このバッドエンドしかない異世界RPGで

無限 輪

第一話:絶望からの異世界転移

 一昨日の金曜日、俺はとあるゲームショップへ行った。ワゴンセールで売っていた、シナリオ分岐型アドベンチャーRPG【Changes Of The Season+チェンジオブザシーズンプラス】を買ったのだが、どっぷりハマってしまった。

 このゲーム、主人公が何人もいて、最初にその中の1人を選んでスタートする。

 基本RPGであり、主人公は誰を選んでもレベル1で始まる。行動はイベントの時以外は自由でモンスターを倒したら経験値とお金と素材が手に入る。

 主人公によって属性や、得意、不得意があり、覚える魔法やスキルが違う。

 筋力や体力に問題がなければ壁も登れるし、川や海も泳げるので自由度は高い。

 ただ、シナリオツリー型になっており、イベントに進まないと物語は動かない。またその時、選択肢が出るので、選んだ選択肢によってシナリオは分岐する。

 そうやって進めていくのだが、どうやっても理不尽の壁にぶち当たる。

 そうだなぁ、最初に俺が選んだ【遠藤 冬夜えんどう とうや】君の場合で説明しよう。

 まず、始まってすぐモンスターとエンカウントして選択肢が出た。

 [戦う]or[逃げる]

 とりあえず[戦う]を選択すると、バトル画面になるのだが、まず、武器を持っていないからか、攻撃しても1しかダメージをあたえられない。

 敵のHPゲージの減り具合から見てもどうやっても勝てない。そして殺されてゲームオーバーになり、エンドロールが流れだした。

 俺が「……はぁ?」と、そんな間抜けな声を出したのは言うまでもないかも知れない。

 最後に[この終わりを迎えた者]という表記の後、名前の羅列が流れた。

 マジクソゲーだったかーと、落胆したがせっかくなので諦めずもう一度始めた。

 今度は[逃げる]を選んだらちゃんと逃げられて村に着いた。そこでまた選択肢。

 村に[入る]or[入らない]である。

 細かい!と思いながら[入る]を選択すると、マップが切り替わり村の中へ。ちなみに、村に[入らない]を選択した場合、強制的にモンスターとエンカウントして殺される。

 NPCキャラと話しをしながら村長の家へ行くと、村長からクエストが出された。その内容は村の近郊でのモンスター退治だったのだが、また選択肢が出た。

 クエストを《受ける》or[受けない]となっており、何度クリックしても《受ける》は選べなかったので、[受けない]を選択するとエンドロールが流れだした。

 終わった……クソゲーだった。

 最後に[遠藤冬夜END~彼は今も村で平和に暮らしている~]と出て、シナリオツリーに1つのルートの終わりが記された。

 画面が暗くなりポーンと音が鳴り、カタカタカタカタ……とタイプライター風の音と共に〔条件をクリアしたので【加藤 雅子かとう まさこ】が開放されました〕と表示された。

 俺は、こういう流れは好きだ。ニヤッと口角を上げ、さっきまでのオワタ感はどこへやら、全シークレットキャラを開放するぞー!と意気込み、何時間もゲームに没頭するのだった。

 途中攻略情報は無いのか?とネット検索をするものの〔ヒットØ件です〕と表示されるばかりで、自力で頑張るしかなかった。

 以外な事に開放されたキャラには、某格闘家の名前と姿のキャラや、某アイドルの名前のキャラなど使っていいのか?タイアップなのか?と疑惑の残るキャラがいた。

 色々と試行錯誤をする中でわかったことがいくつかある。

 一つ、主人公キャラのシナリオラストの選択、この《》カッコ表記は、選択出来ない。

 一つ、主人公キャラはシナリオが終わっても生きて・・・いる。クリアとならない選択をした場合、例外なく死亡する。

 一つ、開放されたキャラはそれぞれ別の大陸からスタートする。このゲームは大陸が7つある。

 これは仮定の話しだが、今6人開放されて全て別の大陸スタートである事から、次の開放キャラは最後の大陸スタートであると考えている。

 開放キャラ以外の主人公で全大陸スタートは経験済みである。

 一つ、今のところ全てバッドエンドである。中にはバッドエンドなのか疑問に思う内容もあったが、間違いなくハッピーエンドではない。

 一つ、遠藤冬夜というキャラをネット検索してみた。結果いくつかヒットしたのだが、行方不明という内容だった。それも五年前、目撃情報はないが自室で忽然と消えたらしい。

 偶然の同姓同名か?と思い、他のキャラも検索してみたのだが、年代はバラバラだったが何人も行方不明になっている人物がいた。もちろん検索に引っかからないキャラもいたのだが、偶然……か?

 一つ、イベントに進まずいろんな所へ行き、色々試していると希に、発言や行動のバリエーションが多すぎるNPCがいて、こちらに話しかけて来るのだが、こちらは返事が出来ない謎仕様のNPCがいる事。

 これについては正直よくわからない。仕様にしても意味がわからない。いや、わかりたくない・・・・・・・のかもしれない。

 ここまでの考察で冷や汗必須の仮説が頭をよぎる。いやいや、まさか。と何度も頭をふる。が、その恐ろしい仮説は頭から離れてくれない。

 ここまでで土日のまる二日ほぼ完徹状態で進めてきたので、疲れているんだと思う事にして眠りについた。

 月曜日、学校から帰宅してまたゲームを始めた。完全攻略まで後少し。シナリオツリーを見れば92%まできていた。

 ここまで数え切れないぐらいのバッドエンドを見てきて、正直フラストレーションが溜まりに溜まっている。最後のトゥルーエンドを見ずして終われるか!

 そして遂に最後と思われる開放キャラが表示された。ブラックアウトからのカタカタからの────。

 [条件をクリアしたので【仙堂 茜せんどう あかね】が開放されました]

 この画面を見た時、俺は固まってしまった。

 その表示された名前を何度も見る。

 その名前は同じクラスの女子と同姓同名だった。

 そういえば、今日休んでたな……

 嫌な予感しかしない。

 しかしただの偶然という事もあるかもしれない。

 知らず手が震え、頬が引きつっていた。

 暑くもないのに汗が流れる。

 昨日頭をチラついた嫌な予感・・が頭をよぎる。

 まさか。と自粛しながら頭をふり、ぶるぶる震える手で彼女を選択する。

 トゥルーエンドのためにクリアするという一心でスタートした。表示されたキャラは、二頭身デフォルメされているが、俺の知っている彼女によく似ていた。

 すかさずステータス画面を開く。ステータス画面には名前、年齢、各種パラメータ、スキルや魔法、所持金や持ち物、マップ、そして二頭身デフォルメされていないキャラの全身が表示される。

「そんな、馬鹿な事……」

 もう認めるしかなかった。アニメタッチだが間違いなく俺のクラスの、俺の知っている、仙堂茜だったから。ダメ押しにうちの高校の制服まで着ている。

 もう、何が何だかわからなくなってきていた。

 頭がパニックである。全てが怖いのである。

 そして彼女のスタートは、やはり最後の大陸スタートだったのだが、最悪のスタートだった。

 回避不可能の強制イベントが、始まってすぐ起こる。

 [逃げる]or《隠れる》

 だんだん息づかいが荒くなってくる。はぁ、はぁ、と自分が何かに追い込まれているような感覚。

 《隠れる》を選択するが、クリック出来ない。

「ふざけんなよ……」

 悪態をつくがどうにもできず[逃げる]を選んだ。

 ここでは絶対、[隠れる]を選ばないといけない事を経験済みだったので、苦渋の決断だっだ。

 画面右側から鎧を纏った兵隊が「いたぞー!」と叫んで近ずいてきた。

 スタート地点は森の中の一本道で逃げ道は兵隊の現れた方向の反対側しかない。

 必死に動かすが彼女の足が兵隊より遅いため追いつかれた。

「この魔女め!手をわずらわせおって!」

「助けて!お願い!人違いよ!」

「魔女を拘束した後、【月守つきもりの塔】に投獄せよ」

 そして、恒例のエンドロール。俺は呆然としていた。たぶん焦点も定まっていないだろう。

 ボヤけた視界にブラックアウトした画面が映り込む[仙堂茜END~彼女は今も監獄にいる~]と表示されたのは、かろうじて確認出来た。

 そして、シナリオツリーは100%になった。

 画面が暗くなりポーンと音が鳴り、カタカタカタカタ……とタイプライター風の音と共にそれ・・は表示された。




 [異世界へ行きトゥルーエンドを目指す]

      or

 [現在の世界でバッドエンドを迎える]





「な、なんだよ……これ?」

 盛大に引き攣る頬が痙攣しているかのようだ。

「ははっ……」

 乾いた笑みが口につき、片手で抑えようとする。

「こんな事、現実であるはずがない」

 ふるふると頭を揺らすがPCの画面は変わらない。

 もし、これを信じるとするならば……

 否、昨日の時点で、この可能性は考えていた。もし、シナリオツリーを100%にしてしまったら……

「ゲームの中に囚われる、か」

 もはや独り言を呟いている感覚すらなかったが、実際問題、選択しなければならなかった。

 なぜなら、画面右下にタイマーがカウントダウンしていたからだ。

 今、20になった。19、18、17……

 拒否権が無いとは笑えない。

 現実でのバッドエンド。恐ろしい。これは否応なく忌避感を抱かせるワードである。

 異世界行きを執行出来るような存在なのだから、間違いなくバッドエンドは執行されるのだろう。

 10、9、8、カウントダウンは続いている。もう迷ってはいられなかった。

 俺は意を決して[異世界へ行きトゥルーエンドを目指す]をクリックした。

 カウントが続く。7、6、5……いいさ、やってやろうじゃないか!

 元々トゥルーエンドを目指していたんだ。異世界?それ美味しいの?っな感じで、涙目にさせてやるからな!覚えてろ!

 そして、異世界RPGだかなんだか知らないが、真実のルートを見つけ出す。

「この【国生 新こくしょう あらた】がトゥルーエンドに行き着いてやる!」

 2、1、0……精一杯の叫びの後、カウントは0になり、視界が歪んだ。いや、身体全体が揺らいでいる。

 そして、誰もいなくなった部屋のPCが”プチュン“と音を立て活動を停止した。



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