このバッドエンドしかない異世界RPGで
第四話:地面の裂け目とダンジョン
今回はアラタ視点です。
ムーンフォレストの中を特に急ぐでもなくゆっくりと歩いて、先程救出した仙道茜を抱いている状態であるが為に、背の高い草に潜り込むように進み、隠れ家として見つけておいた洞窟へと向かう。
隠密のスキルのおかげか、モンスターからすら認識されないようで、安全に逃亡を可能としている。
やがて、大地の裂け目と言うしか形容出来ない光景が目に見える。
「何?ここ……」
距離にして1キロはある裂け目の中は断崖絶壁であり、下を見るのも恐怖に怯えてしまう。
「茜はゲームでここに来なかったのか?」
「来てないわ。この森にこんな場所があったのね」
俺はだいたい怪しい場所はしらみつぶしに調べて回ったから他の大陸でもこの手の場所をいくつか見つけていた。
あのゲームの中では、何故だかこういう場所があるのだ。
「降りるぞ」
崖の中に足場が階段状にあり、その降りた先に目的の洞窟はあった。入り口の大きさは3人くらいが同時に入れるくらいの大きさがあり、入るとすぐに8畳ほどの小部屋になっていて、さらに奥に通路があった。
「とりあえず、俺としてはこのままでもいいんだけど、着替えるか?」
先程、草原の砦で茜の制服を見つけていたのだが、今のボロボロの貫頭衣姿もエロくて良い。
「あるの?このままは、ちょっと……恥ずかしいから、着替えたいけど」
やはり恥ずかしいらしい、茜は顔を赤らめもじもじしながら答えたので、俺は少し動揺はしたが、ゆっくり地面に下ろし、ストレージから彼女の制服を取り出し手渡した。
「あ、これあたしの制服……下着まで……」
俺は茜に背を向けて着替えを促す。見たい気持ちが無かったと言えば嘘になるが、見られる側からすれば気持ちのいいものではないだろうからな。
「ありがとう。もう大丈夫だよ」
「おう。あ、そうだ。靴もあるから」
言いながらストレージから皮の靴を出して渡した。
「さて、これからどうしよう」
茜の救出には成功したが、元の世界に戻るにしても手がかりがまるで無い。
砦で貰った食料もあるからしばらくはこの洞窟で休めるが、ずっとそうしている訳にもいかないし、その先の方針を決めないうちにうろうろするのも良くないような気がする。
「あたしはとりあえずこの国を出たいかな」
「そりゃあそうだよな」
茜は脱獄した魔女であり、この国では追われる立場であるので、ゆっくりもしていられない。
「現状確認したいからステータス見せてくれるか?」
「あたしも後で見せて欲しいな」
「もちろん」
称号:魔女
名前:仙堂 茜 HP:100/100
性別:女 MP:100/100
年齢:17 属性:風
Lv:1 状態:健康
力 :3
耐久:5
器用:5
敏捷:12
魔力:10
スキル:言語理解・ストレージ
魔法 :ウイング・トルネ
所持金:0マール
持ち物:ステータスリング・学生服(女子用)
スマートフォン・皮の靴
「風属性か……行けるか」
「どこによ?早くあたしにも見せて」
「あ、あぁ、まぁ、お互いまずはレベル上げかな」
まるで子供のように腕を引っ張る茜に促され、ステータスを表示させる。
あれ?っというような表情で、俺のステータス画面を見ているのがなんだか少し可笑しかった。
「もっとレベル高いと思ってたわ」
「しょうがないだろ。転移したの今日だぞ?これでも突貫でレベル上げして急いで助けに行ったんだからな」
あー。と、茜は納得したようだったが、やはりまだ疑問は残るようなので、一応言える範囲で全部答えた。
「カエル爆弾……」
「名前は可愛いだろ?この森にバーストフロッグと、フラッシュフロッグってモンスターがいるんだが、そいつらの素材から作れるみたいだ」
レベル上げをしている時に何体か倒したのだが、名前や、爆弾の威力の割にあまり強いモンスターではなかった。
たぶんそれぞれの素材を複数個集めてやっと爆弾として使えるレベルの品になるのだと思う。
なぜなら、バーストフロッグとフラッシュフロッグは、攻撃方法も爆発や光を放ったりしないし、倒しても爆発したりしないからである。
「急いでくれたんだ……もうちょっと遅かったら死んでた自信あるしね。ありがと」
確かに時間的には厳しかったと思う。何故こんなにも処刑まで早かったかというと、やはり女王が同じ事をして生きて帰った事が大きいのだろう。
聖火で魔女以外は死なない。
とりあえず魔女かどうか聞いてみても、はいそうです。と言う者はいないのだから、聖火で焼いてみたらわかるんじゃね?という事だろう。
ありえない話では無いな、と頭痛が襲ってきそうになるが、まずは休む事か、と思い至る。
「とりあえず、腹ごしらえだな」
俺は、干し肉とグミのような、何かゼラチンのようなもので固めたぷるんとした食べ物をストレージから取り出し手渡した。
茜はまず、干し肉を少し口に含んだが、眉間にシワを寄せた顔は誰がどうみてもお口に合いませんと言っていた。
「ありえないくらいしょっぱい」
「保存食だし、この国の人は塩分不足になりやすいんじゃないか?とはいえ、俺もそれはヤバイと思った。そのグミはいけるぞ」
次に茜は黄色いグミのようなものを手に取って口へ運ぶ。大きさは手で握ってちょうど見えなくなるくらいだ。
「これは……」
さらに赤いグミを手に取り食べる。青いグミを、緑のグミを、橙色のグミを、次々口へ入れていく姿を見て食べ過ぎじゃないか?と心配するが、確かにこれは美味いのだ。
黄色がコーンスープ、赤がトマトブイヨン、青が魚介スープ、緑が野菜ジュース、橙色がコンソメと、日本の味付けとは少し違うが、それぞれ似通った味をしているので食べやすい。
嬉しそうに、美味しそうに食べる姿はとても愛らしく、見ていてホッコリした。
「お腹いっぱい。美味しかったわ」
「それは良かった。まだあるから安心しろ」
「ふふふ。あたしこっちに来てから水しか飲んで無かったからすごく満足したわ」
「そうなのか?それは耐えられないな」
言いながらストレージから薪を取り出す。これは木のモンスターからゲットした薪だ。たしか名前はウォークウッドだったかな?普通に歩いていたが弱かったな。
「火はあるの?」
「まぁ見てろ」
俺はライターもマッチも持っていないが、忍術(初級)の火遁を試してみようと思ったのだ。ほかには土遁と水遁があるが、まだ使ったことは無い。
魔力の数値が低いから威力に期待はできそうにないが、木に火をつけるくらいは出来るだろう。
「火遁!」
火遁はマンガやアニメなどで覚えていた感じでは、口から火を吐くイメージだったのだが、魔法らしく指先からライターのように火が出た。見た目、指先が熱そうな気がするが特に熱さは感じない。
「便利ね。あたしも魔法使いたい」
「そういえば、茜の魔法はどんな効果があるんだ?」
んー、と言いながらステータス画面の魔法欄から説明を読んでいる。
ウィングは移動速度が上がる支援魔法で、他人にも使う事が出来る。トルネは風を起こす魔法のようだ。
「トルネで火を大きく出来ないか?」
「やってみるわ。ん、トルネ!」
茜のかざした手からそよ風が吹いて薪につきかけた火を大きくしていく。うちわ要らずな魔法だな。戦闘には全く役にたたないけどな。
そんな事を考えているうちに、だいぶ薪が落ち着いて燃えだしたので、トルネの発動を終わらせたようだ。
「これ、ちょっと楽しいわ」
「そうだな、俺はなんだかダルくなるけど」
「あー。確かにちょっと倦怠感?は、あるわね。よくラノベとかである、魔力枯渇状態?になったら辛いかもね。ゲームではそんな設定無いのにね」
「むしろゲームでそんな状態になったらプレイヤーに厳しすぎるだろ。いや、でもダメージで視界や動きが悪くなるゲームはあったな、ゾンビを倒すやつとか。部位欠損は無かったかな?モンスターの尻尾を切るのはあったけど」
「部位欠損は残酷な描写がどうのこうので作れないんじゃないかな?あたしも無双するゲームで腕やら頭やらがその辺に飛び散るのは見たくないし」
「洋ゲーではありそうだけどな。それにしても無双ゲーってなんであんなにザコ敵が硬いんだろうな?あんな剣やら槍で攻撃されたら一撃で死んでもいいんじゃないか?」
「でも人って急所を攻撃されない限りなかなか死なないらしいわよ?戦国時代とか、映画では切られたらすぐに死んじゃうけど、実際は胴を真っ二つにされてもショック死しなかったらすぐに死ねないらしいわ」
「そうなのか?そんな所だけリアルに作ったのかな?なんか怖いな」
「いや、それはゲームバランス的な問題じゃないかな?そこだけリアルにする意味があまり無いと思うし」
茜との何気ない会話が楽しい。
1年生の時、よく行く本屋やゲームショップで彼女の事を度々見かけていて、話しが合いそうだなと興味を持った。
するといつの間にか、自分でも不思議な事に、本屋やゲームショップに行くと、無意識に彼女の姿を探すようになっていた。
これが恋か……彼女を探し、いなければ気分が沈む。
逆に偶然見かけたら心臓が跳ねるようになった。たとえ会話などした事が無かったとしても、俺のハッピーは溢れ出てきた。
好きなんだとハッキリ自覚する迄そう時間はかからなかった。ならば好きだと伝えようと考えるのも自然な成り行きだろう。
この頃同時に、自分はストーカー気質があるのか疑問に思った事があったのだが、後をつけたりなどはしなかったので多分違うと言い聞かせた。
でも、どうしても仲良くなりたくて告白したものの玉砕し、友達からって言えばよかったと落ち込んだが、やはりストーカーだと思われたくなくてそれ以降は無意識にでも彼女を探すのを自制し、もちろん近づくのも、話しかける事もしなかった。
あのクラス替えの紙を見た時は久しぶりに心臓が高鳴ったと同時に不安になった。
もし、話しかけて避けられたら……そう考えるだけでギシギシと何かが軋んで耐えられない予感がする。
自分の中にある恋心は封印されていただけでしっかりとその熱を持ち続けていた事を確認してしまった。
しかし、彼女との会話は最初こそぎこちなかったが、心配したほどの態度ではなく徐々に傍目から見ても仲良くなっていった。
それから俺の中では恋心は押し殺し、友達として付き合っていこうと決める事にした。
今こうして普通に話しが出来るのが心の底から嬉しいと感じるし、また告白なんぞして、関係が悪くなるのを忌避している。
 
だからもうこのままの関係でいようと今は思っているのだ。
ふと、起こした焚き火を見ると煙が洞窟の奥へ流れて行くのが目に付いた。
「そういえば、さ、この奥って何かあるの?」
茜も煙の行方が気になったようだ。俺はゲームでこの洞窟もクリア済みであるので知っている。
「風のダンジョン」
「……え?ダンジョンってあの?ここってモンスター来ないよね?セーフティエリア?」
セーフティエリアとはダンジョンの中にたまにあるモンスターとエンカウントしない空間の事だ。
「そうだ。ここの他にも火、土、天のダンジョンはゲームでクリアしているが、全部入り口の空間はセーフティエリアだった」
この世界にはたぶん各属性のダンジョンがある。俺はまだ4つしか見つけていないが後4つあるはずだ。すなわち、火、土、天、水、風、雷、冥、無の八属性である。
「と、いう事は、このダンジョンでレベル上げね」
「察しが良くて助かる。今日はもう遅いから明日からがんばろう」
「うん」
お互い頷き合い、決意を胸に今日は眠りにつくのだった。
ムーンフォレストの中を特に急ぐでもなくゆっくりと歩いて、先程救出した仙道茜を抱いている状態であるが為に、背の高い草に潜り込むように進み、隠れ家として見つけておいた洞窟へと向かう。
隠密のスキルのおかげか、モンスターからすら認識されないようで、安全に逃亡を可能としている。
やがて、大地の裂け目と言うしか形容出来ない光景が目に見える。
「何?ここ……」
距離にして1キロはある裂け目の中は断崖絶壁であり、下を見るのも恐怖に怯えてしまう。
「茜はゲームでここに来なかったのか?」
「来てないわ。この森にこんな場所があったのね」
俺はだいたい怪しい場所はしらみつぶしに調べて回ったから他の大陸でもこの手の場所をいくつか見つけていた。
あのゲームの中では、何故だかこういう場所があるのだ。
「降りるぞ」
崖の中に足場が階段状にあり、その降りた先に目的の洞窟はあった。入り口の大きさは3人くらいが同時に入れるくらいの大きさがあり、入るとすぐに8畳ほどの小部屋になっていて、さらに奥に通路があった。
「とりあえず、俺としてはこのままでもいいんだけど、着替えるか?」
先程、草原の砦で茜の制服を見つけていたのだが、今のボロボロの貫頭衣姿もエロくて良い。
「あるの?このままは、ちょっと……恥ずかしいから、着替えたいけど」
やはり恥ずかしいらしい、茜は顔を赤らめもじもじしながら答えたので、俺は少し動揺はしたが、ゆっくり地面に下ろし、ストレージから彼女の制服を取り出し手渡した。
「あ、これあたしの制服……下着まで……」
俺は茜に背を向けて着替えを促す。見たい気持ちが無かったと言えば嘘になるが、見られる側からすれば気持ちのいいものではないだろうからな。
「ありがとう。もう大丈夫だよ」
「おう。あ、そうだ。靴もあるから」
言いながらストレージから皮の靴を出して渡した。
「さて、これからどうしよう」
茜の救出には成功したが、元の世界に戻るにしても手がかりがまるで無い。
砦で貰った食料もあるからしばらくはこの洞窟で休めるが、ずっとそうしている訳にもいかないし、その先の方針を決めないうちにうろうろするのも良くないような気がする。
「あたしはとりあえずこの国を出たいかな」
「そりゃあそうだよな」
茜は脱獄した魔女であり、この国では追われる立場であるので、ゆっくりもしていられない。
「現状確認したいからステータス見せてくれるか?」
「あたしも後で見せて欲しいな」
「もちろん」
称号:魔女
名前:仙堂 茜 HP:100/100
性別:女 MP:100/100
年齢:17 属性:風
Lv:1 状態:健康
力 :3
耐久:5
器用:5
敏捷:12
魔力:10
スキル:言語理解・ストレージ
魔法 :ウイング・トルネ
所持金:0マール
持ち物:ステータスリング・学生服(女子用)
スマートフォン・皮の靴
「風属性か……行けるか」
「どこによ?早くあたしにも見せて」
「あ、あぁ、まぁ、お互いまずはレベル上げかな」
まるで子供のように腕を引っ張る茜に促され、ステータスを表示させる。
あれ?っというような表情で、俺のステータス画面を見ているのがなんだか少し可笑しかった。
「もっとレベル高いと思ってたわ」
「しょうがないだろ。転移したの今日だぞ?これでも突貫でレベル上げして急いで助けに行ったんだからな」
あー。と、茜は納得したようだったが、やはりまだ疑問は残るようなので、一応言える範囲で全部答えた。
「カエル爆弾……」
「名前は可愛いだろ?この森にバーストフロッグと、フラッシュフロッグってモンスターがいるんだが、そいつらの素材から作れるみたいだ」
レベル上げをしている時に何体か倒したのだが、名前や、爆弾の威力の割にあまり強いモンスターではなかった。
たぶんそれぞれの素材を複数個集めてやっと爆弾として使えるレベルの品になるのだと思う。
なぜなら、バーストフロッグとフラッシュフロッグは、攻撃方法も爆発や光を放ったりしないし、倒しても爆発したりしないからである。
「急いでくれたんだ……もうちょっと遅かったら死んでた自信あるしね。ありがと」
確かに時間的には厳しかったと思う。何故こんなにも処刑まで早かったかというと、やはり女王が同じ事をして生きて帰った事が大きいのだろう。
聖火で魔女以外は死なない。
とりあえず魔女かどうか聞いてみても、はいそうです。と言う者はいないのだから、聖火で焼いてみたらわかるんじゃね?という事だろう。
ありえない話では無いな、と頭痛が襲ってきそうになるが、まずは休む事か、と思い至る。
「とりあえず、腹ごしらえだな」
俺は、干し肉とグミのような、何かゼラチンのようなもので固めたぷるんとした食べ物をストレージから取り出し手渡した。
茜はまず、干し肉を少し口に含んだが、眉間にシワを寄せた顔は誰がどうみてもお口に合いませんと言っていた。
「ありえないくらいしょっぱい」
「保存食だし、この国の人は塩分不足になりやすいんじゃないか?とはいえ、俺もそれはヤバイと思った。そのグミはいけるぞ」
次に茜は黄色いグミのようなものを手に取って口へ運ぶ。大きさは手で握ってちょうど見えなくなるくらいだ。
「これは……」
さらに赤いグミを手に取り食べる。青いグミを、緑のグミを、橙色のグミを、次々口へ入れていく姿を見て食べ過ぎじゃないか?と心配するが、確かにこれは美味いのだ。
黄色がコーンスープ、赤がトマトブイヨン、青が魚介スープ、緑が野菜ジュース、橙色がコンソメと、日本の味付けとは少し違うが、それぞれ似通った味をしているので食べやすい。
嬉しそうに、美味しそうに食べる姿はとても愛らしく、見ていてホッコリした。
「お腹いっぱい。美味しかったわ」
「それは良かった。まだあるから安心しろ」
「ふふふ。あたしこっちに来てから水しか飲んで無かったからすごく満足したわ」
「そうなのか?それは耐えられないな」
言いながらストレージから薪を取り出す。これは木のモンスターからゲットした薪だ。たしか名前はウォークウッドだったかな?普通に歩いていたが弱かったな。
「火はあるの?」
「まぁ見てろ」
俺はライターもマッチも持っていないが、忍術(初級)の火遁を試してみようと思ったのだ。ほかには土遁と水遁があるが、まだ使ったことは無い。
魔力の数値が低いから威力に期待はできそうにないが、木に火をつけるくらいは出来るだろう。
「火遁!」
火遁はマンガやアニメなどで覚えていた感じでは、口から火を吐くイメージだったのだが、魔法らしく指先からライターのように火が出た。見た目、指先が熱そうな気がするが特に熱さは感じない。
「便利ね。あたしも魔法使いたい」
「そういえば、茜の魔法はどんな効果があるんだ?」
んー、と言いながらステータス画面の魔法欄から説明を読んでいる。
ウィングは移動速度が上がる支援魔法で、他人にも使う事が出来る。トルネは風を起こす魔法のようだ。
「トルネで火を大きく出来ないか?」
「やってみるわ。ん、トルネ!」
茜のかざした手からそよ風が吹いて薪につきかけた火を大きくしていく。うちわ要らずな魔法だな。戦闘には全く役にたたないけどな。
そんな事を考えているうちに、だいぶ薪が落ち着いて燃えだしたので、トルネの発動を終わらせたようだ。
「これ、ちょっと楽しいわ」
「そうだな、俺はなんだかダルくなるけど」
「あー。確かにちょっと倦怠感?は、あるわね。よくラノベとかである、魔力枯渇状態?になったら辛いかもね。ゲームではそんな設定無いのにね」
「むしろゲームでそんな状態になったらプレイヤーに厳しすぎるだろ。いや、でもダメージで視界や動きが悪くなるゲームはあったな、ゾンビを倒すやつとか。部位欠損は無かったかな?モンスターの尻尾を切るのはあったけど」
「部位欠損は残酷な描写がどうのこうので作れないんじゃないかな?あたしも無双するゲームで腕やら頭やらがその辺に飛び散るのは見たくないし」
「洋ゲーではありそうだけどな。それにしても無双ゲーってなんであんなにザコ敵が硬いんだろうな?あんな剣やら槍で攻撃されたら一撃で死んでもいいんじゃないか?」
「でも人って急所を攻撃されない限りなかなか死なないらしいわよ?戦国時代とか、映画では切られたらすぐに死んじゃうけど、実際は胴を真っ二つにされてもショック死しなかったらすぐに死ねないらしいわ」
「そうなのか?そんな所だけリアルに作ったのかな?なんか怖いな」
「いや、それはゲームバランス的な問題じゃないかな?そこだけリアルにする意味があまり無いと思うし」
茜との何気ない会話が楽しい。
1年生の時、よく行く本屋やゲームショップで彼女の事を度々見かけていて、話しが合いそうだなと興味を持った。
するといつの間にか、自分でも不思議な事に、本屋やゲームショップに行くと、無意識に彼女の姿を探すようになっていた。
これが恋か……彼女を探し、いなければ気分が沈む。
逆に偶然見かけたら心臓が跳ねるようになった。たとえ会話などした事が無かったとしても、俺のハッピーは溢れ出てきた。
好きなんだとハッキリ自覚する迄そう時間はかからなかった。ならば好きだと伝えようと考えるのも自然な成り行きだろう。
この頃同時に、自分はストーカー気質があるのか疑問に思った事があったのだが、後をつけたりなどはしなかったので多分違うと言い聞かせた。
でも、どうしても仲良くなりたくて告白したものの玉砕し、友達からって言えばよかったと落ち込んだが、やはりストーカーだと思われたくなくてそれ以降は無意識にでも彼女を探すのを自制し、もちろん近づくのも、話しかける事もしなかった。
あのクラス替えの紙を見た時は久しぶりに心臓が高鳴ったと同時に不安になった。
もし、話しかけて避けられたら……そう考えるだけでギシギシと何かが軋んで耐えられない予感がする。
自分の中にある恋心は封印されていただけでしっかりとその熱を持ち続けていた事を確認してしまった。
しかし、彼女との会話は最初こそぎこちなかったが、心配したほどの態度ではなく徐々に傍目から見ても仲良くなっていった。
それから俺の中では恋心は押し殺し、友達として付き合っていこうと決める事にした。
今こうして普通に話しが出来るのが心の底から嬉しいと感じるし、また告白なんぞして、関係が悪くなるのを忌避している。
 
だからもうこのままの関係でいようと今は思っているのだ。
ふと、起こした焚き火を見ると煙が洞窟の奥へ流れて行くのが目に付いた。
「そういえば、さ、この奥って何かあるの?」
茜も煙の行方が気になったようだ。俺はゲームでこの洞窟もクリア済みであるので知っている。
「風のダンジョン」
「……え?ダンジョンってあの?ここってモンスター来ないよね?セーフティエリア?」
セーフティエリアとはダンジョンの中にたまにあるモンスターとエンカウントしない空間の事だ。
「そうだ。ここの他にも火、土、天のダンジョンはゲームでクリアしているが、全部入り口の空間はセーフティエリアだった」
この世界にはたぶん各属性のダンジョンがある。俺はまだ4つしか見つけていないが後4つあるはずだ。すなわち、火、土、天、水、風、雷、冥、無の八属性である。
「と、いう事は、このダンジョンでレベル上げね」
「察しが良くて助かる。今日はもう遅いから明日からがんばろう」
「うん」
お互い頷き合い、決意を胸に今日は眠りにつくのだった。
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