異世界のバハムート

ロマノフ

第8章 魔女

ある村の昔の出来事。

アンタレスは風の加護を受けし精霊だった。まだシーナが生まれるずっとずっと前。ここは、人間だけでなく多くのケモノ、神、精霊で溢れていた。強きものが生き。弱気ものが死ぬ。今でこそ状況は変わらないが、想像を超える力の争いがこの世界を占めていた。
その最中にもアンタレスは気ままに暮らしていた。彼女は生まれてから長い間、障害を1人で暮らしていた。それでも平気だった。無口で、ぶっきらぼうな性格のアンタレスは、他人という存在を忌み嫌っていた。
1人で原っぱに座っては吹抜ける風を嗜んでいた。我々が感じる1秒とはとてつもなく短いが、彼女にとっては刹那のようなもので、人ひとりの一生は彼女にとって希少価値はさほどなく、小さなものだった。風とは、物体の移動、空間の動き、時の歪み、温度差の産物。彼女はいつも平野で、なにか途方もない事を思い老けながらその行く末を眺めていた。

兼ねてより、この世界には、果て、がある。つまり後で知った話だが、この世界は無限ではない。有限なのだ、海も空も終わりがある。その先に何があるかは、この世界でのタブー。何かが終わればそこから何かが始まる。海が終われば陸があるように、地上があって空が終わればその宇宙がある。
世界はすべてを繋げてきた。命さえもその対象。オープンワールドの隅っこから見える景色のように、そこには無があるのだ。神のみぞ、その真実を知る事が出来る。それを悟った者に、力を与えられる。アンタレスもその真実を知る者の1人であった。

世界は、ちぎれたトイレットペーパー。終わりのある世界で、この風はどこからきているのだろう。アンタレスは風に目を細め、ゆっくりと瞬きをして、息を吐いた。

アンタレス「はぁ、、、、。」

大きなため息と同時に、これからのことを考えていた。
限られた世界の中で、風はどこから来て、どこに向かうのだろう。
そんな途方も無いことを考えていた。考えるにつれ、気持ちは下がる一方で、彼女の目はいつも俯き、膝を抱えては宙に浮いている。そんな彼女は周りの生き物たちは興味深そうに見ていた。

そんなある夜。1人の少女と出会った。最近になって、ここらに人が住み始めたらしい。
移動民族の彼女は、この平野で偶然アンタレスと出会ったのだ。
名前までは覚えていない。そのくらい遠い昔、大切な思い出ならそれくらいって思うだろうが、あの笑顔、あの顔は忘れない。次々と変わりゆく言語の中で呼び方はざまざま変わる、アンタレスは文明を超えて生ける神。
逆に彼女、は神様ともなんとも思っていなかった。星降る風の丘で、アンタレスが涙を零したのは、奇跡と言えるくらいの出来事だった。
その話はまたあとにしよう。





カエデ「シーナ、魔力源まではあとどれ位なんだ?」

シーナ「そうね。正直、正確な距離を言える自信はないわ。だけど、この風には魔力がまとわりついているのよ。その魔力が道となって、最深部まで繋がっているわ。」

カエデ「はぁ、結局ラスボスは最深部なんだな。」

シーナ「アンタレスをそんな目で見ないで。彼女はとてもそんな奴じゃないわ。」

カエデは少し呆気に取られ、
カエデ「ああ、悪い。お前の少ない友達だったな。」

シーナ「余計なお世話よ。」
シーナはそんな皮肉も鼻で笑い飛ばした。

薄々感づいていたが、シーナは今そんな状況ではない。焦燥に駆られ、止まる訳には行かない道を。いま突き進んでいるのだ。

向かい風が嘶く、視界を塞ぐ、しばらくして風の原因とも思われる最深部へと到達。

洞窟の最深部には大きな空洞へと繋がる穴があった。
肌でビリビリ感じるほど強力な魔力が立ち込める。

シーナ「改めて、皆。こんな事に巻き込んで、ほんとにごめんなさい。だけど、手を貸して欲しい。私はその為に生きてきたの。」

シズク「まだ気にしてたの?少なくとも私は嫌だなんて言わないよ!美味しいごはん、また奢ってくれるよね?にひひ!」

アルエ「なんだかよくわからんが、旧友の頼みだ。こんな訳の分からない呪縛魔法をかけられなければ、」

カエデ「ああ、全くだ。世話の焼けるヒーラーだ事。」

シーナ「うん。」

シーナは空の笑を浮かべた。彼女の言葉に妙な引っかかりを覚えたのは、カエデだけだった。



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