このバッドエンドしかない異世界RPGで

無限 輪

第二話:潜入そして救出準備

 どうも、アラタです。国や時代背景によって人の価値観や考え方って色々ですよね。異文化とも言えますか。そんな事を考えさせられる大陸スタートでした。



 っとお。違和感が治るとそこは自分の部屋ではなかった。異世界転移か……きょろきょろして、手を振ったり軽くジャンプしてみる。身体に特に変わった所は無いようだ。どうせならチート能力とか……無いよな。

 出てきたのは左右に一本道のある森の中。これは仙堂と同じスタート地点だな。俺のスタート位置によっては早く動かないと危なかったので、ある意味助かった。

 とりあえず隠れながらステータスの確認をする事にしよう。そこでふと違和感があった。

 選択肢が出てこない。

 なるほど、これのせいで彼女は隠れるのが遅れたんだな。

 シナリオツリー100%が異世界転移の条件なら、仙堂が知らないはずがない。ゲームの中でここで選択肢が出るのは決まっているので、もしかしたら待っていたのかもしないな。

 道からそれて木と背の高い植物の陰に隠れた。

 さて、どうやったらステータス画面を開けるのかな?人差し指と中指を立てて下にスライドしてみる。

 しかし何も起こらなかった。

 某ラノベのようにはいかないか……ん?人差し指に指輪がしてある事に気がついた。俺、装飾品はつけていなかったはずだけど……

 わりとゴツめの指輪は鈍銀色で赤い宝石を波打つように覆う形だ。触っているうちに宝石部分がカチリと少し押しこまれた。

 ブゥン。と小さく低い音が鳴りステータス画面が開いた。それは透明なガラスのカルテのように感じた。





称号:異世界人

名前:国生 新   HP:100/100
性別:男      MP: 50/50
年齢:17     属性:雷
Lv:1      状態:健康

力 :8
耐久:5
器用:12
敏捷:10
魔力:1

スキル:言語理解・ストレージ・隠密
魔法 :なし

所持金:0マール
持ち物:学生服(男子用)・ステータスリング・
    スマートフォン





 ステータスリングね。お!やった!雷属性はレアだ。能力はレベル1ならこんなもんか。後でレベル上げしないとな、とりあえず10ぐらいまで上げとかないと、これから不便だからな。

 スキルのストレージの詳細を見ると、発動中に手で触った物を亜空間に収納出来る。というものだ。取り出す時は、ステータス画面の一覧から探すか、取り出したい物をイメージしてスキルを発動させればOKだ。

 と、複数の足音が聴こえてきたので慌ててステータス画面を閉じる。ステータスリングの宝石を触ると、カチリと音が鳴り消す事が出来た。

「いたか?」
「まだ何も発見出来ません」
「よし、警戒を怠るな」
「はっ!」

 声と足音が遠くなっていったので、一安心した。

 ふー。とりあえず仙堂を助けに行くとして、武器がいるな……あと、靴だ。部屋にいた時のままの姿なので靴を履いていない。

 スマホで時間を確認する。22時35分と表示されているが間違いなくズレてる、だってまだ明るいし。後で合わせないとな。電波は無いようだ。

 まず、今の状況とこれからの行動を整理する。

 ここはオルタナ大陸の西側、ミーズリス王国付近のムーンフォレスト。ゲームの中では隣国サウザリス帝国との長く凄惨な戦争が終わって数年という設定だった。

 戦争で女王は、兵士も民間人も関係なく、男を主戦力として投入し続けた。勝利する頃には女兵士しかいなかったようだ。

 先程の兵士も女性だし、男性の兵士など過去の話しである。

 そして、ほとんどの男手を失くしたミーズリス王国では子供を除くと、人口の九割が女性であり、男性は一夫多妻制を強いられ、女王の名の元に振り分けられた。

 まず、貴族など高位の女性を正妻に、民間人は妾に最低でも1人に5人は囲われているのが普通だ。

 しかし、いくら一夫多妻制だとしても一割の男性でバランスがとれるわけもなく、という事は伴侶が得られない女性が不満を持ってしまう。

 そしておこなわれたのが魔女狩りである。

 男が足りないなら女を減らせばいいじゃない。という事らしい。いや、実際そう言ったわけではないらしいが、目的はそういう事だろう。

 現在、少しでもおかしな行動をとる女性を魔女に仕立て上げ、処刑する。そんな暴挙が横行していたのだ。

 しかし、普通ならそこまでの事態にはならないだろう。普通なら、な。

 ミーズリス王国女王その人が先導しておこなっているからこそ、国民も魔女狩りを受け入れているのである。そこには一種の洗脳のような含みがあるような気がするが……

 信じ難い話し、女王は魔女狩りをするにあたり、まず、最初に自分を魔女裁判にかけた。拘束された状態の自分を”聖火“で火あぶりにさせた。

 そして息絶えるどころか火傷すらなく生還したらしい。そんな女王を国民は心底信頼しているし、”聖火“は魔女だけを焼き尽くすと信じている。

 俺から言わせてもらえば、女王が魔女だから無事だったんだろ!?とツッコまずにはいられないのだが……

 とりあえず、魔女として捕えられた者は、この森にある【月守の塔】へ集められ数日のうちに処刑される。

 仙堂茜ENDは彼女が塔にいると表示された。まだ生きているはずだ。

 他の主人公ルートで進んだ知識という名のチートがある俺には、これから仙堂を助ける上でするべき事が見えている。

 問題は、俺が出来るかどうかだ……

 ”知っている“のと”出来る“のとでは、その間に越えられない壁があるっていうし。

 潜入とかやった事ないしな。ダンボールが欲しい。

 さらにどのルートでも、捕えられた魔女を救出するルートは無かった。ここだけはぶっつけ本番で、どうにかするしかない。場所や、塔内のマップがわかっているのが救いだが……

 あまり自信は無いが、レベルを少しでも上げて、隠密スキルを駆使すれば行けるかな、と浅い考えをしている。

 森を兵士達の来た方向に進むと平原に出る。見渡すと、ミーズリス王国方面に続く道の先に、平原の砦が見える。そこへ行き、靴と武器を調達する。

 これは色々なルートがあるのだが、正解は一つだけだ。しかし俺の羞恥心がもつかどうか……

 いや、余計な事は考えるな!いける!俺ならやりきれる!行け!行くんだアラタ!

 自分を鼓舞し、俺は砦へと歩み出し、そして門番に話しかけた。

「こんにちは」

 そう、砦の正面から入るのが正解のルートだ。これ以外でいくと、夜まで待ったり、森のツタでロープを作ったり、とにかく時間がかかる。

 それに、絶対失敗するのだ。そして、今晩は解放されない。性的な意味で……男に飢えている女兵士達のおもちゃにされて気が狂って頭がおかしくなるような……そんなヘブンアンドヘルは初体験では勘弁して欲しい。

 仙堂がどういう選択をするかわからないが、今晩救出する。早くて悪い事はないが、手遅れになるのだけは避けないといけない。

「き、きさま、男か!?……コンニチハ」

「え?女に見えますか?男ですよ」

 よし!男と挨拶が出来た!と頬を染め拳を握る門番の反応はこの国では普通である。

「そ、そうか……それでその、本日はどのようなご要件で、この草原の砦に参られたのだ」

「実は俺はミーズリス王国で商売をしようと旅をしてきました。しかし先程荷馬車ごと奪われてしまったのです。どうしたものかと思案していたところ、この立派な砦が見えたので少し物資の融通をして貰えないかと寄らせてもらいました」

「そうでしたか……野盗に……もしやサウザリスの残党か……そういう事ならとりあえず奥にお入りください。わたしが案内したいのですが、見張りが居なくなるのはまずいので、取り次ぎだけさせてもらいます。心苦しいのですが」

「いえ。あなたのような、お美しい女性とならずっとご一緒してたい所ですが、仕方ありませんね」

 ちなみに、これはゲームの中の選択肢そのままの受け答えをしている。一語一句間違い無いか?と言われれば自信はない。

 ゲームをしている時は、なんでこんな歯の浮くような選択をしないといけないのか疑問だったが、効果はあるようだ。

 門番は熱に浮かされたような顔で何やら呟いている。聞こえない体でスルーだ。

 奥へと通され二階の休憩室へ入ると女兵士が二人いた。先ほどと同じような問答をして、靴と食料が欲しいと言うと、保管室に案内された。

 室内にある必要そうな武器や道具を片っ端からストレージに収納していく。ついでに仙堂の物と思われる学生服がなぜかあったので収納しておく。

「靴はこれでどうでしょう」

 見ると男性用の黒いグリーブだった。

「こんないい物を貰ってもよろしいのですか?」

「ええ、男性用は使い道がありませんからね。使って貰えると……でも見た目が変になりますね……どうせなら鎧一式着てみませんか?」

 トントン拍子に話しが進み、俺は兵士というよりも騎士に近い鎧を着せられていた。厳つい兜でもかぶれば黒と銀の鎧の暗黒騎士のようだ。

 女兵士がぽーっとした顔でこちらを見てくる。

「どうだろう……似合っているかな?」

 少し重いが問題なく動ける。頑丈で申し分ない。ゲームでは普通に食糧と剣しか貰えなかったのだが、少し差異があるのか……

「ええ、凄くカッコイイです……」

「これを貰っていいのか?あいにくお金も奪われたので、お礼が出来ないのだが……」

「お礼、ですか……」

 ゴクリとのどを鳴らす女兵士に、ささやくように耳打ちする。

「よろしければ今晩お相手させてもらいますが、いや、失礼なのは承知していますが、何分この身体位しかお礼するものが無くて」

「にゃ、にゃにお!?」

「テクニックには自信があります」

 女兵士は鼻血を出して倒れた。もちろん選択肢の言葉をそのまま言っただけだ、テクニックに自信など無いし、今晩お相手もしない。したくない訳ではないのだが。いや、これ以上は何も言うまい。

 外に出て森へ行く。上手くいった。これでたぶん仙堂を救出出来るはずだ。あとは少しレベル上げをしよう。

 少しすると中型犬くらいの大きさがあるイモムシ型のキャタピーというモンスターが現れた。

 正直キモい。イモムシや昆虫などの虫は、自分の中で小さいからまだ許容出来ていたと感じさせる忌避感があった。

 ストレージから鉄の剣を出して軽く振ってみる。

 重い。ステータスの腕力が足りないのか非常に使いにくそうだ。でも、今回はこれでいく。

 縦に切るか横に切るか……どれぐらいの角度で、どれぐらいの力を入れるか。まるで料理のようだと思った。

 走って近ずき、横を駆け抜けざまに切った。

 イモムシの身体は柔らかいのかスっと刃が入り、あまり抵抗なく上下に分断した。何か拍子抜けだ。弱いモンスターだったのか。

 まぁ青紫の体液をまき散らしてその肉片を横たわる姿は、グロ注意である。剣にも付いたので、そこら辺の葉っぱで拭いた。

 ゲームではお金とか素材とか手に入るけど、これ、剥ぎ取るの?と、グロ注意をもう一度見てから、無理と判断した。

 よし、気を取り直してレベル上げに勤しみますか!

 俺はモンスターを探して森の中を進んで行った。

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