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無限 輪

第六話:ミーズリス王国城下町と買い物

 翌日、俺たちは風のダンジョン地下二階へと降りて、レベル上げを行い、さらにその翌日俺はミーズリス王国の城下町へと来ていた。

 茜は今日は一人、ダンジョンでレベル上げを行っている。
 正直心配は心配なのだが、昨日さらにレベルが上がり、俺がレベル10、茜がレベル8になっていたのでステータス的には死ぬ要素は無いだろう。

 なるべく早めに帰って安心したいが、仕事はキチンと終わらせようと思う。

 仕事というよりは、ただの買い物なのだが、この国の状況が状況なので不安はある。

 ちなみに、ミーズリス王国城下町に入り込んだ主人公キャラは全部で五人、いづれも男性で、女性は街に入る前に捕まる。

 今回の目的の一つ、主人公キャラの一人に会ってみたいと俺は思っている。

 ただ、その男性キャラも選択肢の間違いこそしていないはずだが、捕まり、奴隷にされているENDだった。

 つまり、俺はこの街の攻略ルートを知らない。

 それはどうしようもない事なので、正規のルート以外で動こうと思っている。

 すなわち隠密スキルにより気配を薄くしての潜入を今試みている。

 そのため、今日は鎧を身につけておらず、砦で貰ったローブを学生服の上から着て、フードも目深に被っている。

 街の周りは堀に囲まれていて、その奥に高い壁でぐるりと遮られ、登ろうとも思えない高さで、しかもその壁の上は歩けるようになっており、常に見張りがウロウロしている。

 入り口は一つしかなく街に入るには門番のチェックがあるし、門が跳ね橋になっていて、夜には閉まってしまうので昼間に入るしかない。

 うまい具合に幌馬車が跳ね橋を渡る陰に隠れて入り口へ近ずき、門番が御者と積荷のチェックをしている時にコソッと門を潜り、街への潜入に成功した。

 潜入に成功してからも気は抜けない。

 隠密スキルのおかげか、まだ誰にも不審がられてはいないようだが、中には感の鋭い者が気がつくかもしれないからだ。

 街は思ったよりも活気があり、大通りは人で溢れている。

 通行人は、やはり女性がほとんどで、男性は商人や首輪と手枷を付けた奴隷しかいなかった。

 露店で香辛料の類が売りに出ていたので買い付ける。
 もちろん言葉は発しない、指差して提示された金額を払うだけなので男だとバレる心配はないが、隠密スキルを発動させたままだと気が付かれないので、買い物中は解除する。

 色々手に入ったものを、目立たないように一度ポケットに入れてからストレージにしまう。

 急にガッと、腕を捕まれ路地に連れ込まれた。

 買い物に夢中になって油断していた。

「失礼、あなたは男性ではないですか?」

 聞いて来た女性は20代半ばぐらいの青い髪をポニテにした町娘だった。

「…………人違いです」
「いやいやいや、やはり男性!このような場所では危ない!飢えた女性に襲われないうちに、ささ、こちらへ」

 あれ?いい人なのか?緊張が少し緩んだな、と思い女性について建物の中に入った。

「ありがとうございます。この街は女性ばかりでなんだか気後れしてしまいます」
「それはすいません。この国では男性は珍しいので……あ、フードも取って楽にしてください」

 言われて、窮屈だと思っていたのもあり、フードを取って椅子に座った。

 ふー。とため息が出た。
 やはり慣れない潜入と隠密スキルの連続使用に少し疲れていたようで、一息つけて安堵する。

「お疲れですか?紅茶をどうぞ」
「ありがとうございます」

 ここでふと、嫌な予感がする。
 しかし不審な動きをして他の人を呼ばれても困る。

「ところで、さっきから窓の外から誰か見ているのが気になるのですが……」
「えっ!?まさか!」

 彼女はバッと音がなりそうな勢いで窓を見てから扉に近ずき、そっと外の様子を見たが特に変わった所が無かったようで戻ってきて椅子に座った。

「安心してください。誰もいませんでした」
「そうですか!良かった!」

 言いながらカップを口に運び紅茶を飲む。
 それを見ていた彼女も、自分の前に置いていたカップを口に運び紅茶を飲んだ。

「ぐっ、まさか!」
「どうしました!?」

 彼女はテーブルに突っ伏して寝息をたてた。
 どんな即効性の睡眠薬だよ!と、心の中でツッコミを入れたが、予想通りの展開に頭が痛い。

 親切そうな振りをして近ずき、肉食獣の如き牙を立てるか……
 嫌な予感がしたので、彼女の注意を逸らしてカップを入れ替えておいたおかげで、俺は睡眠薬入の紅茶を飲まずにすんだようだ。

 しかし、どうなんだろう。

 別に俺が睡眠薬入の紅茶を飲んでも良かったのではないか?たぶんその後ベッドで行為に及ぶだろうが、俺は彼女もいないし、やりたい盛りの健全な男子高校生だし、むしろもったいなかったのでは?

 自問自答をするが、とりあえず寝ている女性を襲うのは俺の倫理的に無理なので、ベッドに運んで寝かせてから、隠密スキルを発動して建物から出た。

 ベッドの横の棚に、首輪と手枷が置いてあったのがやけに気になった。

 そういえば大通りで見た奴隷の男性はあんなのを付けていたな。

 もしかしたら俺が睡眠薬で眠っていたら奴隷にされていたりして……ブルりと震えて恐ろしくなり、それ以上考えない事にした。

 大通りに戻り露店を物色する。
 先程、香辛料を買ったので次は果物を買い込む。

 そうこうしていると急にガッと、腕を捕まれ路地に連れ込まれた。

 買い物に夢中になって油断していた。

「失礼、あなたは男性ではないですか?」

 聞いて来た女性は20代前半ぐらいの紫髪をサイドテールにした町娘だった。

 なんというデジャブ!

 俺は答える代わりに昨日覚えたばかりの“スタン”の魔法を使った。

 スタンは平たく言えば、スタンガンと同じ効果があり、対象を電気ショックで気絶させる事ができる。

 ビクビクっと痙攣した女性はその場で崩れ落ちそうになったので、受け止めて壁にもたれさせて寝かせた。

 …………なんだか犯罪者の気分だ。

 しかし、これは使えるな。
 というか俺は油断しすぎだろうか?
 気を取り直して大通りに戻り、次は調理器具を探す。
 そろそろ持ち金が底をついてきそうなので、モンスターの素材を売れる場所も同時に探す事にした。

 しばらく歩くと、『買い取り出来ます』と書かれた看板を見つけ、モンスターの素材を売った。

 意外とモンスターの素材は高値で売れて、充分な資金を調達出来たのは幸いだった。

 鍋とフライパンからフォークやスプーンを買い漁っていると、急にガッと、腕を捕まれ路地に連れ込まれた。

 買い物に夢中になって油断していた。

「失礼、あなたは男性ではないですか?」

 聞いて来た男性は20代半ばぐらいの黒い髪を肩まで伸ばした町男だった。

 またか…… ふー。

 俺はため息と共にスタンの魔法を使おうと手をバチバチさせていると気がついた。

 ん!? あれ? 男じゃね!?

 とっさに発動しかかったスタンを男の脇へ撃つことに成功する。

「あうっ!」

 何度目かのデジャブに、有無を言わさずスタンを当てる所だった。
 あぶないあぶない。
 俺は額の冷や汗を手の甲で拭った。

 男は目を剥き自分の隣で気を失う女性を見て立ち尽くす。

 なぜこの街の人は同じ行動をするのか聞いてみたい気がしたが、それよりも、なぜ男が俺を路地に連れ込んだのか理由を聞くことにした。

「あなたも男性のようですね?俺に何か用ですか?」

 男はハッとしてから隣で寝転ぶ亜麻色の髪の女性をいそいそと抱き抱えた。

「私は【浅野 光一】と言います。少し話しませんか?」

 おいおい、お前のたぶんご主人様を気絶させた俺と話しがしたいという事は慰謝料的な話しか?

 それよりも俺は今、誰が見ても驚いた顔をしているだろう。

「【浅野 光一】だと!?」
「あ、は、はい……」

 浅野は俺の食いつきにドン引きしている。

「お前!アレか!日本人か!?」
「ええ!?もしかしてあなたもあのゲームで!?」

 浅野も食いついて来た。
 やはりあのゲームの主人公キャラで間違いない。

 しかし、これは思わぬ幸運!
 偶然にも目的の主人公キャラに出会うことが出来た。
 浅野は確か奴隷のはずなのだが、見る限り身なりは綺麗に見える。
 白のシャツにチノパンのような市民の服装をしていて、首輪はしているが、手枷はしていないようだ。

「おい!男の大きな声がしなかったか!?」

 女性の大声が大通りの方から聞こえる。

 さっきの俺たちの声に反応したんだろうか?全く持ってこの街はすごしにくい。

「まずい!衛兵が来ます!付いてきて下さい」

 浅野が近くの扉を開けて中に入ったのでついて行き、扉を閉めた途端に複数の足音が聞こえてきた。

「この辺りから声がしたらしいが」
「隊長!複数の男性が大声で話しをしているなど、この街ではありえないのではないですか?」
「ガセネタだとでも言うのか?」

 二人のたぶん衛兵の声が聞こえるが、少し聞き取りにくい。
 俺は扉に耳をつけて話しの行方に気を向ける。

 浅野もたぶん主人と思われる女性をソファーに寝かせて、俺の隣で扉に耳をつける。

 早く行け早く行けと、心で念じてみるがまだ衛兵は動かないようで話しは続く。

 微かに聞こえる声は、伝説が何やらとか、禁則事項がどうしたとか、見せろとか見せないとか、話しの内容が全くわからなかった。

「何の話しでしょうか」
「わからん」

 その時、もっとよく聞こうと扉に力を入れすぎたのか、もしくは劣化していたのか、豪快な音を立てて扉が外に倒れた。

 もちろん俺と浅野はそのまま外に投げ出され、俺が浅野に覆いかぶさる形で転がった。

「「えっ?」」

 二人の女性衛兵の素っ頓狂な呟きに、そちらを見れば目が合った。

「「あっ」」

 今度は俺と浅野の呟きがシンクロした。

 みるみる女性衛兵の顔が赤くなり、俺たちの顔は青くなった。

 何やら女性衛兵はブツブツ呟いているが上手く聞き取れないのがもどかしい。

 俺はここで気がついたのだが、女性衛兵の一人に見覚えがあった。
 ここは会話で誤魔化そうと語りかける事にした。

「お騒がせして申し訳ございません。そちらの衛兵さんは先日お会いしましたね、おかげさまで無事にこの街までたどり着けました」

 んん!?という顔で浅野がこちらを見てくるがスルーだ。

 んん?という顔で女性衛兵もこちらを見てくるのでニッコリ微笑んでみたら、あっ!と思い出したようだ。

「あの時のお方!あの日の約束はお守りする事が出来ず申し訳ございませんでした!緊急な仕事が入ってしまいまして……」

 約束?約束なんかしたっけ?
 俺は頭をフル回転で考えると、思い出した!あの日の晩にサービスするとかなんとか言ったのを忘れていた。
 しかし、緊急な仕事って……
 あれか!茜の捜索か!
 俺が茜を救出したから、彼女は魔女捜索の仕事が入って、あの日の晩は約束をすっぽかしてしまったと思っているんだな。
 それならそれで、罪悪感を抱えていてもらおう。
 実際には俺は約束など忘れていたし、守る気も無かったんだけどな。

「お気になさらず、仕事なら仕方ありません」

 浅野がポカーンと下から見てきているのが若干気になるがやはりスルーだ。

「わたしはジェシカといいます。もしよろしければ貴方様のお名前を教えて貰ってもよろしいですか?」

 名前か、まぁそれぐらいならいいだろう。

「申し遅れました。アラタといいます」
「アラタさん!その……大変恐縮ではございますが、わたしを許してくれますか?」

 ジェシカはおずおずと、縮こまり困り顔で聞いてきたが、許すも何もないのだが、とりあえず恩を売っておこうと思った。

「俺もあの晩は楽しみに待っていたのですが、ジェシカさんと再会出来た喜びで、全てを許してしまいました」

 ポカーンともう一人の衛兵が俺とジェシカを見ているがスルーだ。
 ジェシカはポーっと夢見心地のようでふわふわと揺れている。

「それで、俺は今少し、取り込み中でして」

 そこまで言うと、ジェシカたちは、ハッとしてからマジマジと俺たちを見て「失礼しました!」と走って去っていった。

 何だったのか、彼女たちの俺を見る目が何かおかしかった気がしたが、気のせいか?

「そろそろ、どいてくれると助かるのですが」
「おっと」

 すまんすまんと浅野の上から移動して建物の中に入ったが、扉はどうしようか、とりあえず入り口に立てかけておこう。

「もう何がなにやら」
「大丈夫、俺もそんな気分だよ」

 やっと落ち着いて椅子に座ったのだが、またあのジェシカという女性とは会いそうな気がしてならないなぁ、と独りごちるのであった。

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