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世界は何も変わらない。変わったものはルールだけ。

クラウン

自らの過去。覚悟試し。

原初の記憶。
それは、ぼくは一度死にそして俺として生まれ変わったのだと理解した瞬間だ。当時は1歳を迎える2日ほど前だった。

辺りに親らしき人物は見当たらず、代わりにシスターの格好をした女性が俺を抱いて、困ったように微笑んでいた。ここは孤児を育てる場所で、俺は捨てられたのだ。別段恨んでもいなかった。ただ、なぜ捨てたのだろうという疑問は抱いていたのだが。金か、望まぬ子であったのか、俺のこの日本人離れした青い瞳・・・を恐れたのか。

俺という人格がはっきりしてからは、ここは前世とは全く異なる、つまりは異世界であるのだと理解した。前世で生きた世界はここよりも文明は発達してはいなかったし、なにより人間以外の知的生命体や、魔法なんかのファンタジックなものも存在していたから。

まぁ、そんなこんなで前の世界との差異やこの世界の常識、言葉なんかを学ぶのに、3年ほどを要した。文字の読み書きをマスターした後は、前世でも好きだった読書に没頭した。幸い、俺を拾ってくれた孤児院は世界でもトップレベルの財閥団体である天川財閥が経営する施設だったから、蔵書の数に不満なんてものは抱かなかった。

それから2年、本で得た知識やそれに基づく疑問を孤児院にいた大人に尋ねたりして日常生活を送っていた…ら、酷く心配されてしまった。
曰く、お友達と遊びましょう?だそうだ。

まぁ待て。確かにここには沢山の同類おともだちがいたのだが、皆精神的には一回り以上年下の子供たちだったのだ。話は合わない、趣味は合わない、そもそも思考や価値観に超えられないほどの壁が存在した。

のらりくらりと大人達の心配を躱していると、いつの間にかこういう疑問を抱かれてしまっていた。
曰く、この子は神童、天才なのではないのか?

いや待て。勘違いをしているぞ、お前達。俺には記憶があるだけだ。既に20年以上も生きた記憶が。別に神童や天才なんていう選ばれた存在なんかじゃないことは俺が一番よく知っている。

という事実を遠回しに伝えたのだが信じてもらえず、俺はついに天川財閥が経営する研究施設に連行されてしまった。
そこで俺は、様々なテストを受けた。知能指数を測るもの、思考回路を調べるもの、自分の保有している価値観を知るためのもの、IQ診断、果てや多種多様な身体機能測定まで。

調べたあとは、研究と考察。そして実験。その繰り返しだ。薬物を投与されたこともある。電気的な信号を脳と体に直接与えられ、知能の限界、身体能力の限界を強制的に超越させられたこともある。拷問かと思うほどキツい経験をしたことも、しばしばあった。実験の名残が、今もきおく肉体からだ精神こころに刻まれている。そんな生活を、実に6年ほど。

多様な研究、度重なる実験。過度な期待によるストレスで、奇しくも前世の姿と同じ様な青眼に白髪という、現代社会ではおよそ存在しないような見た目となってしまった。

限界を感じた俺は、いや既に限界など超えていたのかもしれないのだが。ある日、真実を打ち明けることに成功したのだ。俺には前世の記憶があり、決して天才などでは無いのだと。真実だと理解させるために、前世で得た知識を披露した。魂は流転する現象、転生輪廻説の存在、その理論。

しかし、それは俺にとっての真実ではあったのだが。世間の、いや。この世界での常識ではなく。

当然のように、隔離監禁されてしまった。精神異常患者として。確か、病名は…中度精神早熟障害及び総合失調症、そして失感情症の3コンボ。

中度精神早熟障害。簡単に言うと、あの子ちょっと大人っぽい、の究極系だ。まぁ、大人っぽかったと言うよりは、大人であった事があるのだが。

総合失調症。これは幻覚や幻聴、幻を見てしまい、意味不明な言動を繰り返してしまうものだ。原因は不明。俺が話した前世の記憶は、この精神病による幻覚だと判断された様だ。

最後に失感情症。読んで字のごとく、感情を失ってしまう病気の名だ。

まぁ、他にも身体能力がずば抜けて良いことも研究対象となっていたから、生活は最低限保証されていたのだが。広く真っ白な個室。ベッド、トイレにシャワー。そして食事は3回。

決まった時間に研究され、調査され、実験され。前世の記憶の事を話す前よりもずっとマシになったのだが、相も変わらず辛い事に変わりはなかった。なんせ初めてだったからな、これほどまでに自由を除去された生活は。

そして少しして、俺のその色褪いろあせた生活に変化が訪れた。

それが、専属医である天川剛せんせーとの出会いだった。





「と、まぁそんなこんなでせんせーと初めて対面して…ってうわ汚な」

え、汚な。涙と鼻水で顔ぐっちゃぐちゃ何だけど。
そんなに泣く?俺より悲しんでんじゃん汚な。

「…なんでぞんな……ひどいごど…っ」

なんで、ねぇ。

「当時の俺の考えでは、俺の脳と身体能力は研究対象として価値があったからっていう理由だな。5歳から11歳までの6年間、研究施設にいた。人間の脳は11〜12歳には成長しきってしまうから、これ以上ここに居ても価値は半減する。けれどまだなくなったわけじゃないから、肉体の成長が止まるまでここに監禁され続けるんじゃないか、ってね。」

まぁ、別に住所も学歴も戸籍さえあるかどうか分からなかったし。施設を追い出されたら行く宛なんて無かったから。どっちもあんまり変わんないかなぁ、とは思ってたけど。

「まぁ、俺の考えは当たらずしも遠からずって感じだったけど。それと、今話したのは完全に主観的なものだから。実際の当時とは齟齬そごがあるかもしれない。ま、まだ聞きたかったらせんせーから聞きなよ。」

17:35。かこばなしゅーりょー。
ちょっと気分悪いから2階のベッドで休むわ、せんせ。
あとよろ〜…。





「あ〜、とりあえず顔洗ってこい。流し向こうにあるから」

ったくホントによく泣くな、こいつは。感情表現が豊かっつーかなんつーか。まぁ、気持ちは分からなくもねぇ。俺からしても相当に、当時の魅流の立場やあいつを取り巻く環境は、クソみてぇにえげつねぇモンだったからな。

「落ち着いたか?」

「…魅流の言ってたこと、ほんとうなのかよ」

「…そうだな。あいつの説明じゃ足りねぇ所もあったが、おおむねそんな感じだし、前世の記憶っつーのも俺は信じてる」

だいぶ端折ってたが、人に聞かせるものじゃねぇしな。桐生のことを考えてわざと言わなかったのか、無意識か…。

「その言い方じゃあ、まだ、あるのか?なにか、その…」

「もっと酷いこと、か?そりゃ、桐生次第だろうな。俺は客観的に当時の魅流を見ていて、専属医としての、あの状況の見解を持ってるってだけだ」

「…教えて、くれ」

「なぜ?」

単なる好奇心か、自分の知りたいという欲求を満たしたいのか。であるならば止めておけ。話す方も聞く方も気分のいいもんじゃねぇ。実際、話してる途中からあいつの顔色はどんどん悪くなってやがった。こいつは気づいてねぇみてぇだが。

「…俺は普通の家で育ったから、普通に遊んで、真面目に剣道やって、苦手だけど勉強も、少しはやって。だから、魅流がそんな、辛い過去があるなんて考えてもみなくて、容姿とか髪とか、単に綺麗としか思わなくて」

学園からのスカウト枠だ、つってたからな。一般家庭なら誰でもそんなもんだろ。寧ろ天川に見初められるくらいの剣道の腕ってんなら、一般と呼べるかは疑問だが。

「でもっ。それでも魅流のことなんだろう!?仲間の、ことなんだ!オレは、それがどんなことでも聞きたい。聞き届けたいと、思うんだ」

「仲間なら何でも話さなきゃならねぇのか?気が狂うほどの辛い過去でも。だとしたら俺も、魅流にもそんな仲間なんて要らねぇな。2人だけで生きていける。実際、今までもそうしてきた」

「…っ。」

「正直言って、俺は喋りたくねぇ。胸糞悪ぃ話だ。ハッピーエンドじゃねぇってことくらい、お前にも分かってるよな?」

さて、どう出る。ちっと大人気ねぇかもしれねぇが。この程度の脅しで引き下がるようじゃ、どの道受け止めきれねぇ内容だ。もう一生話すことなんてねぇだろうぜ。少なくともお前にはな。

「…それ、でも。お、れは…」

…。


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from:ミル
話していいよ
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「……ふぅ〜。あ〜ぁ、やめだやめ。試すような真似して悪かったな」

「…え、?ため、す?」

あいつ…ベッドで休んでんだろ?話聞いてたわけじゃねぇよな?どんなタイミングだ、全くよぉ。

「話していい、だとよ」

さぁて、と。どっから話すかねぇ。

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