ナルシストの如月くん

皐月 遊

2話 「学園支援部」

高校生活2日目! 
いつものように朝6時に起き、ジャージに着替えて30分のランニングをし、家に帰って朝シャンをして鏡の前で笑顔の練習をする。

「…ふむ…90点…ってとこかな」

「お兄ちゃん。 私鏡使いたいんだけど」

「まぁ妥協点だな。 ふっ…」

「おーい! 聞いてる!?」

「うわっ!? な、なんだ和奏わかなか…ビックリした…」

俺の真後ろで腰に手をやって頬を膨らましているのは我が妹、如月和奏きさらぎわかなだ。
俺の妹なだけあって顔は可愛い。 自慢の妹だ。

和奏の横を通って洗面所から出てリビングへ向かう。 リビングには既に2人分料理が用意され、ラップがかけられていた。

俺の両親は共働きをしている。 父は弁護士、母は雑誌のモデルだ。 だから2人共忙しいのだ。

料理を温めなおしていると、和奏が中学の制服を着てリビングに来た。

「和奏も今日から中二かー。 勉強頑張れよ?」

「言われなくても頑張るよ〜」

和奏は俺が通っていた中学に通っている。 だから俺のキモ男くん時代はよく迷惑をかけてしまった。

「分かんない場所あったら言えよ? なんでも教えるからな」

「ん。 ありがと」

「あと、中二って事はもうすぐ反抗期が来るかもしれないけど、あんまりキツい事は言わないでくれると嬉しい」

「ん。 私は反抗期にならないから安心して」

「馬鹿野郎! 反抗期は自分の意思とは関係なくやって来るんだ! 自分の気持ちの問題じゃないんだよ!」

「なーに熱弁してんの…」

和奏は呆れながら食べ終えた食器を流し台に入れ、自分の部屋へ戻って行った。

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「如月くんおはよー!」

「うん、おはよう!」

クラスメイトの女子に挨拶を返し、自分の席に座る。 ふっ…小、中学校の時は考えられなかった光景だ。

自分の机の中に教科書を入れようとすると、既に中に別の教科書が入っていた。

「あれ…? なんだこれ」

「あの。 そこ私の席なんだけど。 どいてくれないかしら」

右側から声がし、振り向くと、長い黒髪の美少女が立っていた。
黒髪の女子は俺の事を睨んでいる。 

…いや、待て…そこ私の席…だと!?

「あ、あれ? ここ俺の席だったはずだけど…」

「それは昨日でしょ。 今日からは先生が決めた席で授業を受けるのよ。 プリントに書いてあったでしょ」

…やべ…プリント見てなかった…!
俺は急いで立ち上がり、頭を下げる。

「ご、ごめんね! プリント見てなくて知らなかったんだ!」

「…別にいいわよ」

黒髪の女子はそう言って席に座る。

…俺を見ても赤面せずに逆に睨んでくるとは…この女子、なかなかやるな……
あの子とはあまり関わらない方がいいな。
睨まれると過去の事思い出しちゃうし。

どうやら席は黒板に張り出されていたらしく、確認しに行くと……

「…えっ…」

さっきの女子の隣の席だった。 席と共にあの子の名前も書かれていた。
名前は…神崎琴音かんざきことねというらしい。

俺は渋々張り出されていた席に座り、教科書を机の中に入れて行く。

「か、神崎さん…? よ、よろしくね…?」

あああ!! ダメだ! こういう冷たい態度をとる人にはつい過去のキモ男くんの喋り方になってしまう!

俺のイケメン力が発揮出来ないじゃないか!

「えぇ。 よろしく。 あなた、名前は?」

知らねぇのかよ! まぁ俺もあなたの名前知らなかったけどさ!
俺昨日の自己紹介の時結構注目集めてたじゃん!?

あれで見向きもしなかったの!?

「…如月…奏太」

「あぁ、あなたが如月くんね」

「え? 知ってるの?」

「えぇ。 女子にチヤホヤされていい気分になってるチャラ男くんでしょ?」

「なっ…!?」

チャ…チャラ男くんだと…!? 俺が…この俺がチャラ男…?
嘘だ…俺はチャラ男とは真逆の位置にいる正統派イケメンのはず…
髪を染めたりピアスをしたりいろんなアクセサリーつけたり、彼女を取っ替え引っ替えするような奴らとは違うはずだ!

それをこの女…! 人の事を勝手に決めつけやがって…!

「ははは…チャラ男だなんて酷いなぁ…俺はそんなんじゃないよ?」

どうだ! この正統派イケメンの返しは! チャラ男はこんな事言わないはずだ!

「そう。 ま、別に私は興味ないから、いいけどね」

…お…大人だ…! 大人のようなクールな返し…!
無駄な争いはしない理想的な返答…!

悔しいがかっこいいと思ってしまった。

…明日からクール系イケメンに変更しようかな…

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高校生活初の授業は、数学だった。
俺は数学が苦手だ。 理数系は滅べばいいと思ってる。
だから先生指名しないでね!

「えー…ではここの問題を…如月。 答えてみろ」

「うぇっ!?」

うっそマジで!? こんか高速フラグ回収ありえる!?
授業聞いてなかったから分かんねぇよ…

黒板には訳の分からない数字が沢山書き出されている。
はっきり言おう。 超ピンチだ。

分からないと言えば俺が数学苦手だとバレてしまう。 それは良くない。

だが自信満々に回答して間違っていたらかなりダサい。 

「え…えっと…」

どうする如月奏太…! これは高校生活初の壁だぞ! 

黒板を凝視するが、さっぱり分かんねぇ。

「…x=21、y=12よ」

隣の席、つまり神崎さんの方からボソッと声が聞こえた。 俺の耳ははっきりとその言葉を捉えていた。

「x=21、y=12です!」

「正解だ。 では解説だが…」

合ってた! 急いで神崎さんの方を見ると、黙々とノートを書いていた。
意外と優しい人なのかもしれない。

「…神崎さん。 ありがとう」

「………」

え、無視…? 絶対聞こえてたよな!?

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その後も授業は進んでいき、4時間目になった。 4時間目は体育だ。 体育では男女合同でバレーボールをやるみたいだ。
今回は初回という事もあり、遊びでやるらしい。

体育。 それはアピールの場でもある。 俺はキモ男くん時代はスポーツできない少年だったが、今は違う。

「如月頼む!」

「任せろ! おりゃ!」

クラスメイトの男子があげたトスを、鮮やかに相手コートに打ち込む。
ふっ…完璧なスパイクだ。

周りの女子からは歓声が上がり、チームメイトからは褒められる。
最高だ。

…ふと、視界に神崎さんの姿が映った。 神崎さんは女子達のグループから離れ、端っこの方で体育座りをしていた。
教師が何も言わないところを見ると、見学だろうか。

「如月! 前! 前!」

「え…? ふべぇっ!!」

前を向くと、目の前が真っ暗になり、次の瞬間、俺は体育館の天井を見上げていた。

女子達から悲鳴が上がり、チームメイトが寄ってくる。

「いてて…」

顔を触ると、血が付いていた。 どうやら鼻血が出たらしい。
教師から見学していろと言われ、渋々端っこの方へ移動する。

「…なぜこっちへ来るのかしら」

神崎さんの横に座ると、睨まれた。
怖いから睨まないでほしいんだけど。

「いや、1人じゃ暇だしさ。 話そうよ」

「ナンパなら別の子にしてくれないかしら」

冷たっ! 何この人冷たすぎでしょ、雪女の生まれ変わりとかじゃないの?

だが、暇なのは事実だ。 くそっ…折角のアピールの場が…!

「いてて…」

まだ鼻がジンジン痛む。 今俺は鼻にティッシュを詰めている。
くそっ…滑稽な姿だぜ…

「保健室に行ったら? 痛むんでしょ」

「いや、これくらい大丈夫だよ。 保健室に行くほどじゃない」

「そう」

「ねぇねぇ神崎さん。 神崎さんはなんで見学してるの?」

見学している理由を尋ねると、神崎さんはつまらなそうな顔をしながら

「運動が嫌いだからよ」

「運動嫌いなの?」

「えぇ。 怪我したら困るし」

「怪我ねぇ…気をつけてれば怪我なんてしないと思うよ?」

「自分の顔を見てから言ってくれないかしら」

……そうだった。 今俺鼻血出してたんだ。 説得力皆無だな。
…ふむ…まだ時間は沢山ある。 どうやって時間潰そうかな…

「はぁ…」

「…私と話しててもつまらないでしょう? 離れた方がいいわよ。 そうすれば他の女子が寄って来るかもしれないわ」

俺の溜息を勘違いしたらしく、神崎さんがそう言ってくる。

寄ってくるって…虫じゃないんだぞ…

「いや、いいよ。 そうすると神崎さんが1人になるだろ?」

…はっ! 今のイケメンすぎないか!? 無意識に言ったけど今のはかなりポイント高いぞ!?

これは神崎さんも赤面間違いなしだろ!

「そう。 変わった人ね」

赤面どころか、なんの表情もしてなかった。 無表情だ。

「そっ、そうだ! 神崎さんって何か部活入るの?」

このままでは会話が続かないので話題を変える。

だが失敗だったかもしれない。 偏見だが、神崎さんは部活をするタイプには見えない。
どっちかと言うと早く帰って黙々と勉強してるタイプだ。

「…まぁ、入りたい部活はあるわね」

「えっ!?」

意外だった。 まさか入りたい部活があるとは…俺は何もない。
また帰宅部にするか、なにかに挑戦するか悩み中だ。

「ちなみに、なんて部活?」

「…学園支援部」

「へ? なにそれ」

「学園の生徒の生活を支援する部活よ。 生徒の依頼を解決したりする、人助けの部活ね」

「へ、へぇ…そんな部活があるんだね」

人助けの部活…そんなのがあるのか。 神崎さんが人助け…意外だ。

人助けなんて、自分から進んでやる意味なんてあるのだろうか。
人間なんて、すぐ裏切るし人の悪口言うし、最低な生き物だ。 
……俺も含めてな。

だから神崎さんを尊敬している。

「昼休みに近藤先生に入部届を出しに行くつもりよ」

「頑張ってね。 手伝える事があれば手伝うから」

「えぇ、感謝するわ」

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昼休み。 俺は登校の時に買ったコロッケパンを取り出し、校庭のベンチに1人で座っていた。

教室にいるといろんな人が話しかけてくるからな。 昼休みくらいはゆっくりしたい。

「いただきま…」

「あ、見つけたわ。 如月くん」

パンを食べようとしたら、声をかけられた。 振り返ると、神崎さんが立っていた。
…え、何これ、まさか神崎さん一緒に食べる気か!?

まさか顔に出ないだけで内心は照れてたとかそういうやつか!?

ふっ…やはり俺のイケメン力には誰も勝てないらしいな。

「お願いがあるのだけど」

「ん? 何かな?」

付き合ってくれないかしら? とかか?

だが残念だな神崎さん。 気持ちは嬉しいが今は誰とも付き合う気はないんだ。
そういうのはある程度時間が経ってから……

「幽霊部員でいいから、学園支援部に入部してくれかいかしら」

「……へ?」

「どうやら部活を始めるには最低でも部員が2人必要みたいなの。 今の学園支援部には誰も部員がいないから、このままじゃ活動出来ないのよ」

「な、なんで俺…?」

「他に知り合いいないし、さっき"手伝える事があれば手伝う"って言ったじゃない」

…言ったわ。 

やっべぇー、告白かと思ったの恥ずかしー!
思い込み激しいのなんとかしなきゃなぁ…

…で、学園支援部か…手伝うと言った手前断る訳にはいかない。
…なにか挑戦したいと思ってたし、丁度いいかもなぁ…

「いいよ。 学園支援部に入部するよ」

人助け、頑張ってみるかな。

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