異世界のバハムート

ロマノフ

第13章 愚問

突如として現れ、病院を破壊した黒き機体は、神聖レムス帝国の物であった。破壊の限りを尽くしたその機体はかつて、生存していた巨人属の残骸だという。

辺りは、薄く粉塵が立ちこめ、視界は悪いが、立ち上る炎は煌々と、転々と見える。視線を上にあげれば、シズク、シーナ、アルエが黒き機体と戦っている。

戦争。実際に見たことも、あったこともない。ただ、歴史上の文献でそういう悲惨な事があったというだけのこの2文字が鮮烈に心に叩き込まれる。

病院にいたのはもちろん僕らだけではない。逃げ延びれた人や、瓦礫に潰された看護婦や病人。泣きじゃくるばかりの子供たち。横たわるお腹の大きな母親。
滲み出る血。
ああ、あまりにも人間とは脆いものである。この身も心も。ショックが大きすぎた。腕が、足が震えている。

モーターの駆動音と、機械音と、炸裂音や悲鳴。これが跋扈する中、もはや僕の心にはあの巨体と戦うという事は、これっぽっちもありはしなかった。

だけど、なぜか、僕の脚は、地を踏ん張り、支えた。拳はなぜか、強く握られ、怒りが満ち溢れんばかりに、その目は赤く燃えていた。
コートが風に揺らめいた。世間でいえば、広告の表紙のようなことをしていた。それから僕は、僕を忘れた。


激しい戦闘が続く中、3人は、機体の装甲を貫くのに苦戦していた。

シーナが駆け寄ってきた。
シーナ「無事だったか、カエデ!武器がなければ危険だ。お前は救助を頼む。」

カエデ「これ以上の被害拡大はない。」

シーナ「え?」

カエデ「すぐに終わらせるからだ。」



カエデは右手に魔法陣を描いた。
するとどこからともなく水が集まり。武器を形成した。
武器というより、単なる水の塊だ。

その大きな魔力に反応したのか、機体は他の攻撃を無視し、カエデの方へ、向かった。

シズク「無視すんじゃねぇ!!!」

飛び蹴りが黒い機体に直撃したと思われたが、機体の腕の中で動けずに捕まれた。

シズク「ぐっ、ぐぅぅぅぁ。」

間もなく、機体はシズクを地面に叩き落とし、踏み潰した。

シズク「ゆ、油断したよ。」

言い訳紛れにシズクは気を失った。

シーナはすぐ様シズクを連れて、もの影に隠れ、治療魔法を施した。

アルエ「私たちしか居ないぞ。奴の狙いはもはや、シーナの奪還でもない。我々の殲滅だ。」

カエデ「なるほどな。」

カエデは魔法陣に集まった水をふわふわと浮かばせた。
すると魔法陣が僅かに光り、高速で形を変えた。
氷だ。
鋭く伸びた氷は機体の膝を貫通していた。

アルエ「早すぎるっ、、。」
悔しそうな顔で、眉間にシワを寄せた。

瞬間氷は崩れ落ち、貫いた膝は真ん丸と穴が空いていた。
機体は崩れ落ちる。

ノーモーション。
空気中の水分を集め、分子運動を留め、凍らせ。また元に戻す。

時間を要するこの行動を魔力を加える事で、高速で行う。水分を支配したもののなす事ができる技であろう。

氷結し、貫き、溶ける、この3つの状態が炸裂した。
機械は為す術もなく、起動を停止した。



シズクは、驚きの回復力で、全治していた。シーナは未だ警戒を解けないのか、浮ついた目であたりを見回していた。

アルエ「辺りの護兵の伝達によれば、もう敵と見られる存在はない。」

カエデ「よかった。」

アルエ「だが、多くの命が傷ついた。すぐに王国の看護軍がくる。」

それから一行はゆくあてもなく、次の街へ向かった。




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