職業通りの世界
第72話 Sランクの魔物
 朝日が昇り、気持ちの良い朝を迎え、いつも通り俺が食事を作り、メサとメイカが馬車を動かす。巧はしっかりとした朝飯を食えた事と思った以上に良かったらしいメサとメイカの運転に感激していた。……昨日から馬車はメサとメイカが動かしていたんだけどな。
 何も問題は起きず、馬車の中でオセロをしたり、しりとりをしたり、ポカポカした中で昼寝をしたりして穏やかに過ごしていた。
 やっぱりあの時がおかしかったんだ。あんな問題が立て続けに起こる筈がない。筈は無い……と思いたかった。
「リクトさん!また魔物が!!」
 城を出てから3日目、あと4日で着く距離になってからやたらと魔物が現れ始めた。それは雑魚の《ゴブリン》から、中々強いレベルの中型のドラゴン《ロックドラゴン》まで幅広いレパートリで、1日に5回も出くわしている。
 今回は《スライム》の大群だ。《スライム》はゲームなどでは雑魚とされているが、物理攻撃がほとんど効かない、何ともまあウザい魔物。しかも、人間を取り込んで消化するというのだから、魔法を持たない人からしたら、身近な最大の脅威と言える。
「"フレイショット"!!」
 まあ、魔法使いのお嬢様が居るから一瞬で片付いたが。
 焼けた大地と抉れた地面、そこらに飛び散る《スライム》だった一部をメイカに避けるように地面に降りて指示する。
 それにしても、街に近づくにつれて魔物が増えていっているのはおかしくないか普通?まるで、外部からの人を避けているみたいじゃないか。
「リクトさんっ!後ろっ!!」
「あ?」「グルガァァァ!!」
 俺が振り向くのと同時に威嚇したであろう、魔物が空気を震わす叫びを上げる。耳を塞ぎながら魔物の姿を直視すると……それはゲームなどでは王道で、同時に中ボスのような存在である巨大な大狼《グランドウルフ》がそこに居た。
 《グランドウルフ》とは黒い体毛に所々に血のような赤い体毛がある、人を簡単に噛み砕けそうな鋭い牙と家も切り裂けそうな爪を持つ、全ての狼型の魔物の頂点とされている、Sランクの魔物。常人がいくら集まっても、Aランク冒険者がいくら集まっても、羽虫のように蹴散らす規格外の存在。そんな奴がここに居る。何故、こんな魔物がいる!?
「ヒッ!!リクト!取り敢えず逃げーー馬が!?」
 メイカの叫び声を聞き、振り返ると馬が完全に怯えきって動けずにいた。手綱を握っているメイカが必死に馬を動かそうとするが、馬は本能的な恐怖でもう駄目だ。
 異常事態にお嬢様と巧は馬車から飛び降りて俺の傍に来る。
「陸人!ここで迎え撃つ!?」
「駄目です、やるならここから離さないとメサとメイカが危ない!」
「なら、誰かが注意を惹きつつ、残りで攻撃をしたら良くね?」
 巧が馬車に積んでいた、刀身が1.5mはありそうで柄は包帯で巻かれ、黒っぽい群青色の片刃の大剣を肩に担いで視線は狼から離さず呟く。
 お嬢様も巧も、冷や汗を滲ませているところから焦っているに違いない。だが、焦りは何も生まない。今はーー
「グガァッ!」
「うおっ!?」
 俺が武器作成で刀を作り出し、1歩踏み出した2人から少し前に出た一瞬で、《グランドウルフ》は俺を邪魔だと言わんばかりに、前足を振るう。5mはありそうな《グランドウルフ》の前足の振りは俺の身長とほぼ同じで、何とか反射的に反応して刀を盾にするが、刀は簡単に砕けて地面へ吹っ飛ぶ。
「陸人っ!!」「このクソ狼がぁっ!!」
 揺れる視界の中、鈍い痛みがある頭を押さえつつ起き上がると、お嬢様が俺の傍にやって来て傷の様子を確認し、巧は大剣を《グランドウルフ》へ振り下ろしているが、かなり浅い傷しか出来ず、俺のように吹き飛ばされていた。
「今からでも遅くないから撤退しよ!?あんな魔物に勝てないよ!!」
 お嬢様は俺を庇うように立ち、視線は真っ直ぐ前に向けたまま告げる。確かに、今の俺たちには早い相手なのかもしれない。
 だが、今やらなければメサとメイカが死ぬ。それだけはどうしても容認出来ない。
「お嬢様、今から全力を出します。お嬢様は俺が下がった瞬間に今使える最大の魔法をお願いします」
「良いけど……、それで無理ならすぐに陸人を連れて逃げるからねっ!!」
 お嬢様は両手を突き出し、魔法陣のようなものを浮かべた。どうやら魔法の準備を始めたらしい。
 なら、俺はまず全力で戦う為の武器を作るか。
 スキル武器作成は俺のイメージ力で武器を作り上げるスキル。今みでは少し強い鉄をイメージして武器を作っていたが、それだけではあの魔物には足りない。
 もっと!もっと強い素材。そのために城に居る頃にこっそり鉱物について調べておいた。
 この世界で一番硬い鉱物は"古代石"。大部分は真っ黒だが、所々にダイアモンドのような白い輝きを放つ鉱物。その鉱石は巨大なドラゴンの一撃も強大な神の一撃も3度は受け止めたという。
 ……硬い刀、黒い刀、壊れない刀、鋭い斬れ味を持った……刀!
 イメージが固まり、右手を開き、スキル武器作成を使う。すると、一瞬地面を焦がすほどの雷のようなものが手から出て、普段の目にも見えないほどの構築ではなく、ゆっくりと俺の望み通りの刀へと形取っていく。
 5分程でそれは完成した。刀身は真っ黒で、所々にダイアモンドのような白い輝きを放ち、柄も丸みを帯びているが刀身と同じものだ。
 スキル
・武器作成
 が消滅しました。
 ……………は?スキルが消えた?
「陸人ぉっ!まだかぁ~~!?ーーぐっ!?」
「グルゴォォォッ!!」
 スキルの事で周りに目が行かず、気付けば巧が全身太い大剣で斬られたような有り様になっていた。今の今まで巧一人で《グランドウルフ》の気を惹かせられたのは、巧の技量だろう。
 この際、スキルの事なんてどうでもいい。今はただあの狼をねじ伏せる!
「限界突破!身体強化!」
 全身に身体強化魔法をかけ、スキル限界突破も全力で使い、《グランドウルフ》に肉薄する。今のスピードはカレナさんほどでは無いが、かなりの速度で迫ったというのに、獣らしからぬ洞察力と獣らしい動体視力、反射神経で俺に爪を振り抜いてくる。
「お~っらぁっ!!」
 迫って来た俺の半身はある爪に、踏み込みを加えて思いっきり刀を振り抜くと、少しの衝突の後に爪を紙のように斬り飛ばした。
「グルゥッ!!」
 自身の爪が思いのほか簡単に斬られた事に驚いたのか、瞬時に飛び退いて距離を取って来た。本当に魔物かと疑いたくなる判断力だ。
「次で仕留める!」
 クラウチングスタートの姿勢を取り、足の裏に"ブレスト"を発動して加速力をあげ、タイミングを見計らう。
 それが一発で決めるものだと理解したらしい《グランドウルフ》は自身も姿勢を低くして、勢い良く飛びかかる構えを取る。
 スキル限界突破は時間が経てば経つほど不利になる。なので、俺は思い切って俺から足を出した。
 瞬間的な加速と自身の圧倒的な身体能力で、あっという間に《グランドウルフ》の目と鼻の先まで近づき、逆手に持った刀を《グランドウルフ》の体を斬りながら通り過ぎるように振り抜いた………。
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