職業通りの世界
第79話 それぞれの確認
 馬車を走らせる事30分。文送屋の目印である青い石がはみ出ている建物が見えてきた。
 あの青い石が文章を送るのに重要なものらしい。同じ石同士なら遠い場所でも届く代わりに石の先端は外に出ていないといけないらしい。城にあったやつも塔のような場所の最高部にあった。
「そろそろ着くわ。私は留守番しとくけど、他は?」
「俺は行くぞ」「「私も~」」「俺も気になるな~」
 またもメイカ以外行くので、少しメイカは拗ねた様子で「了解ー」と言って前に向き直った。
 それにしても、さっきから街を見ているが特に変わった様子が無いな。てっきり殺人鬼に怯えて人通りが少なくなっていたり、見張りが徘徊してもおかしくはないのに、全く他の街と変わらない。これは早く聞き込みとかをした方がいいか?
「着いたわよ~」
 考え事をしている間に着いたようで、不機嫌そうなメイカの声をキッカケにお嬢様もメサも巧も楽しそうに降りだした。俺も降りようと思ったがメイカの背中があまりにも寂しそうだったので…
「巧っ」
「ん?おっと」
 無限収納から金貨が入った袋を取り出して巧に投げる。巧は急に飛んできた袋を危なげなくキャッチし、首を傾げた。いきなりこんな事をされたのでイマイチ訳が分かっていないみたいだ。
「悪いが、ちょっと疲れたからここで休んどくわ。あの副騎士団長様に送る文章は分かるだろ?」
「…あ、ああ!よし、任せとけっ」
 巧は頼りになると思わず感じてしまうほど自信満々に親指を立てると、お嬢様とメサを連れて店の中へと入って行った。向かう途中でお嬢様が戻ろうとしたが、巧が少し強引に連れて行った。……まあ、別にいいんだが、余計な事はしないだろうな?
「……ちょっと、私に気を使ったつもり?」
 巧たちを見送った後、メイカは不機嫌そうな表情を浮かべたまま、睨むように俺を見ているが、口元とかは完全に嬉しそうな様子が隠せていない。リアルツンデレだな。
「疲れたのは本当だ。……それに、お前に聞いときたい事があってな」
「な、何?」
 操縦席へと向かい、カーテンのある窓枠のような場所をくぐって席へ座りながら話していてメイカの表情は見えなかったが、声が少し上ずっている。何か不都合な事でもあるのか?
「俺たちが出て来るまでに何か変な事や、監視するように見ているやつとか居なかったか?」
「……あ、そういう事」
 メイカは何か小さな声で言ったが、聞き取れず聞き返すと何故か怒られた。本当にツンデレというのは分からない。
「別に何も無かったわよ。怪しい人も気配もね」
 拗ねたように言うメイカの言葉を信じるとすれば、少なくとも俺が教会で暴れていたなどの事は知り得ていなかったという事。つまり、俺たちが出て来た瞬間に俺たちの存在に気付き、すぐに駆けつけ、あの殺気を放ったという事になる。
 果たしてそんな事が可能なのか?確かに、『闇夜の暗殺者』は影を自在に移動出来るはずだが、馬車以上の速度で移動出来るのか、外の様子を詳細に知る事が出来るのかも知らない。全く相手の事が分からない以上、過剰に相手を警戒するしかないだろう。
「分かった、ありがとう」
「別に良いわよ。それより、何で壁に穴を開けたの?」
 ……あ、そういえばメイカに教会で起こった事を話していなかったな。でも、本当の事を言っても信じてもらえないだろうしな…。
「ちょっとな。巧を治療してもらうのに高位な人に診てもらわないといけなくて、巧を優先的に治療してもらうのに力を示せとか言われてな」
「ふ~~ん」
 すごく信じていないのが分かる視線で見つめてくるが、何も言ってこないから取り敢えずはそれで良いとしたみたいだ。
「それで、本当に良かったの?」
「別に良いんだよ。巧もついているから何も問題はないだろ」
 本音を言えばお嬢様の傍に居たかったが、メイカをあんまり1人にするのも寂しいだろうしな。……周りは家族とかと楽しく過ごしているのに、自分だけは1人で過ごしているのは言い知れぬ寂しさがあるからな。
 それに、スキル空間把握でお嬢様と巧、メサの動向は把握しているから問題があればすぐに駆けつけられる。
「なあ、ちょっと練習に付き合ってくれるか?」
「何言ってるの?ここから離れる訳にもいかないし、第一、あなたの実力に私はーー」
「お前こそ何言ってんの?これの練習に決まってるだろ?」
 スキル無限収納からオセロを取り出しメイカに見せると、メイカは子供らしい笑顔を浮かべながらオセロの石へ手を伸ばした……。
「うわ~、すごい綺麗な石だね~」
「こういう石は魔法石って言うらしいよ」
 巧くんに連れられて文送屋という青い石が突き出た店に入ると、外からも見えていた大きな青い石を中心として、円の形に受付があって色んな人が受付の人に話し込んでいた。
「いらっしゃいませ~!王都、周辺都市は40分。他の都市や町はすぐに対応出来るところが多いんですけど、どこに送りますか?」
 辺りを見渡していると、赤い髪を左右に結ったこの店の制服らしい少しフワフワしたスーツのようなものを着た10代後半の女性が話しかけてきた。
「はい。王都《グレイア》に居る副騎士団長様に緊急の報告がありまして」
 陸人から教えてもらった口上をそのまま伝えると、係員は焦ったようにすぐさま案内してくれた。
 案内してもらった受付に座る係員は、事情を伝えられても狼狽える事なく冷静に腰かけるように言ってくる辺り、相当前から居る人なんだと思う。
「それでは伝える内容を教えてもらえますか?」
「はい。《ナサーハ》に到着、これから現地調査を行う。それに伴い、3~4日以内にこちらまで来て欲しい。また連絡があれば追って伝えるーーと、こんな感じで送って欲しいんですけど」
「承知しました。では、明日またいらしてください。返事があればそれをお渡しします。お支払いは出入り口付近にありますので」
 意外とあっさり終わって少し拍子抜けしたけど、問題が起きないのが一番いいよね。さっさと陸人のところに戻りたいし。
「あ~あ、結局朱音さんが全て終わらしちゃったから大して面白くなかったな~」
「そもそも、ここは楽しいところではないですよ?」
 後ろで退屈そうに歩く巧くんと呆れたような声色で話すメサちゃんが居るのを確認しつつ、お支払いをしに行く。
 それにしても、陸人が私から離れるなんて珍しいな~。何も言わなくても一緒に居たのが普通だったのに。それに……少しだけだったとしても意味も分からず離ればなれになった後なのにな…。
「……巧くん。そこでお支払いするみたいだよ」
「了解、了解~」
 巧くんが面倒くさそうに支払いに行くのを見届けながら、私は陸人の事を考えられずにいられなかった。最近、特に離れる事が多くなって、私はこんなにもモヤモヤしているのに、陸人はまるでそんな素振りを見せない。さっき、ミスラって言う女神様によって離ればなれになった後は抱き締めてくれたけどな……。
「……悪いけど退いてくれるか?」
「あ、すみません…」
 どうやら深く考え過ぎたようで他の人の邪魔になっていたようで、すぐに横にずれる。私に話しかけて来た人は、私がさっきまで居たところを通って行ったけど、……私たちと同じ黒い髪じゃあなかった?
 確かめようと振り返っても、そこには黒い髪の人も、その人が着ていた黒いローブのような外套を纏っている人も居なかった………。
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