世界は何も変わらない。変わったものはルールだけ。

クラウン

かこばな終。俺が守る。

俺が魅流に初めてあった時には、あいつが研究施設に来て既に5年以上が過ぎていた。


そいつが施設に入った当時は大騒ぎになったもんだ。そりゃそうだわな。なんたってそいつの為だけに、新しい研究機関が設立された・・・・・・・・・・・・・んだからよ。改めて天川の非常識さを認識させられたぜ。まぁ、そん時ゃ俺にはなんの関係もねぇだろってことで対して興味も無かったんだがな。どんなやつが来たのかも、どんな理由でこの研究施設に来たのかも知らなかったし、知ろうともしなかった。自分の専門だった精神科の研究以外興味がなかったからな。

施設で働く中で、そいつの事は噂程度に小耳に挟んでた。本当かどうか定かじゃないものが多かったがな。あ〜、なんだったか。…そうだな。

例えば、雪のように白い肌に対し闇のような純黒の長い髪。凍てつくような青い瞳を持っている、幼くも美しい子供。
例えば、IQ180を超える天才であり、一度読んだ本の内容は一語一句間違えずに音読できる記憶力。
例えば、身体能力は将来的に、人類の頂き、限界に達する事の出来る逸材。
曰く、神に選ばれた存在。
曰く、才能の権化。
曰く、多才であり異才であり鬼才であり天才。
曰く、人間じゃない。

と、まぁそんな感じだな。どれもこれも信憑性なんて無いものばかりで、どうせ噂が独り歩きしてんだろうと思ってた。

で、まぁ。そいつの研究機関の最高責任者が、俺に話を持ちかけてきた。"君が判断してくれ"ってな。言われた時は言葉の意味が分からなかったが、噂の天才がどんな奴なのかを見てやろうっつー野次馬根性で、専属医の仕事を引き受けた。

その天才に関する書類を渡された時、思わず何だこりゃ?って呟いちまった。いや、あんなの渡されたら誰だって戸惑うぜ絶対。
本人のプロフィールが事細かに書いてあるはずの書類を見たんだがな。あぁ衝撃だったぜある意味。同時になんつーか、不気味でもあったな。そうだな、書いた方が分かりやすいか。ちっと待ってろよ。









〜プロフィール〜
名前()
性別(男)
年齢()
生年月日(02/22)
趣味()
特技(学習、記憶、運動)
好き()
嫌い()


「なんだ、こりゃ?」

趣味趣向が空欄な理由はコミュニケーションが苦手なのか、程度に思うんだがな。名前と年齢、生まれた年が書いてねぇってのは理解できねぇ。しかも問題はこれが、天川財閥が経営する研究施設が作った書類ってことだ。天下の天川がこんな訳の分からんもの作る、なんて何があったんだ?

疑問しかねぇんだが。天才なんて言われてるくらいだ。普通じゃ考えられねえほどに常識外れで甘ちゃんな子供なんだろう。

なんだ、こんな棟なんてなかったろ?研究の為に塔なんて建てやがったのかよ。
あとこの部屋の前にあるネームプレートはなんだ。
1422?
1422ってのはなんだ?訳が分からん。

まぁここまで来たんだ、とりあえず扉開けて。話はそこからだろ。

…んだ、こりゃあ。疑問が溢れかえってきやがったぜ。

広すぎる個室ってのはまぁ分かる。その対応はひとえに、そいつの将来への期待だろうからな。
ベッドは当たり前、トイレもまぁ許容範囲だがシャワーだと?こいつが望んだってのか?
次に、なんで窓が無い?ここはなんだ?ただの個室じゃないだろ、病室でさえねぇ。こんなもん、もはや檻と大差ねぇだろ。いや、刑務所だって申請すりゃある程度のものは支給される。なのにここには子供が好きそうなおもちゃひとつ、本ひとつさえ有りゃしねぇ。

こんなもん絶対に子供の成長に悪い。当たり前だ、まだ10歳くらいなんだぞ。つーか何が闇のような純黒の髪だ真っ白じゃねぇか。大ホラ吹きやがって。

とりあえず話しかけるか。

「おい、なんか欲しいもんとかあるか」

「…ずいぶんと"くせ"のあるお方ですね。団体内でもとくしゅな立ちいちにいらっしゃるようです。」

なん、だ。こいつ…。
俺が来ることを知っていた?いや、それはねぇ。さっきたまたまあったここの責任者にいきなり話を持ちかけられたんだから。
じゃあ何か?たった一言話しただけだろ。なんでそれだけで俺の人生を、俺という存在を理解できる!?これが、噂の天才かよ…。

「…お前」

「どうぞ、ベッドにおすわりください。時間はたくさんあるごようすですので」

…仕方がねぇか。椅子もねぇのかよこの部屋には。

…あん?外からの音が全く聞こえねぇ。どういう事だ?まるで意図的にそう設計してあるみたいだ。

「わからない、と言いたそうなおかおですね。どうぞ、聞きたいことがあるのでしょう?」

「…まず、おまえの名前はなんだ?」

「…1422?」

「はぁ?そりゃ、数字だ。名前じゃねぇだろ」

なんかの暗号か何かかよ?
めんどくせぇ話し方だな、普通に喋れ。

「いえ、ここではそう呼ばれておりますので。個を表すものであるならば、それは名前と言えるかと」

何言ってやがるこいつは。ここではそう呼ばれてる・・・・・・・・・・・だと?

「誰にだよ」

「おそらくは、ここの研究機関につとめるすべての人びとに」

「…なんだと?」

どういう意味だ?理解出来ねぇな。

「……、何も知らないようですね。しかたがありません、見せたほうがはやそうです」

こいつ、ホントに男か?
髪たくしあげて何見せようってんだ?
うなじになに…か……。

「……は、?なん、だ…。それ…」

「見ての通り、バーコードですが。もるもっとがにげないように、消えないらくいんを刻まれました」

バーコード、?実験動物モルモットだと…!?

「訳が、わからねぇぞおい……」

「ですので申しあげました。聞きたいことがあるのだろう、と。分からないことは、分かる人に聞くといい。このばあいはぼくですね」

「1422ってのは、なんだ。なぜその数字が出てくる。数字に意味はあるのか?」

「…、これはよそうです。そしてほんとうにこのよそうが合っているのであれば、たいした理由ではありません。たんに、らくいんバーコードをきざまれた時刻が14:22であったというだけのことですよ」

…なんなんだ、この子の異常性は。それは本当の事なのか?そうであるとして、なぜこの子はその事実を知りながら淡々とそれを説明できる!?話し方は大人のそれだ。完全に自分と、この状況を理解してやがるのか!?

「…親から、つけてもらった名前があるだろう。それを、教えてくれ」

「いいえ、ありません。みなしごですので、孤児院で暮らしていました」

「…そこではなんて呼ばれてたんだ」

「…魅流、と」

「そうか。魅流、だな。じゃあ魅流、お前にはまだ聞きたいことがあるんだが、大丈夫か?」

何が大丈夫か、だ。大丈夫な訳がねぇだろうが。
未だかつて、名前ひとつ知るためにこれ程まで精神を削る問答があったか?
断言出来る。今までも、これからも、絶対にない。あってはならない。

「かまいませんよ。めずらしく5日間ほど、よていは空きましたので。おそらくはあなたのおかげでしょうね」

大丈夫か、という問に"かまわない"。我慢できる範囲ってことかよ。

「魅流は、歳はいくつなんだ?」

「10歳です。誕生日は4月22日、という事になっておりますがこれは正確には孤児院に拾われた日ですね」

「4月だと?2月22日じゃねぇのか?」

「2月、ですか?…あぁ、なるほど。それはおそらく名前と同じですね。14:22。つまりは午後2:22ですので、そう記録していたのでしょう」

実験動物モルモットが誕生した時間を誕生日として登録したってのか?正確な日付が分からねぇなら適当に決めていいとでも思ってやがんのか!?頭ぶっ飛んでるどころじゃねぇだろう!?

「…いつもは何やってる?」

「…?朝起きて、ごはんを食べて、朝の分のくすりをのみます。少し時間を空けて地下へ行き、頭をつかうテストと体をつかうテストを受けます。その後、日によって違う実験を行い、部屋へ戻ります。その時にはお昼を少しすぎておりますので、ごはんをたべて。くすりを飲んで、自由時間です。てきとうな時間にシャワーをあびて、夜になったらごはんとくすり。そして寝ますね」

……。

「薬、ってのはなんだ?何の薬だ?」

「さぁ?聞いたことありませんね。そもそも、研究員とは会話したことがありませんので」

「は?研究員はここに来るんだろう?地下には一緒に行くんじゃねぇのか?」

「その通りですよ。しかし、みな一様にその日のスケジュールを説明し、とるべき行動を命令して終わりですので」

「…話しかけたいと思ったことは?」

「…あなたは、実験用の手ぶくろとマスクをして、実験動物を見るようなしせんを向ける相手とお話したいとおもいますか?」

…どこまで、狂ってやがるんだ。異常なのは魅流じゃねぇ。この研究機関がイカれてる。

「自由時間には、何してんだ」

「とくに何も。ぼーっとしてます。ここには何もありませんし」

暇を潰せるような物を持ってこいって頼めねぇってか。頼まれなくても必要だってことくらい分かんだろうがっ。どれだけこの子の事を考えてねぇんだよっ!

「…実験ってのは、どんな内容だ?」

「さまざまですよ。ついこの間は、体にびじゃくな電流を流してのうはを調べる、と言ったものでした。身体能力のげんかいをこえるのだと」

「電流…だ?おい、どっか怪我してねぇか。ちっと身体見せてみろ」

この小さな身体に、電流を流して実験してた?何考えてやがる人間のやることじゃねぇぞ!

「あ…」

「っっ!!クソったれがっ!!」

なんなんだよ、この、背中の火傷はっ…。なんで、こんな…。何がしたいんだこの研究機関は!?理解が、出来ねぇ…したくもねぇ…。

「これはもうほとんど治っております。はじめのころと比べて痛みも和らぎましたので。ご心配にはおよびませんが」

「心配するに決まってんだろうがっ!?お前はまだ子供なんだぞ!親に甘えてて良い年なんだよ!なのに、こんな…」

「…、」

「……いつからだ」

「、?
ここに来た時から、似たような生活を送っておりますが」

「こんな、拷問紛いなことを。5年以上も、かよ…」

「…泣いて、おられるのですか?あなたが涙をながすひつようなど、どこにもありはしません。」

うるせぇ…。お前が泣かねぇからだろうがよ。ちくしょうが。情けねぇ、情けねぇ…っ。
何が天才だ何が人類の限界だ!クソ喰らえってんだよっ!!

「もう、実験はしなくていい。この施設からも、離れるぞ。俺と、一緒にだ…」

「…あなたの、お名前をお聞きしても?」

「…天川。天川、剛だ。好きに呼ぶといい。」

「あまのがわ…そうですか、やはり。」

「…嫌か?この施設の関係者とは、もう関わりたくねぇか?」

出来ることなら、俺が。

俺がこの子を、魅流を守ってやりたい…。

「いいえ。この生活には、そろそろ限界を感じておりました。おそらくですが、このままだとぼくは壊れてしまいます。ですので、」

-あなたとともに。

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