職業通りの世界
第15話 勇者一行vs騎士団長
 
 お嬢様と腹を割って話し合った日から1ヶ月。
 国王やカレナさんに色々超速再生の事を聞かれたり、お嬢様に頼まれてカレナさんを含めた女子だけのお茶会の用意をしたりと、そこそこ色んな事が有ったが、特に何も問題も事件も無く過ぎ去っていった日々だったので割愛しよう。
 俺とお嬢様は勿論、クラスメイトのみんなも真剣に訓練を受け、俺とお嬢様は身体強化をしたカレナさんを安定して倒せるほどになったが、他の奴らは訓練している場所も違う事からどうなっているのか全く分からない。巧や悠に聞いても「まだ秘密」と言われてはぐらかされる。
 そんな感じだったのだが、今日は1回目のカレナさんに挑戦する日らしい。何でも、国王があいつらを城に居させるのに3ヶ月という期限を出したらしい。その期限までにカレナさんに膝をつかせたら、国王に認められ、正式に勇者として名乗る事が出来る。ま、俺は執事だからあんまり関係ないけど。
 俺とお嬢様が訓練を受けていた城周辺の広めな庭で、奥にカレナさんがストレッチを、手前には緊張した様子のクラスメイトたちがいる。
 そして、お嬢様は、俺が作った丸いテーブルに紅茶とスコーンをジッと見ながら椅子に座り、その向かいにはお姫様が我慢出来ずにスコーンを食べ進めている。俺はその様子をお嬢様の傍に立って見ている。
 国王は仕事が立て込んでいるらしく、副騎士団長はずっと俺たちの訓練に付ききっきりなカレナさんの穴を埋める為に任務に明け暮れているらしい。
 
「よーし!見てろよ陸人!!」
「あー、分かってる分かってる」
 やけに自信満々な巧を適当に流しつつ、梶木と悠を見る。
 梶木は連携は悪そうだ。実力は全く知らないが、弱くは無いはず。
 悠は騎士の人から借り受けた剣を慣れた手つきで持ち、ただカレナさんを見ている。多分、悠が一番強くなってると思うんだけどなー。勇者だし。
 一方、間宮は完全に戦力外らしく、一番こっちに近い。まあ、癒術師だから仕方ないか。
 くるみはトゲというワイバーンを撫でながら、仲良さそうに話しかけている。あっちはコミュニケーションにおいては完璧なんだろうな。
「……あ、あの陸人さん」
 口にいっぱいスコーンの食べカスを付けたお姫様が俺に話しかけて来た。俺はお姫様に近づき、道具作成でハンカチを作り出し、口を拭ってやる。一応一国の姫なんだから、だらしないというか、格好がつかないのはダメだと思ったからな。
「あ、………ありがとうございます」
「いえ。して、要件とは?」
 「そうでした」とお姫様は年相応に可愛らしく開いた左手に握っている右手を置いて何かを思い出したのを表現した。
「今回、どちらが勝つと思います?」
 結果、聞かれたのは至極普通な問い。確かにお姫様としては気になるところだろうが、そんなの決まっているだろう。
「言うまでもなく、騎士団長様だと思いますが」
 俺は軽くクラスメイトたちを一瞥しながら言った………。
「よしっ!絶対勝つぞ!!」
「おうっ!!」
 僕の呼びかけに応じたのは巧くんだけで、他は自分の事しか考えていないみたいだ。今はそれで良いかもしれないが、これから魔王を倒すのにそんな感じだと魔王を倒す事なんて到底出来ないという事を分かっているのだろうか?
「……梶木くんが魔法で援護、くるみさんは時々攻撃する程度に命令して。間宮さんは怪我人が出るまで待機、青山くんと巧くんと僕が頑張ってカレナさんを倒そう。でも、青山くんは僕や巧くんから攻撃を防ぐ事を忘れないように」
 返事は返ってこなかったが、鎧の音やトゲの鳴き声から、準備は万端のようだ。
「よし、行くぞ!!」
 僕と巧くんが一斉に走り始め、その後ろを青山くんが付いてくる。
 まず、最初に攻撃したのは梶木くんだ。
「しゃらくせぇ、これで死ねっ!!」
 僕たちから自分が動く事で射線を外した梶木くんが手からバスケットボール程度の火球を撃ち出す。それは真っ直ぐカレナさんのところへ行ったが、易々と腰に下げていた剣で両断される。
「おらっ!」
 一気に走るペースを上げた巧くんは、走っている勢いのまま、軽く跳んで右手に持った両刃直剣を振り下ろした。
「甘いですよ」
 それなりに力の込もった一振りを片手で持った剣で防がれ、空中で体勢を崩した巧くんに容赦なく腹蹴りを入れる。
 腹蹴りを食らった巧くんはくの字になり、僕の方へ飛んできた。
「青山くん!巧くんをお願い!!」
 僕は右に勢いよく飛び出て、飛んできた巧くんを躱し、カレナさんに斬りかかる。
ーガキィンッ
 僕の両手を使った斬り込みも、軽く片手に持った剣で防がれ、膠着する。それを崩したのは梶木くんで、
「退けろっ!」
 その声が聞こえた瞬間に斬られる事も覚悟して無理やり剣を横に逸らして、その場から脱出すると、カレナさんに3つの高圧だと分かる水が一直線に向かった。それも剣の一振りでただの水滴へと変わり、辺りに降り注ぐ。
「チィッ!これならーー」
「梶木くん!僕が注意を向けさせるから隙を突いて魔法を!!」
 僕は梶木くんの返答も無しに、再びカレナさんに斬りかかるが、今度は左に90度回られて剣をスカされ、ガラ空きになった横腹に重い拳を受けてしまった。
 メリメリと拳が横腹にめり込み、次の瞬間、爆薬が爆発したかのように吹き飛ばされる。  
 何度も地面を転がり、視界がぐるりと回っておぼつかない。漸く止まったと思いきや、横腹に強い痛みを感じてまともに起きる事が出来ない。今頃気づいたが、剣を手放してしまったようだ。通りで転がっている時に剣が体に刺さったりしなかった訳だ。
 重くて痛む体、あやふやな意識の中で何とか起き上がると、カレナさんと鎧、刀身が少し長い両刃直剣、下半身全体を隠せる程の大きな盾を構えた青山くんが剣を打ち合っていた。
 剣も盾もあるのに、鎧すら着けてないカレナさんに押されていた。剣を防ぐ度に身を仰け反りそうになり、剣を全てスカしている青山くんとカレナさんの実力差は歴然だった。
 怯えて指示も出していないくるみさんや、倒れている巧くんの回復に手一杯な間宮さん、青山くんのせいで魔法が撃てなくてイライラしている梶木くん。あまりにもバラバラな僕たちは、魔王はもちろん、この人にすら勝てないだと悟った。
「ぐっ!!」
 遂に唯一まともに打ち合った青山くんも、カレナさんの回し蹴りを受けて倒れてしまった。
 ………駄目だ、負けられないんだ。こんな感じで弱いままじゃ駄目だ。僕は勇者として、この世界に住む人たちを救わないといけないのに!!
 剣はどこだ?あ、あんな遠くに……。遠いけど取りに行かなくちゃーー
「うっ!」
 急に聞こえた呻き声のした方を見ると、崩れ落ちた梶木くんを見下ろしているカレナさんが居た。……いつの間にあの距離を走ったんだ?
「もう今日はここまでのようですね」
「…!まだだ!まだーー」
 僕は止めようとしたカレナさんに抗議しようとしたところで、首に痛みを感じる間も無く意識を失った………。
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 お嬢様と腹を割って話し合った日から1ヶ月。
 国王やカレナさんに色々超速再生の事を聞かれたり、お嬢様に頼まれてカレナさんを含めた女子だけのお茶会の用意をしたりと、そこそこ色んな事が有ったが、特に何も問題も事件も無く過ぎ去っていった日々だったので割愛しよう。
 俺とお嬢様は勿論、クラスメイトのみんなも真剣に訓練を受け、俺とお嬢様は身体強化をしたカレナさんを安定して倒せるほどになったが、他の奴らは訓練している場所も違う事からどうなっているのか全く分からない。巧や悠に聞いても「まだ秘密」と言われてはぐらかされる。
 そんな感じだったのだが、今日は1回目のカレナさんに挑戦する日らしい。何でも、国王があいつらを城に居させるのに3ヶ月という期限を出したらしい。その期限までにカレナさんに膝をつかせたら、国王に認められ、正式に勇者として名乗る事が出来る。ま、俺は執事だからあんまり関係ないけど。
 俺とお嬢様が訓練を受けていた城周辺の広めな庭で、奥にカレナさんがストレッチを、手前には緊張した様子のクラスメイトたちがいる。
 そして、お嬢様は、俺が作った丸いテーブルに紅茶とスコーンをジッと見ながら椅子に座り、その向かいにはお姫様が我慢出来ずにスコーンを食べ進めている。俺はその様子をお嬢様の傍に立って見ている。
 国王は仕事が立て込んでいるらしく、副騎士団長はずっと俺たちの訓練に付ききっきりなカレナさんの穴を埋める為に任務に明け暮れているらしい。
 
「よーし!見てろよ陸人!!」
「あー、分かってる分かってる」
 やけに自信満々な巧を適当に流しつつ、梶木と悠を見る。
 梶木は連携は悪そうだ。実力は全く知らないが、弱くは無いはず。
 悠は騎士の人から借り受けた剣を慣れた手つきで持ち、ただカレナさんを見ている。多分、悠が一番強くなってると思うんだけどなー。勇者だし。
 一方、間宮は完全に戦力外らしく、一番こっちに近い。まあ、癒術師だから仕方ないか。
 くるみはトゲというワイバーンを撫でながら、仲良さそうに話しかけている。あっちはコミュニケーションにおいては完璧なんだろうな。
「……あ、あの陸人さん」
 口にいっぱいスコーンの食べカスを付けたお姫様が俺に話しかけて来た。俺はお姫様に近づき、道具作成でハンカチを作り出し、口を拭ってやる。一応一国の姫なんだから、だらしないというか、格好がつかないのはダメだと思ったからな。
「あ、………ありがとうございます」
「いえ。して、要件とは?」
 「そうでした」とお姫様は年相応に可愛らしく開いた左手に握っている右手を置いて何かを思い出したのを表現した。
「今回、どちらが勝つと思います?」
 結果、聞かれたのは至極普通な問い。確かにお姫様としては気になるところだろうが、そんなの決まっているだろう。
「言うまでもなく、騎士団長様だと思いますが」
 俺は軽くクラスメイトたちを一瞥しながら言った………。
「よしっ!絶対勝つぞ!!」
「おうっ!!」
 僕の呼びかけに応じたのは巧くんだけで、他は自分の事しか考えていないみたいだ。今はそれで良いかもしれないが、これから魔王を倒すのにそんな感じだと魔王を倒す事なんて到底出来ないという事を分かっているのだろうか?
「……梶木くんが魔法で援護、くるみさんは時々攻撃する程度に命令して。間宮さんは怪我人が出るまで待機、青山くんと巧くんと僕が頑張ってカレナさんを倒そう。でも、青山くんは僕や巧くんから攻撃を防ぐ事を忘れないように」
 返事は返ってこなかったが、鎧の音やトゲの鳴き声から、準備は万端のようだ。
「よし、行くぞ!!」
 僕と巧くんが一斉に走り始め、その後ろを青山くんが付いてくる。
 まず、最初に攻撃したのは梶木くんだ。
「しゃらくせぇ、これで死ねっ!!」
 僕たちから自分が動く事で射線を外した梶木くんが手からバスケットボール程度の火球を撃ち出す。それは真っ直ぐカレナさんのところへ行ったが、易々と腰に下げていた剣で両断される。
「おらっ!」
 一気に走るペースを上げた巧くんは、走っている勢いのまま、軽く跳んで右手に持った両刃直剣を振り下ろした。
「甘いですよ」
 それなりに力の込もった一振りを片手で持った剣で防がれ、空中で体勢を崩した巧くんに容赦なく腹蹴りを入れる。
 腹蹴りを食らった巧くんはくの字になり、僕の方へ飛んできた。
「青山くん!巧くんをお願い!!」
 僕は右に勢いよく飛び出て、飛んできた巧くんを躱し、カレナさんに斬りかかる。
ーガキィンッ
 僕の両手を使った斬り込みも、軽く片手に持った剣で防がれ、膠着する。それを崩したのは梶木くんで、
「退けろっ!」
 その声が聞こえた瞬間に斬られる事も覚悟して無理やり剣を横に逸らして、その場から脱出すると、カレナさんに3つの高圧だと分かる水が一直線に向かった。それも剣の一振りでただの水滴へと変わり、辺りに降り注ぐ。
「チィッ!これならーー」
「梶木くん!僕が注意を向けさせるから隙を突いて魔法を!!」
 僕は梶木くんの返答も無しに、再びカレナさんに斬りかかるが、今度は左に90度回られて剣をスカされ、ガラ空きになった横腹に重い拳を受けてしまった。
 メリメリと拳が横腹にめり込み、次の瞬間、爆薬が爆発したかのように吹き飛ばされる。  
 何度も地面を転がり、視界がぐるりと回っておぼつかない。漸く止まったと思いきや、横腹に強い痛みを感じてまともに起きる事が出来ない。今頃気づいたが、剣を手放してしまったようだ。通りで転がっている時に剣が体に刺さったりしなかった訳だ。
 重くて痛む体、あやふやな意識の中で何とか起き上がると、カレナさんと鎧、刀身が少し長い両刃直剣、下半身全体を隠せる程の大きな盾を構えた青山くんが剣を打ち合っていた。
 剣も盾もあるのに、鎧すら着けてないカレナさんに押されていた。剣を防ぐ度に身を仰け反りそうになり、剣を全てスカしている青山くんとカレナさんの実力差は歴然だった。
 怯えて指示も出していないくるみさんや、倒れている巧くんの回復に手一杯な間宮さん、青山くんのせいで魔法が撃てなくてイライラしている梶木くん。あまりにもバラバラな僕たちは、魔王はもちろん、この人にすら勝てないだと悟った。
「ぐっ!!」
 遂に唯一まともに打ち合った青山くんも、カレナさんの回し蹴りを受けて倒れてしまった。
 ………駄目だ、負けられないんだ。こんな感じで弱いままじゃ駄目だ。僕は勇者として、この世界に住む人たちを救わないといけないのに!!
 剣はどこだ?あ、あんな遠くに……。遠いけど取りに行かなくちゃーー
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