道部は眉一つ動かさずにすべての剣を2本の剣で、3本の剣を撃ち落とした。そして、こっそり僕の後ろに作成した不意打ちの剣をも撃ち落とした。
全く同一な2本の聖剣によって。明らかに先ほどまでは無かった。
「本当に卑怯な男だな」
「…………なんで剣道部まで剣作成スキル使えんだよ。僕のどや顔を返せ」
「剣作成スキル? 確か、複製って言われたんだけどな。ともかく、習ったんだよ」
習った? いや、ちょっと習うって、確かあの爺さんが…………いや、でも。
僕の中に悪寒が走った。いや、この結論に至るのはまだ早計だ。
「誰に習ったんだ?」
「誰って? 騎士団長のブラハムに決まってんだろ? 僕の教育係はブラハムだけだ。女ではなかったが、騎士団長直々だから許してやったよ。分かるか、お前は落ちこぼれの騎士が教育係だったが、俺は騎士団長。民は皆、俺に期待しているんだよ。あっさりと負けを認めてもらえないか。俺としても同郷の人間を殺すのは後味が悪い」
「…………剣道部。この城内で起きていた殺人事件について知っているか?」
「知らん。それがどうした?」
騎士団長のブラハム。僕にはその名前に聞き覚えはあるものの、面識はない。
前にあの騎士から聞いた話によると、騎士団長殿は元々武人ではないと聞く。現在、騎士団長が殺されたため元々の財政長と兼任する形で、名前だけで役職を兼任しているとか。いや、それもおかしな話だ。
僕は城にいた時間が少ないせいで、情報が圧倒的に少ない。
でも、この国で最悪な出来事が起ころうとしている。それだけは間違いがない。他人から聞いた事実を結んでいき推理していくと、それしか残念ながらそれしか良いアイディアは思い浮かばない。出来れば、もっとレイから詳しい話を聞きたいがそんな時間は許されないだろう。
ここから先の展開を読み間違えば、断言できる。この国は殺人鬼によってベリアルを倒せず、終焉を迎える。だからこそ、僕は一手たりとも間違えることは許されない。この男は少なくとも敵ではない。人員不足のこの状況で、殺している暇はない。
「…………悪いな、剣道部。少々、用事が出来てしまった。さっさと倒されてくれ」
「俺を馬鹿にしすぎなんだよ。本気でぶっ殺すぞ」
「強い言葉を使うのが格好良いと思って良いのは中学生までだ」
剣を5本。同時に造り出せる限界まで本数まで作る。形状をわざわざ変える必要はない。剣に必要なのは攻撃力。いや、それも必要ない。得意な近接戦闘に持ち込ませないように牽制するだけでいい。
剣を飛ばす。時間差で適当に当たりを付けて、剣道部を狙う。同時進行で、剣を生成する。常に戦うのは自分。まさに今回はそんな闘いだ。
剣の生成と軌道を描く脳内処理でえらい頭痛がする。頭が熱を持つ。PCの熱武装のような現象が起きている。
「おいおい。錬はもう使ってこないのか?」
約1秒に一本飛んでくるような豪速の剣を捌き切るのは並みの器量ではこなせない。だが、そんなことをぎりぎりながらもこなす剣道部の腕は言うまでもなく一流に近い。
「くっそ。卑怯者め」
「卑怯なんて言うなよ。僕からしたら、近接戦で勝てない以上はこうするしか僕には手がない。逆に、手を抜く方が失礼だと思ったんだがな」
「単なる努力不足だろうが。こっちとら3歳から剣握っているんだ。キャリアが違うんだよ」
それを言われれば、卑怯と言われるのは致し方ない。努力不足は僕としても実感しているんだ。
「耳が痛いな。なら、僕もそろそろ努力の成果を見せてやるよ。忠告してやるよ。僕の攻撃を避けろ。間違っても、剣で受け止めたりはするなよ」
魔術回路を通して、魔力を生成する。それを魔術刻印に流す。魔女に扱かれて、慣れたものだ。2秒ほどで出来る単純な作業にまで昇華した。
「行くぞ。イミテンション・レイ」
僕の右腕の魔術刻印が激しく発光する。
魔女のものと比べても遜色ない一撃。一直線に進む光。それは触れただけで原子レベルまで分解する殺戮の光。欠点としては、速度が遅い。別に一般人からしたら、早いのは無論だ。しかも、直線だから軌道が読みやすい。
飛ぶ剣を完璧に撃ち落とせるだけの視力があれば、十分に避けられる。止まって見えるだろう。あくまで変に防ごうとしなければの話だ。剣では絶対に防ぐことは不可能。
「そんな攻撃…………」
本能で気が付いたのだろう。初めは避ける気がさらさら無さそうな雰囲気だったが、はっと気が付いたように避けた。
「良く話を聞いたな。てっきり、馬鹿な意地を張って、避けないと思ったのだけど」
「…………殺気が本物だったからな」
「今のが僕の努力の成果。これが魔術だ」
「そうかよ………死ね」
錬の脚力強化を用いた瞬間移動だ。
「馬鹿は単純でいいよな。楽に行動が読める」
剣道部は僕の少し手前で何かを察知して止まった。そして、後ろに向かって同じく脚力強化を用いた瞬間移動で下がった。
剣道部は前方から飛んできた剣をギリギリで弾いた。勿論、飛ばしたのは僕だ。だが、剣道部もとっさの行動に加減が出来ず足で床を削った。その衝撃、優しくなかったと見える。靴なんて高尚なものがない以上、足のダメージは軽くない。
「…………お前」
「並外れた視力に救われたな。でなければ、即死だった」
僕がしたのは至極単純。僕と剣道部を結ぶ直線上に剣を生成したのだ。生成した剣の形状はレイピアのように細く、突き刺すことを目的とした剣だ。そのまま突撃すれば、脳まで貫通し、即死だ。
「だって、剣道部。お前のその瞬間移動は文字通り。直線にしか進めないんだろ? しかも、ブレーキが利かない。今だって、発動のほんの少しだけ直前に剣を発見したから発動を止めようとしたが、キャンセルできず結局は剣の直前で運よく止まることになった。言ったよな。自分のことを未熟者だってさ」
「一度見ただけでそれを看破するなんて化け物かよ」
「仮説が立ったから確信を得るための軽い実験だったのだが、おかげで望んだ結論が出せただけ。逆に、避
けて突進して来られたら流石の僕としてもお手上げだよ。まぁ、見つけたばかりの未熟者には到底不可能な芸当だとは初めから確証していたよ。それに…………いや、これは言う必要ない。これで王手だ。投降しろ」
「複製は2本しか出来ないと聞いていたんだがな。それも魔術なのかよ」
「やっぱりな。お前は聖剣の能力を聞いたと言っていたが、それはこの勇者選抜の儀において禁止行為なんだよ。それを騎士団長クラスが把握していない訳じゃないだろ。うっかり間違えたなんて通るほど、安い儀式ではないだろ」
「…………何が言いたいんだよ。もったいぶらないではっきりと言えよ」
剣道部は会話を続けて、策を考える算段なのだろう。距離を保って攻撃は仕掛けてくる様子はない。剣道部は必殺の瞬間移動を見破られ、完璧な対策を練られた。もう一度同じことをしても意味がないと言うもの。新たな手を考える必要があるからな。その間に話くらいは聞いてくれるだろう。
「そもそも言ったよな。複製じゃないのかと。きっと教えた人物もまた聞きで不確かな情報を教えたんだろうな。全く、騎士団長もぬかったよな。行動の詰めが甘い。確かに、一見してそのようにもとれる。だが、間違っている。僕はこの国の古い文献を片っ端からあたって、聖剣に関する記述を調べたからな。その時に、偉い学者に言われたんだよ。聖剣について城の者が話すのは禁止事項だと国王から直々に最上級命令が出ている。だから、僕は自分の手で調べた」
剣道部は無反応。
「だから、何だとは言わないのか? 言わなくても分かるよな。騎士団長クラスの人物が知らぬ存ぜぬで通る道理はないよな。それに知っていたか? 騎士団長は今の地位に着くまでは武人でもなんでもなく財政大臣だったらしいのだぜ。それが騎士団長だってよ。しかも、教育係として、錬すら使える。元々は武人でないのに。世の中にはけったいな話もあるもんだよな。そう思わないか?」
これだけ言っておけば、十分かな。時間的にもこれくらいが限界だろう。
「結論を言う。証拠はないが城内で騎士殺しを行った犯人は騎士団長である可能性がとても高い。仮にそうでなくとも、何か悪さをしようとしていることは間違いない。経歴を明らかに故意に隠しているし、胡散臭すぎる」
「そうかよ。俺が王になったら、問い詰めておいてやるよ」
「それは良かったよ。これで思い残すことは無い。これで幕引きだ」
侍の服装をした二人が向き合う。僕なんかは剣なんて扱えないが、それでも武士の果し合いの気分だ。廊下は西洋風だし、二人は武士だしと側から見ればちょっと不思議な絵になるだろう。
ついに心を決めたのか剣道部からは殺気がひしひしと伝わってくる。日本の高校生でもトップクラスとなるとやっぱり迫力が違うな。
「いざ、尋常に勝負」
先行はやはり剣道部だ。脚力強化を用いた瞬間移動は使わずに、走ってくる。それを僕は剣を生成して飛ばし、牽制する。
剣製作スキルは相手が厄介で面倒なのは言うまでもないけど、僕自身の負担も当然、少なくない。そりゃそうだろ。イメージするだけで剣を造れるなんて能力がいくら聖剣の力と言えど、無制限に使える訳がない。世の中はそんなにどこも甘くなんかない。
限界までリキャストを減らしても、相手に距離を詰められてしまう。
「イミテンション・レイ」
僕は剣の製作スピードを少し下げて、魔術を発動する。当然、僕が造った剣とて魔術を食らえば、消えるから、ギリギリ当たらないように殺人光線を剣道部が避けたところを狙う。だが、それは相手とて理解しているので当たらない。
「このままだと膠着状態になるな…………くっそ」
この展開は宜しくない。伊達に剣道部が実力あるばかりにこのままだと押し切れない。剣道部がミスをすれば、終わるがそんなに僕の方が継続できない。あと、数分で頭がオーバーヒートして、動けなくなる。それは騎士との練習で実際に、起きた現象だ。
だから、僕は勝負に出る。剣を片手にも持ち、前に出た。初手のダメージで身体が痛いがそんなのはまだ我慢できる。負けることに比べれば、そのくらいのダメージないものと同じ。
「おいおい。賢いようで、馬鹿だな。イケメン君よ」
「イミテンション・レイ」
魔術と剣で牽制して、自由に動く隙なんて一秒だって作らせない。
剣道部は目が慣れて来たのか段々、無駄のない動きに最適化されつつある。二本の剣で器用に弾き、魔術を寸でのところで避ける。今のところ僕の攻撃は何一つ当たってはいない。
「覚悟を決めたのはお前だけじゃないんだよ」
右手に剣を持ち、斬りかかる。受け止められるのは覚悟のうち。そして、またしても剣道部の聖剣との鍔迫り合いが起こる。
お互い片手だが、剣道部は片手に剣を持っている。
そして、剣道部が力任せに僕を押し、バランスを崩したところをもう一方の剣で斬りかかってくる。
「これで終わりだ」
「その馬鹿の一つ覚えが命取りになるんだよ。お利口さん。フレア」
大ぶり軌道の剣道部の剣が当たる前に、バランスを直ぐに立て直した僕は左手を剣道部の腹に触れた。そして、剣道部を爆破する。
「くっそ。痛ぇな…………だが、読んでいた」
トイレのドアくらいなら簡単に服飛ばせるような小型爆弾を直撃させたようなものなのに、剣道部はダメージを受けた様子もない。
それどころか、この機会を狙っていたとばかりだ。剣道部のここ一番の殺気。これで決めるつもりだ。
「これで終わりだ」
剣道部が消えた。この距離で錬を使われていた。きっと、姿を目で見る頃には決着がついている。
やばい。抑えようとしていたが、どうしても少し笑ってしまう。
「お前のその傲慢。それが今回の敗因だ」
身体能力超向上。
魔女にかなり無理を言って教えてもらった魔術を発動する。さっきの爆破とは桁違いに難易度が高かった。時間的にも奇跡的に習得できた
使えば、身体の能力が全体的に5倍にまで跳ね上がる。一部を爆発的に強化する錬とは違うが、時間制限と回数制限が魔術にはどうしてもある。僕の現時点では最強の切り札だ。
「死ね」
天井から剣道部が飛んでくる。きっとまず、上に飛んでそれから天井に到着。そして、天井を今度は踏み台にして、重力と錬の強化で落ちて来た。手には二本の聖剣を交差して、構えている。
僕は剣を両手で構える。剣道の中段の構え方と同じだ。
「世界の終わり(フィニッシャー)」
そして、上に向かって虚空を斬る。その斬撃は虚空を斬るだけではない。剣の通った軌道がやがて刃となり、真上に音速で飛んでいく。それは初見ではまず回避不能。
これは勇者に与えられた力。魔を撃つための最強の一撃。
確かな名称がなかったので僕は世界の終わりと名付けた。
剣道部は避けることも叶わず、一撃を叩きつけられその勢いで、天井に激突。アニメや漫画みたく壁に人型の型が出来ることは無かった。でも、音をからして激しい勢いでぶつかったのが分かる。そして、そのまま落下した。
「感謝しろよ。峰打ちにしてやったんだから」
剣道部はもう起き上がらなかった。爆発で服もボロボロになっていた上に、剣の風圧で斜めに着物が破れていた。所々、血が出ているが大丈夫そうだ。でも、普通に骨とか折れていても不思議ではない高さから落ちているので身体はそうとう痛みが残っているだろう。
真剣に殺し合いをしたんだ。このくらいは我慢してくれ。
剣道部は目だけ開いていて、意識があるのは分かる。僕なら気絶するようなもんなのに、本当に驚嘆するほどタフな男だ。そこは尊敬するよ。
「僕の勝ちで構わないな?」
「…………好きにしろよ。あんな技使われたら勝てないよ」
「素直でよろしい。あと、負けたんだからちゃんと仕事しろよな」
僕は落ちていた剣道部の聖剣を拾う。
これで、僕が勇者だ。
なんとか、レイにはこれで面目が立つ。本当に良かった。いや、良かったのだろうか。
僕は女のことしか頭にないと思っていた最低男だが、剣道の名門校の部員であることを失念していたらしい。高身長に黒い袴が良く似合い、構えた剣も様になっている。さながら、相対するは時代錯誤ではあるが武士に相違ない。
文句なしの強敵である。
「周知の事実をわざわざ口に出して言わなくてもいいよ。お互い、決着がついて戦場に行ったと思ったら、味方全滅なんて笑い話にもならないだろ? 時は金なりだ。時間の浪費は避けたいだろ?」
「本当にノリの悪い男だな。実は友達いないだろ?」
「逆にだ。これから殺し合い男と難を楽しく談笑すればいいんだ? 修学旅行の夜みたいにまくらを並べて
みお互いの好きな人の話でもするか?」
「それもそれで楽しそうだな」
会話はそこで終わる。
誰も見ていない二人だけの戦争の開戦の狼煙でしかない。
錬は実際には目には見えないが、なんとなく感じるのはこれで3度目となるがやはり僕から見ても、強烈な威圧感を放っている。
見えないけど、威圧感があるのがこれおほどまでに戦う上で、脅威だとは思わなかった。
「本当に同じ日本人かよ」
「見た目で分からないのかよ?」
取りあえず、剣を構える。幸いにして、聖剣は刃渡りが長くて、幅も20センチと広い。日本刀とは根本的に仕様の異なり、似ていると言えば西洋の大剣に酷似している。
大剣は重量をもって、肉をも砕くのが基本戦力。それに対し、日本刀は速度をもって斬るのが基本戦術。同じ剣でも違う。
たとえ、相手が大剣を使用しての訓練期間はあくまで10日程度の話。いくら剣道の達人と言え、剣術でのハンデはそこまでないだろう。そう思わないと、僕としてもやってられない。
僕は全力でかけて、何もせずに剣で戦う。
「そんなに早く死にたいのかよ」
「それはどうかな?」
前に騎士に使った一瞬で斜めに移動して、相手の死角に潜り込んでいく。そして、死角から剣を上段に構え、そのまま倒そうとした。が、なんなく予期していたかのように余裕で受け止められてしまっている。
「バスケのフェイントの応用。出来は見事だけど、剣術を舐めすぎているよ」
「違う騎士には通用したから何とかなるかと思ったんだが」
「確かに、一瞬は驚いた。でも、所詮は子供騙しだ。剣には不要な動作が入るから、次の手までがお粗末すぎる」
筋力が物を言わせる鍔迫り合いになると圧倒的に僕が不利になる。基礎的な筋力量も帰宅部の僕とバリバリの剣道部員では話にならない。
すぐさま、後ろに後退して剣の間合いから逃げる。
「話にならない。実力差は理解しただろ?」
「錬の力があるからだろ?」
「残念ながら、俺はまだ錬なんか使っちゃいない。これは純粋な力の差だよ」
別に驚きはしない。僕の当初の想定通りと言えば、そうなんだけど…………近接戦闘は絶望的。剣術の腕は変わらなくとも、筋肉量が異なるのでそもそものパワーの桁が違う。やはり距離をとるのが得策。正面を向いてながらも、ゆっくりと後退する。
「撃ち合おうぜ。これから燃える展開じゃんかよ」
距離は目測で20メートル。これだけあれば、すぐさま攻撃するにしても遠距離攻撃がない限りは無理だろう。そう思っていると、僕は殺気を感じてほぼ反射的に剣を盾にして、剣道部の攻撃を防ぐ。
僕の動体視力ではまったく視認出来なかった。瞬間移動したみたいに、一瞬であの距離を詰めて来た。僕はそのまま剣に弾かれ、100メートルほど後方まで飛ばされた。刃の直撃は防いだものも、運動量は凄まじく受け身などとる暇もなかった。
「おいおい。今のはただの挨拶だろうが。もう終わりか、イケメン?」
「心配ご無用。こんなのただのかすり傷に過ぎないよ」
すぐに立ち上がる。あまりこちらが弱っていると思われたくなかったから、意地だ。本音としては、打ち身で体が痛いし、衝撃で身体の方も限界。次に同じような攻撃を受ければ立ち上がれない。今だって、立っているのがやっとだ。
背中からには壁の破片が若干刺さっている。それに額から血も垂れてきた。
完全に、油断していた証拠だ。これは命の取り合いであることを失念していた。いや、単純に相手を格下だと馬鹿にしていた。
「今のがお望みの錬だ。正確には内力活径を使用した脚力強化だ。回数制限切れとかせこいこと狙って来そうだから、予めに言っておくがそんなことは起こりえない。そもそも俺の場合は錬の量が並外れている。だが、あり過ぎて未だに制御しきれずに錬を垂れ流ししているんだけどな」
性格は馬鹿一直線だから、付け入る隙はある。この手のキャラは大抵、嘘はあまり得意ではないし、つかないと考えていい。でも、あの瞬間移動にも近い攻撃は回避不能。それを回数無制限で打てるとなるともう出し惜しみなしで全力を持って挑むしかない。相手は強者と心得よ。今一度、心に刻む。
「さっき剣を舐めているって言ったよな。だが、お前も僕を馬鹿にしている。今のが僕を倒すことの出来た最後の機会だった。追撃して来なかったのを一生後悔しろ」
「口だけは達者だな。良くいるよ、そういう連中。俺は何度も口だけは達者な連中を打ち負かしてきた」
「流石は名門校の剣道部のレギュラーは言うことが違うな。言葉に重みを感じるよ。でもな、剣道部。別にお前だけがこの10日間。努力してきた訳じゃないんだぜ? 僕だって異世界で遊んで過ごしてきた訳じゃないさ」
聖剣を改めて握りなおす。
「僕の信念として、与えられっ放しなのは気に食わないし。僕からもご教授して差し上げよう。聖剣の使い方を」
僕がイメージするのは剣。日本刀はだめだ。そうだな…………この聖剣と同じく重量があって、強度のある剣。数は3本でいい。
「まず、初めにだ。この聖剣には剣製作スキルがある。レプリカだが、スキルは健在。使えばこういう風になる」
現実として、僕の剣が空中に3本もある。これがこの聖剣だけに与えられた力。僕的には力って表現が好きじゃないからスキルって便宜上名付けた。剣であれば、形を問わずどんなものでも作ることが可能。
「防いでみろよ、剣道部」
剣はひとりでに飛び、三者三様の軌道を描き、剣道部を捉える。速度はメジャーリーガーの豪速球並みの160キロ。剣道部の俊足には劣るが、早いことに変わりはない。勿論、これがトップスピードって訳じゃない。
しかし、剣道部は眉一つ動かさずにすべての剣を2本の剣で、3本の剣を撃ち落とした。そして、こっそり僕の後ろに作成した不意打ちの剣をも撃ち落とした。
全く同一な2本の聖剣によって。明らかに先ほどまでは無かった。
「本当に卑怯な男だな」
「…………なんで剣道部まで剣作成スキル使えんだよ。僕のどや顔を返せ」
「剣作成スキル? 確か、複製って言われたんだけどな。ともかく、習ったんだよ」
習った? いや、ちょっと習うって、確かあの爺さんが…………いや、でも。
僕の中に悪寒が走った。いや、この結論に至るのはまだ早計だ。
「誰に習ったんだ?」
「誰って? 騎士団長のブラハムに決まってんだろ? 僕の教育係はブラハムだけだ。女ではなかったが、騎士団長直々だから許してやったよ。分かるか、お前は落ちこぼれの騎士が教育係だったが、俺は騎士団長。民は皆、俺に期待しているんだよ。あっさりと負けを認めてもらえないか。俺としても同郷の人間を殺すのは後味が悪い」
「…………剣道部。この城内で起きていた殺人事件について知っているか?」
「知らん。それがどうした?」
騎士団長のブラハム。僕にはその名前に聞き覚えはあるものの、面識はない。
前にあの騎士から聞いた話によると、騎士団長殿は元々武人ではないと聞く。現在、騎士団長が殺されたため元々の財政長と兼任する形で、名前だけで役職を兼任しているとか。いや、それもおかしな話だ。
僕は城にいた時間が少ないせいで、情報が圧倒的に少ない。
でも、この国で最悪な出来事が起ころうとしている。それだけは間違いがない。他人から聞いた事実を結んでいき推理していくと、それしか残念ながらそれしか良いアイディアは思い浮かばない。出来れば、もっとレイから詳しい話を聞きたいがそんな時間は許されないだろう。
ここから先の展開を読み間違えば、断言できる。この国は殺人鬼によってベリアルを倒せず、終焉を迎える。だからこそ、僕は一手たりとも間違えることは許されない。この男は少なくとも敵ではない。人員不足のこの状況で、殺している暇はない。
「…………悪いな、剣道部。少々、用事が出来てしまった。さっさと倒されてくれ」
「俺を馬鹿にしすぎなんだよ。本気でぶっ殺すぞ」
「強い言葉を使うのが格好良いと思って良いのは中学生までだ」
剣を5本。同時に造り出せる限界まで本数まで作る。形状をわざわざ変える必要はない。剣に必要なのは攻撃力。いや、それも必要ない。得意な近接戦闘に持ち込ませないように牽制するだけでいい。
剣を飛ばす。時間差で適当に当たりを付けて、剣道部を狙う。同時進行で、剣を生成する。常に戦うのは自分。まさに今回はそんな闘いだ。
剣の生成と軌道を描く脳内処理でえらい頭痛がする。頭が熱を持つ。PCの熱武装のような現象が起きている。
「おいおい。錬はもう使ってこないのか?」
約1秒に一本飛んでくるような豪速の剣を捌き切るのは並みの器量ではこなせない。だが、そんなことをぎりぎりながらもこなす剣道部の腕は言うまでもなく一流に近い。
「くっそ。卑怯者め」
「卑怯なんて言うなよ。僕からしたら、近接戦で勝てない以上はこうするしか僕には手がない。逆に、手を抜く方が失礼だと思ったんだがな」
「単なる努力不足だろうが。こっちとら3歳から剣握っているんだ。キャリアが違うんだよ」
それを言われれば、卑怯と言われるのは致し方ない。努力不足は僕としても実感しているんだ。
「耳が痛いな。なら、僕もそろそろ努力の成果を見せてやるよ。忠告してやるよ。僕の攻撃を避けろ。間違っても、剣で受け止めたりはするなよ」
魔術回路を通して、魔力を生成する。それを魔術刻印に流す。魔女に扱かれて、慣れたものだ。2秒ほどで出来る単純な作業にまで昇華した。
「行くぞ。イミテンション・レイ」
僕の右腕の魔術刻印が激しく発光する。
魔女のものと比べても遜色ない一撃。一直線に進む光。それは触れただけで原子レベルまで分解する殺戮の光。欠点としては、速度が遅い。別に一般人からしたら、早いのは無論だ。しかも、直線だから軌道が読みやすい。
飛ぶ剣を完璧に撃ち落とせるだけの視力があれば、十分に避けられる。止まって見えるだろう。あくまで変に防ごうとしなければの話だ。剣では絶対に防ぐことは不可能。
「そんな攻撃…………」
本能で気が付いたのだろう。初めは避ける気がさらさら無さそうな雰囲気だったが、はっと気が付いたように避けた。
「良く話を聞いたな。てっきり、馬鹿な意地を張って、避けないと思ったのだけど」
「…………殺気が本物だったからな」
「今のが僕の努力の成果。これが魔術だ」
「そうかよ………死ね」
錬の脚力強化を用いた瞬間移動だ。
「馬鹿は単純でいいよな。楽に行動が読める」
剣道部は僕の少し手前で何かを察知して止まった。そして、後ろに向かって同じく脚力強化を用いた瞬間移動で下がった。
剣道部は前方から飛んできた剣をギリギリで弾いた。勿論、飛ばしたのは僕だ。だが、剣道部もとっさの行動に加減が出来ず足で床を削った。その衝撃、優しくなかったと見える。靴なんて高尚なものがない以上、足のダメージは軽くない。
「…………お前」
「並外れた視力に救われたな。でなければ、即死だった」
僕がしたのは至極単純。僕と剣道部を結ぶ直線上に剣を生成したのだ。生成した剣の形状はレイピアのように細く、突き刺すことを目的とした剣だ。そのまま突撃すれば、脳まで貫通し、即死だ。
「だって、剣道部。お前のその瞬間移動は文字通り。直線にしか進めないんだろ? しかも、ブレーキが利かない。今だって、発動のほんの少しだけ直前に剣を発見したから発動を止めようとしたが、キャンセルできず結局は剣の直前で運よく止まることになった。言ったよな。自分のことを未熟者だってさ」
「一度見ただけでそれを看破するなんて化け物かよ」
「仮説が立ったから確信を得るための軽い実験だったのだが、おかげで望んだ結論が出せただけ。逆に、避
けて突進して来られたら流石の僕としてもお手上げだよ。まぁ、見つけたばかりの未熟者には到底不可能な芸当だとは初めから確証していたよ。それに…………いや、これは言う必要ない。これで王手だ。投降しろ」
「複製は2本しか出来ないと聞いていたんだがな。それも魔術なのかよ」
「やっぱりな。お前は聖剣の能力を聞いたと言っていたが、それはこの勇者選抜の儀において禁止行為なんだよ。それを騎士団長クラスが把握していない訳じゃないだろ。うっかり間違えたなんて通るほど、安い儀式ではないだろ」
「…………何が言いたいんだよ。もったいぶらないではっきりと言えよ」
剣道部は会話を続けて、策を考える算段なのだろう。距離を保って攻撃は仕掛けてくる様子はない。剣道部は必殺の瞬間移動を見破られ、完璧な対策を練られた。もう一度同じことをしても意味がないと言うもの。新たな手を考える必要があるからな。その間に話くらいは聞いてくれるだろう。
「そもそも言ったよな。複製じゃないのかと。きっと教えた人物もまた聞きで不確かな情報を教えたんだろうな。全く、騎士団長もぬかったよな。行動の詰めが甘い。確かに、一見してそのようにもとれる。だが、間違っている。僕はこの国の古い文献を片っ端からあたって、聖剣に関する記述を調べたからな。その時に、偉い学者に言われたんだよ。聖剣について城の者が話すのは禁止事項だと国王から直々に最上級命令が出ている。だから、僕は自分の手で調べた」
剣道部は無反応。
「だから、何だとは言わないのか? 言わなくても分かるよな。騎士団長クラスの人物が知らぬ存ぜぬで通る道理はないよな。それに知っていたか? 騎士団長は今の地位に着くまでは武人でもなんでもなく財政大臣だったらしいのだぜ。それが騎士団長だってよ。しかも、教育係として、錬すら使える。元々は武人でないのに。世の中にはけったいな話もあるもんだよな。そう思わないか?」
これだけ言っておけば、十分かな。時間的にもこれくらいが限界だろう。
「結論を言う。証拠はないが城内で騎士殺しを行った犯人は騎士団長である可能性がとても高い。仮にそうでなくとも、何か悪さをしようとしていることは間違いない。経歴を明らかに故意に隠しているし、胡散臭すぎる」
「そうかよ。俺が王になったら、問い詰めておいてやるよ」
「それは良かったよ。これで思い残すことは無い。これで幕引きだ」
侍の服装をした二人が向き合う。僕なんかは剣なんて扱えないが、それでも武士の果し合いの気分だ。廊下は西洋風だし、二人は武士だしと側から見ればちょっと不思議な絵になるだろう。
ついに心を決めたのか剣道部からは殺気がひしひしと伝わってくる。日本の高校生でもトップクラスとなるとやっぱり迫力が違うな。
「いざ、尋常に勝負」
先行はやはり剣道部だ。脚力強化を用いた瞬間移動は使わずに、走ってくる。それを僕は剣を生成して飛ばし、牽制する。
剣製作スキルは相手が厄介で面倒なのは言うまでもないけど、僕自身の負担も当然、少なくない。そりゃそうだろ。イメージするだけで剣を造れるなんて能力がいくら聖剣の力と言えど、無制限に使える訳がない。世の中はそんなにどこも甘くなんかない。
限界までリキャストを減らしても、相手に距離を詰められてしまう。
「イミテンション・レイ」
僕は剣の製作スピードを少し下げて、魔術を発動する。当然、僕が造った剣とて魔術を食らえば、消えるから、ギリギリ当たらないように殺人光線を剣道部が避けたところを狙う。だが、それは相手とて理解しているので当たらない。
「このままだと膠着状態になるな…………くっそ」
この展開は宜しくない。伊達に剣道部が実力あるばかりにこのままだと押し切れない。剣道部がミスをすれば、終わるがそんなに僕の方が継続できない。あと、数分で頭がオーバーヒートして、動けなくなる。それは騎士との練習で実際に、起きた現象だ。
だから、僕は勝負に出る。剣を片手にも持ち、前に出た。初手のダメージで身体が痛いがそんなのはまだ我慢できる。負けることに比べれば、そのくらいのダメージないものと同じ。
「おいおい。賢いようで、馬鹿だな。イケメン君よ」
「イミテンション・レイ」
魔術と剣で牽制して、自由に動く隙なんて一秒だって作らせない。
剣道部は目が慣れて来たのか段々、無駄のない動きに最適化されつつある。二本の剣で器用に弾き、魔術を寸でのところで避ける。今のところ僕の攻撃は何一つ当たってはいない。
「覚悟を決めたのはお前だけじゃないんだよ」
右手に剣を持ち、斬りかかる。受け止められるのは覚悟のうち。そして、またしても剣道部の聖剣との鍔迫り合いが起こる。
お互い片手だが、剣道部は片手に剣を持っている。
そして、剣道部が力任せに僕を押し、バランスを崩したところをもう一方の剣で斬りかかってくる。
「これで終わりだ」
「その馬鹿の一つ覚えが命取りになるんだよ。お利口さん。フレア」
大ぶり軌道の剣道部の剣が当たる前に、バランスを直ぐに立て直した僕は左手を剣道部の腹に触れた。そして、剣道部を爆破する。
「くっそ。痛ぇな…………だが、読んでいた」
トイレのドアくらいなら簡単に服飛ばせるような小型爆弾を直撃させたようなものなのに、剣道部はダメージを受けた様子もない。
それどころか、この機会を狙っていたとばかりだ。剣道部のここ一番の殺気。これで決めるつもりだ。
「これで終わりだ」
剣道部が消えた。この距離で錬を使われていた。きっと、姿を目で見る頃には決着がついている。
やばい。抑えようとしていたが、どうしても少し笑ってしまう。
「お前のその傲慢。それが今回の敗因だ」
身体能力超向上。
魔女にかなり無理を言って教えてもらった魔術を発動する。さっきの爆破とは桁違いに難易度が高かった。時間的にも奇跡的に習得できた
使えば、身体の能力が全体的に5倍にまで跳ね上がる。一部を爆発的に強化する錬とは違うが、時間制限と回数制限が魔術にはどうしてもある。僕の現時点では最強の切り札だ。
「死ね」
天井から剣道部が飛んでくる。きっとまず、上に飛んでそれから天井に到着。そして、天井を今度は踏み台にして、重力と錬の強化で落ちて来た。手には二本の聖剣を交差して、構えている。
僕は剣を両手で構える。剣道の中段の構え方と同じだ。
「世界の終わり(フィニッシャー)」
そして、上に向かって虚空を斬る。その斬撃は虚空を斬るだけではない。剣の通った軌道がやがて刃となり、真上に音速で飛んでいく。それは初見ではまず回避不能。
これは勇者に与えられた力。魔を撃つための最強の一撃。
確かな名称がなかったので僕は世界の終わりと名付けた。
剣道部は避けることも叶わず、一撃を叩きつけられその勢いで、天井に激突。アニメや漫画みたく壁に人型の型が出来ることは無かった。でも、音をからして激しい勢いでぶつかったのが分かる。そして、そのまま落下した。
「感謝しろよ。峰打ちにしてやったんだから」
剣道部はもう起き上がらなかった。爆発で服もボロボロになっていた上に、剣の風圧で斜めに着物が破れていた。所々、血が出ているが大丈夫そうだ。でも、普通に骨とか折れていても不思議ではない高さから落ちているので身体はそうとう痛みが残っているだろう。
真剣に殺し合いをしたんだ。このくらいは我慢してくれ。
剣道部は目だけ開いていて、意識があるのは分かる。僕なら気絶するようなもんなのに、本当に驚嘆するほどタフな男だ。そこは尊敬するよ。
「僕の勝ちで構わないな?」
「…………好きにしろよ。あんな技使われたら勝てないよ」
「素直でよろしい。あと、負けたんだからちゃんと仕事しろよな」
僕は落ちていた剣道部の聖剣を拾う。
これで、僕が勇者だ。
なんとか、レイにはこれで面目が立つ。本当に良かった。いや、良かったのだろうか。
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