異世界のバハムート

ロマノフ

第10章 紡がれる神

遠い昔の話だ。私の記憶であるかさえも分からないほど、ずっと遠く。
私は炎の中で生まれた。隣には炭とかした男性のかたちをしたものが私を包むようにただ、そこにあった。
クロートーと呼ばれる。誰がそう名ずけたのかは分からない。私の名前はアンタレス。だか、クロートーでもある。この灰の男もクロートーだという。
クロートーは、命に宿る球根。1度も絶やすことなく、世界を見張り続けている。


シーナ「アンタレス!」

シーナ「アンタレス!!!」

その声で意識の底から引っ張り挙げられた。目覚めたくは無かった。

けどこれだけはわかる。私はもうすぐ楽になれるってこと。

シーナの目の淵には、深緑に鈍く光る筋が目の隈のように張り付いていた。

シーナはアンタレスの名前を呼ぶ事しかしなかった。
それ以外に何も言えなかったのだ。これがシーナとアンタレスとの約束だったのだ。

カエデは何も出来なかった。だがそれをどうこう思えるほど、落ち着いてはいなかった。彼は混沌の中に、必死にもがいていた。

アルエ「王よ、クロートーとみてよろしいのでしょうか。」

アトラ国王「そのようだな。何せ俺も見るのは初めてだ。」


木は、黒い灰となって風に散った。
アンタレスもその姿が灰になっていくのを感じている。

アンタレス「シーナ、ありがとう」

シーナは涙を滴らせ、首を振った。

アンタレス「それ以外、に、言葉はいらぬ、」

アンタレス「また、あとで、な。」

そう言い残すと灰は砕け、宙に舞った。
粉塵となり、風に乗ってシーナの周りを飛び回る。
シーナはゆっくりと立ち上がり、涙を拭った。

アトラ国王「おい、そこの者よ。説明してもらおうか!クロートーは何を求め、何を成そうとしている!」

王は、激昴するかのようにその言葉をぶつけた。

シーナは俯き、停止したままだ。

アトラ国王「おい!聞こえないのか!」
そう怒鳴り、槍を地面へ突き立てた。

カエデ「お、王よ!何をそこまで、、」

瞬間シズクが、カエデをかっさらい。地上へと、急いだ。

カエデはされるがまま、強靭な獣の女の子に、連れ去られた。

カエデ「お、おい!シズク!お前までどうしたってんだ!?!」

シズク「逃げなきゃ、」

カエデ「ええ?」

シズク「逃げなきゃまずい!!!」

そうシズクが叫んだあと、衝撃音、爆発音などが洞窟にひしめき合った。



地上に出た時には、もう既に夜を迎えていた。


一方、地下では、

爆発音の正体は、シーナであった。

シーナは瞳を、鈍色に光らせていた。
シーナがいつも、携えている短剣を王に突き立てたのだ。
王はもちろん刺されては居ない。間一髪か、それとも、余裕の見切りか、槍の柄で、短剣を受け止めている。

アトラ国王「ほぅ、次は雷か。」

シーナの周りには、雷がうねり、覆っていた。

アルエ「風の次は雷、、、予言通りですね。」

アトラ国王「おい、クロートー。人間を舐めるのも程々にするんだな。」

シーナ「私は、私の意思で貴方に攻撃している。」

シーナは鋭い目付きでそういった。

アトラ国王「ほう。」

シーナ「クロートー達は、貴方を有害だと判断している。私は、貴方を殺さなければならない。」

シーナは雷鳴が如く、一瞬で王へ次の攻撃を仕掛けた。

だが、王はまたも受け止め、こう言い放つ。

アトラ国王「良い。それならばもっとまともな攻撃をしたらどうだ?」

シーナは苦悶の表情で、
シーナ「アトラ国王よ、あなたは罪を犯した。」

アトラ国王「知っているとも。承知でこの武器を手にしている。」

シーナ「それを、戻せ!といっているんだ!」

激しい衝撃が辺りを埋めつくした。アルエは吹き飛ばされ、シーナとアトラ国王の戦いを、ひたすらに傍観する。稲妻がアトラを叩く。それをものともしない風貌はまさに王の貫禄。

アトラ国王「クロートーよ。貴様らは王を選別していると聞く。」

衝撃と雷光を押しのけ、ゆっくりと王はその歩みを進める。

アトラ国王「知っているとも。何が為の選別が知る故もないが、神々の好きにはさせん。」

シーナ「王とは力ではない。それどころか選別とは言えどその答えは、、」

シーナは言葉を止める。

ふと俯いて、

「わ、私は。」
その目に涙が流れる。そして、項垂れその場に座り込み、眠るように床に伏した。







カエデ「シズク、これから俺たち、どうなるんだろうな。」

ここは西の村から北に進んだ山の麓にある大きな町エレシュキガル街。
その軍事用医療施設である。

シズクは、小さな椅子に掛け獣化の後遺症の鱗を撫でた。

するとコンコンと戸を叩く音がする。

アルエが鎧を外した姿で心配そうに入ってきた。

医者「ただの疲労です。ですが、何が原因かわからない以上いつ目覚めるか、、、」

アルエ「それなら、問題ない。」

複雑な表情で、ポケットからエメラルドのような宝石を取り出した。
カエデ「それはなんなんだ?」

アルエ「結晶だ。クロートーはその生を受け継ぐとき、この結晶を残して灰になるんだ。」

アルエは、シーナの胸のあたりにその結晶をそっと置いた。

刹那、結晶が光輝き、はたまたすぅっと消えた。

その瞬きが消えると、シーナがうっすらとその目を開いた。

カエデ「い、生きてるか?」

シーナ「生きてるわよ。」

虫の息で、シーナはそう囁いた。

シーナ「ふんっ!」

急に起き上がったシーナをみて全員が驚いた。

シーナ「さっ、行くわよ。」

シワの少ないベッドの上に立ち上がった。

みんなは唖然とした顔で少し様子を見たあと。みんなで笑った。


つられてアルエも笑った。

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