魔法使いになる方法

天照 ヌコ

〜はじまりはいつも突然だ 3〜



    二人は小屋の横に置いてある木材に腰掛けてしばらくお互いの話をした。
    彩那は家族の事や剣道を長年やっているという話、以蔵は武士になりたくて自己流に剣術の稽古をする毎日であるという話。
    以蔵は彩那の言う「剣道」に興味を持つ。自己流でしか剣を学べない以蔵は、林の木々を切りつけ獣を切りつけ自分なりの剣術を身に付けていた。彩那には無いやり方。隙だらけで闇雲に剣を振るうやり方に彩那は嫌悪感丸出しの可哀想な人を見る目で以蔵を見た。
    対する彩那の剣術は隙がない。隙は無いけれど構えている間にやられるのでは?と以蔵は思う。
    お互いの話をするも共通するものは剣術だけ。彩那からすれば以蔵は小汚い薄汚れた男と言う近寄りたくもない臭い人でしかなく、以蔵は変な格好の女子だが露出があるのでどこかドキドキしていた。

「ねぇ、以蔵さん!そこに井戸があるから水浴びでもしたら?汗もたくさんかいてるみたいだし。」

    ちょうどそこにあった井戸を指差し以蔵の匂いを流す提案をした。

「あぁ、そうか悪いの」

    腰に着けていたこれまた小汚い手拭いを出し水浴びを始めた。
(やっぱり剣術をしてるから引き締まってるなぁ)
と、ぼんやり以蔵の体を眺めていたら目があった。

「いやぁ、そんなに見らとると…下が脱げんのじゃが…」

「あっ!」

    と言って彩那は顔を真っ赤にして俯いた。
(お、男の人の裸なんて〜お兄ちゃんのパンイチならよく見てるけど恥ずかしい…)
    うっかりいけないコトが始まるようなシチュエーションにドキドキしながら彩那は以蔵が水浴びを終えるのを待った。

「やっぱり水浴びしたら気持ちがいいのう」

    ご機嫌な声色で話しかけられ俯いてい顔を上げると、そこに薄汚れた顔の印象からは程遠いイケメンがいた。
(コレ、キター!!異世界モノの王道パターンですよ〜)
と謎にフラグを立てて顔を赤らめた。

「ワシは帰らないかんから、お前とはここでお別れじゃ」

    身支度を終えて以蔵が素っ気なく言う。

「え?私オカネナイ、寝るところもない、これ如何に??」

    いきなりカタコトになりつつ以蔵に助けを求めた。ただの足軽である以蔵に彩那を助ける余裕なども無く困り果てた以蔵は

「家に来るかい?この小屋よりはマシじゃ…とは思うし」

    まだ言葉を続けようとした以蔵の手を握り締めた彩那はよっぽど不安だったのか、目に涙を溜めて喜んだ。

「以蔵さん、ありがと!!」

    救われて心から喜んだ満面の笑みは印象とは違って可愛らしい笑顔だった。以蔵はその笑顔に見とれつつも

「構わんから手を離してくれんかのう…」

    照れながら呟いた。彩那はうっかり握り締めていた手を慌てて離すと照れたのかそっぽを向いた。
(綺麗な人やから胸が高鳴っとる…いやいや、誰かもわからんのに手を出して打首にはなりたくないからな)
    以蔵が心の中で独り言を言って冷静さを保つのに頑張った!頑張りました!!大事なことなので2回言いました。

「お前、おかしな格好しとるから少し暗くなるまで待っておくか?」

「あ…ありがとう」

    以蔵の気遣いが嬉しくて少し頬を染めて俯いた。そしてその間も周りを警戒しているのか、見張ったように辺りを見渡している以蔵が優しい人だと柔らかい空気が彩那を包んだ。
    しばしの沈黙を破るように以蔵が小さく呟いた。

「ここは地獄なんじゃ…足軽は死ぬまで足軽。武士になりたくてどんなに頑張ってもなれん…そんなところや」

    それは普段決して言葉にすることのない弱音。彩那にはそれがどんなに苦しいものかなんてわかる訳もなく、ただ聞かなかった事にするしかなかった。

----日が沈み夜の闇にのまれる少し前に、二人は以蔵の住まう長屋へ向かう。

コメント

コメントを書く

「恋愛」の人気作品

書籍化作品