高一の俺に同い年の娘ができました。

村山 脈

嫁候補 No.1 『雪姫』

グラウンドを駆け抜け体育館にたどり着くと、そこにはもう新入生たちの群れともいうべき集団があっちこっちで形成されていた。

俺たち二人は何とかして、人込みを突破し体育館の中に入るとそこには、入口よりも多くの人がいた。それもそのはずで俺たちのこれから通うことになるこの学校は一学年約四百人ほどと割とでかいからだ。

少しづつ受付でもらった紙を見ながら、各々がクラスごとの位置へ動いていく。というわけで俺たちもさっそく受付を済ませ、手元の紙をのぞき込む。

さーてと、俺は何組かな~?

「優よ~、お前何組だった?」
「ちょっと待て、えーと……って玲央!?お前いつからいた!?」
「およよ~、いつからとはつれないね~優よ、俺たちは昔からいつも一緒にいたじゃないか」
「そうじゃねえよ」
「強いて言うなら、優の『まぁ、なんかあったら俺に言え。頼りねーかもしれんがこれでもお前の幼馴染だ。かわいい幼馴染のためだったら何とかしてやるよ。キラッ』のところくらいかな~」
「ほぼ、ずっとじゃねーか!?」
「いや~、お二人共仲がよろしゅうようでうらやましいことですな~。も~、朝からあっつあつで、おじさん、朝から暑い暑い」
「誰がアツアツだ!」
「もしかしてあれがアツアツでないと?なるほど、では本当はもっとすごいということですかな、そいつはすごい、ほぉ~ほぉっほぉ」
「お前それ、何キャラだよ……?」

呆れたことにこいつは律義にサンタのつけるような白い立派な髭をつけている。わざわざ持ってきたのか。

「それでー、優よ、結局お前何組?」
あっ髭とった。

「ちょっと待て。いま探し中」
「ほーん」
「ちょ、のしかかるな気持ち悪い!」
「まぁまぁ、そう言わんと~、しっかしやっぱ、ここは人数が多いな~。高校でも同じクラスになれるといいな~優よ」
「早く離れろ!重い!気持ち悪い!」

どうして入学早々男子、しかも幼馴染ときゃっはうふふをしなくちゃいけねーんだ。
周りからの目が痛い……男子たちは俺たちを遠巻きで見てはひそひそと気持ち悪そうに噂話をしている。
対照的に女子は面白そうにこっちを見ているか、顔を赤らめはぁはぁと荒い息遣いをしているものしかいない。

俺の高校生活、早くも危ないかもしれない。女子は比較的大丈夫そうだが、果たして男子の友達はできるだろうか?

「レ~オ~?」
「「ひっ!?」」

言い忘れていたが、俺の女のほうの幼馴染様は怒ると非常に怖い。ひじょ~~に怖い!(大事なので二回言いました)
ちなみに男のほうの幼馴染は知らん。というか、本気で怒っていっることを今まで一度も見たことがない。

「な~にやってるのかな~?」
「いやっ、その」
「ずいぶんと楽しそうだね~、ね~優?」
「えぇ、俺も!?はひっ、いやっこれはその……」

この威圧感の前には言い訳などほぼ不可能だ。そして逃げ切ることもほぼ不可能だ。さっきから膝ががくがくいっている。

そして、スゥっと一息をつくと般若のような顔が一転きらりと輝くかわいい笑顔へと戻る。いかん!来る!

「二人とも」
「「ごくり」」
「逝ってこい!」
「「ぎゃーー!!」」

華奢できれいな足が振り回されると、きらりと朝の体育館にも見えるほどの大きな星を二つほど作り、朱梨は自分のクラスの椅子の場所のほうに行ってしまった。

「ぐふっ」
「これ、俺もなの……?」ばたん!

それから、約五分後に目を覚ました俺たちは自分たちのクラスの確認をし、千鳥足で席へと向かうのだった。

そんなこんなで始まった入学式は特に言うこともなく、何やら伝統が~、とか校則が~とか言われたがいまいち覚えてない。正直言ってあんな長い話を真面目に聞く人間なんて少数だろう。校則なんて追々覚えていけばいいしな。

そんなこんなで入学式を終えた新入生たちは担任を先頭にクラスへと移動し、そのまま担任のあいさつ。という流れとなった。

俺は十クラスあるうち、三組で幼馴染組二人も一緒だった。

「はい、てなことでお前たちの担任をすることになった角谷だ。困ったことがあれば一応聞くが、面倒だから極力なしな。みんな仲良く、俺に面倒をかけないように~、一年間よろしく」

担任は見るからにやる気のなさそうな、典型的なダメおっさんだ。

「じゃあ、最低限のことは説明し終わったから、後は自分たちで勝手に仲良くやっててくれ~。俺は少し寝る。二日酔いなんだよ……」
((((説明雑っ!というか、新学期早々二日酔いで来るなよ!))))

早くもクラスの大半の意思がそろった瞬間である、仲良くなれそうだ。

しかし、担任直々の自己紹介促進、もといおしゃべり解禁である。

みんなが一斉に騒ぎ出す。
席を立ち元からの知り合いの同志で集まって仲良く談笑する者、とりあえず近くの席のやつに話しかけ新しい友人を作ろうとする者、なかなかうまく話しかけれずおどおどとする者、皆それぞれが新しく始まった記念すべき高校生活の思い出の一ページ目を華やかで輝かしいものにしようと奮起する。

俺もとりあえず、ちょうど俺の隣の席の子が一人で本を読んでいたので早速話しかけてみる。

陶磁器のように白く透き通った肌と、腰までかかるきれいな黒髪を持つ、大人びた雰囲気を持つ女子だった。ものすごい美少女だ。なんか、昨日から俺、美少女ばっかに出会ってる気がする。

パラリ、パラりと本をめくる指は細く繊細そうで、座っていてもわかるほどすらっと伸びる手足は少し細すぎるんじゃないかと心配に思うくらいだ。本を見つめるその目線は鋭さを持っていて、あの目で蔑んだ目線をしたらものすごいことになるだろう。整った顔立ちはまるで彫刻のようで、奏や朱梨と違った、少し作り物じみた美しさをしている。

こんな美少女に話しかけるのは緊張するが、昨日世界一かわいい子とも一方的にだが話せたんだ。よしっ。

「初めまして、俺は神山 優、一年間よろしくな!」
「……」
「えっと、名前、聞いてもいいかな……?」
「……」
「……その、本好きなの?奇遇だなー、俺も本結構好きで……」
「はぁ」
びくっ!?

「いきなり話しかけないでもらえるかしら?今いいところだったのよ」

そう言って本を閉じ、俺に話しかけてくる。

「大体、人が読書しているというのに相手のその時間を奪ってまでもする話かしら?」
「いや、自己紹介とか、せっかく隣の席なんだし……」
「あなたにとっては私と席が隣ということは人生を揺るがす一大事なのだろうけれど、それは私の時間を奪っていい言い訳にはならないわ。お分かり?」

「大体、私みたいな美少女に話しかけてくるなんてあなた身の程を弁えなさい。あなた自己評価すらもまともにできないほど頭が弱いのかしら」
「いや、そういうわけじゃあ」
「じゃあどういう理由で話しかけてきたのかしら。少なくとも私はあなたに一切、何も言いたいことは無いのだけれど」

グサーッ

「そこまで言わないでも、傷つくぞその言い方……」
「そこまで?何を言ってるの?私は事実を言ったまでよ。そんなことで傷つくなんて、あなた頭だけじゃなくてメンタルも弱いのね」

グサグサーッ

「それで?結局話したい理由は何だったのかしら?用がないのならそう言ってほしいのだけれど」
「ありません……」
「そう、じゃあ何も用がないのなら今後話しかけないでもらえるかしら?」
「はい」
「あっそうそう、あなた私の名前が聞きたかったのよね。一応教えておいてあげるわ、私の名前は風華 深雪よ」
「はい、わかりました……」

はぁ。まじか、高校始まって初めて話しかけた人がまさかの超絶クール、いやドライ美少女だよ。
これじゃついてるのかどうかわからんな。
少なくともこの子とは仲良くなれなさそうだ。
いかんいかん、最初は失敗してしまったが俺の高校生活はまだまだ始まったばかりだ!他の人に話しかけてみよう。

ため息を一つだけついて近くにいた仲良く談笑している男子グループの会話に混ざろうと近づいていこうとすると、

「ちょっと、あなた人に名乗らせておいて自分は何も言わないつもり?どういう教育を受けてきたのかしら?」
「あーそうですか、はいはい。俺は神山 優。一応よろしくな」
「そう、神山 優ね、覚えることのない名前だということだけ覚えておくわ」
「覚えねーのかよ……」

俺が、つい愚痴を漏らしてしまったが聞こえてないようだ。よかった。

彼女は本に視線を落としてそれから一言もしゃべらなかった。
その時に伏せた彼女の瞳がどこか悲しそうに見えた気がした。
俺はそのことに少し違和感を覚えながら席を立った。きっと気のせいだろう。

近くの男子たちの会話に混じると、何故かいきなり祝福された。

「おいおいすげ~な。大丈夫だったかお前」
「あっ、初めまして、神山 優だ、よろしく。それより、大丈夫かって何のことだ?」
「ご丁寧にどうも、俺は田中な。何の事ってほら、あいつだよあいつ、お前が話しかけてた超美少女」
「あぁ、そのことか」
「俺は彼女と同じ中学だったんだがな。ものすごく美人だけど、それ以上に冷たい態度だったってことで有名だったんだよ」
「なるほど」

たしかにその通りだ。

「それで告白を受けたときなんか、相手にものすごい毒舌な言葉を返すもんだから『雪姫』なんて呼ばれたりしてたんだ」
「ほうほう」
「あいつに近づきたいなら覚悟しといたほうがいいぞ、まともに行ったらメンタルが持たん」
「なるほど、ソースは?」
「もちろん俺だ!見事にやられた!」
「やっぱりそうか」
「悪かったな!!」

はっはっは!

俺たちは大爆笑した。なんだかんだで、クラスの人間とは仲良くできそうである。

「てめーらうるせえぞ!!二日酔いって言っただろ!頭に響く、静かにしろ!」

なんて寝ていた担任がキレて、入学式は終わった。

帰り道は幼馴染二人と一緒に帰った。

「いやー、それにしてもまた優と同じクラスになれるなんて」
「俺も俺も~」
「あんたはどうでもいいのよ!」

ブンッと振り回されたバックが顔に直撃する。

「まぁ、せっかく三人そろったんだし、仲良くな二人とも」
「ふんっ」
「つれないね~、玲奈は」
「うっさい!名前で呼ぶな!」
「まぁまぁ」

「それより優、あんた風華さんにいきなり話しかけたみたいじゃない。どうしたのよ急に?」
「どうしたって、別に」
「あの人すごくクールっていうか冷たい人だって女子の間ですごい噂だったけど」
「あー、たしかにクラスのやつにもそう言われたよ」

でもなんだろう、最後に見た感じあんまり冷たいって印象は受けなかったな。むしろ何というか、

「まぁ、クラスには私もいるんだから、何かあったら言いなさいよ!」
「んっそうだな、頼りにしてるよ」

手ごろな位置にあったので頭をワッシャワッシャと撫でてやる。

「えへへ~」
「うわ、出たよこのバカップル。俺の存在忘れてない?ねぇ優?」
「うん?忘れてないぞ」

パット手を離すと、

「レ~オ~!?」
「えっ?」
「死にさらせーーーー!!!」
「ぎゃあーーーー!!!」

玲央が飛んで行った。

そして、二人と別れ家に帰るとそこには制服を着た人物が玄関にいた。

「あら、帰ったのね」
「えっ?」
「何?帰ってきたのにただいまの一つも言えないのかしら?幼稚園児でもできることだというのに」
「なんで?」
「質問を質問で返すのはよくないと習わなかったのかしら?はぁ、まあいいわ早く入りなさい」

そこには、先ほどまで話題だった『雪姫』がいた。ん?ちょっとさっきより紙が短いか?俺の持っていたカバンを持ってリビングのほうへ行こうとする。

「待て、ちょっと待て!なんでお前がここにいるんだ!?」
「なんでって、呆れた……あなた自分の娘の顔も覚えられないほど頭が弱かったのね」
「余計なお世話だ!えっ!?娘?」
「聞こえなかったんかしら」
「娘って、なんで俺に娘がいるって知ってるんだよ?」
「何故って、昨日私が言ったのだから当然じゃない」
「えっ!?」
「はあ、ちょっと待っててくれるかしら」

そう言って洗面所に行った、『雪姫』こと風華は少しすると本来の姿になって出てきた。

「じゃじゃ~ん!!正解は、お父さんの愛娘こと奏ちゃんでした~」
「はっ?」
「どう似てた?練習もしたし、結構自信あったんだよね~」
「今の、奏だったのか?」
「イエ~ス!」
「どうして知ってるんだ?」
「うん?ゆきちゃんのこと?それはもちろん未来であったことあるからね~」
「それってもしかして……」
「おっ、なかなか察しがいいねお父さん。そのと~り!みゆちゃんはお父さんの嫁候補の一人!なのです!」
「なっ」

開いた口が塞がらないとは正にこのことだろう。きっと間抜けな顔をしているに違いない。

「というわけで、娘の大、大、だーいヒントは今日はここまで!とりあえず、入学おめでとうおとーさん!」

パンッパンッとクラッカーが鳴る。俺のために準備しててくれたようだ。うぅ、嬉しいぜ。
昨日から何一つ頭が追いついていってない。

俺の頭が理解するの放棄しているのをよそに、娘手作りの早めの夕飯を食べるのだった。

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