異世界のバハムート

ロマノフ

第3章 幾億の旅立ち

シーナ「どこで落としたかなー?」
カエデ「さっきの建物じゃないのか?来た道戻るぞ」
シーナ「残念ながらさっきの神殿はないわ。召喚者が全員呼ばれればあの神殿は消えてなくなるの」

なんとも不思議な事だ。トイレも設備されてる神殿がすっと消えてなくなるとはな。それにしても近代的な神殿だったな。

シーナ「もうすぐしたら西の村につくわ。」

カエデ「あの神殿は急に出来るのか?」

シーナ「ええ。そうみたいよ?村にかぶって現れることもあるから、その度村が潰れるからいい迷惑なんだけどね。」

シズク「なんだか、よく分からないけど。冒険が始まるんだな!なんだかワクワクするね!カルパス!」

おいおいカルパスはないだろう!
それにしても召喚された理由といい、神々の近況にしろ。不穏な事が起きようとしているのは、間違いないみたいだな。魔王を倒せ!とか急な展開にならなくてすんだ。

シーナ「そうだ。ケモノが現れたら私の後に隠れるのよ?あなた達武器もスキルも持ってないんだから。」

カエデ「そうだよな。RPGでもジョブやらスキルなんかないとな。」

シーナ「えらく飲み込みがいいですね。あなた、ほんとに異端者ですか?」

カエデ「これは慣れだよ。」

シーナ「よく分かりませんが、村についたらこの世界の大まかな説明と、ジョブ取得しなきゃね?」

シズク「私、力には自信あるんだよ?剣術はからっきしだけどね。」

シーナ「それなら、ナックラーかローグね?」

カエデ「おいおい!こんな幼子を戦線に。それどころか前線に立たせるのか?」

シーナ「貴方、言っておきますけど。今シズクと戦っても圧勝でシズクの勝ちよ?見たところ、素のステータスにおいても攻撃力も劣ってるわ。あなたの取得はオケアノスの権能だけかしらね。」

カエデ「まじかよ!こんな子供に負けるのか。それで?オケアノスの権能ってのは?水魔法か何かか?」

シーナ「そうよ。水魔法や、同じオケアノスの眷属を従えたり出来るの!最も権能の強さとか本人のステータスによって。従えるか従えられるか決まるんだけどね。でも今は水魔法は使えないはずよ?魔法職についてからじゃないと魔法の基礎がわからないからね。」

カエデ「そうなのか?んでもワンチャン」

目を閉じ、海をイメージする。そんな感じだろ。
海、海、海。山育ちだから海がどんなものかわからないが、海、海、海。
真っ暗だ。遠くが見えない。足元は砂だらけ。その中を優雅に、巨大に、蠢く。波はゆっくりと僕のあとをついてくる。

シーナ「え?ちょっと!カエデさん?」

目を閉じているが、力が湧いてくる。

シズク「すっごい!カルパス!おっきい魔法陣!」

それを、その力を体全体から、

吐き出す!

その瞬間、手を覆う魔法陣から、いや手のひらから高圧縮された、水が放たれた。

その高圧縮された水は、当たりの木々や地面を砕いた。

シーナ「な、あなたマギクラスの水魔法を?」

カエデ「やってみりゃできるもんだな。あはは。」

シーナ「あはは。じゃないわよ!魔力も上がってるし。何者なの?」

カエデ「僕、結構器用な方なんだ。なんだかんだ、少しかじれば人並みは出来るんだ。唯一の長所かな。」

シーナ(そんな簡単にマギクラスの水魔法が打てるはずない。それどころか、魔法を使うにも1ヶ月はかかるのに、マナの配分も体の負担の配分もやってのけるなんて。)

カエデ「これで俺も戦力の一員だな。腹減ったなぁ、早く街へいこう!」

シーナ(気にかかる点はいくつかあるものの天性の才といってもいいのか、オケアノスの権能があるといってもこれはさすがに)

シズク「カルパス!今のどうやったの?おせーて!おせーて!」

カエデ「ははは!いい子になったら教えてやろう!」

シズク「ィェーィ!」

道中はケモノとやらに会うこともなく西の村に着くことができた。



カエデ「ここが西の村ねぇ。なんだか、もっと賑わってるイメージだったなぁ。」

シーナ「大都市以外こんなもんよ。さ、宿探しましょ!」

こんなもんよ。って。もっとオブラートに包めよ。

シーナ「ええー?一部屋しか空いてないですって?」

宿屋「え、ええ。先程の神殿の出現に伴い、パーティでの宿泊客が多いのです。」

シーナ「仕方ないわね。他を探すわよ!」

宿屋「お客様!もう夜もふけてまいりました。この当たりは人狼の出現が相次いでいて、群れをなしているそうです。なんでも頭から喰われているそうで、物騒な事ですよ。全く!子連れとなれば尚更、家族を危険に晒すより、ここで1泊されるとよろしいでしょう。お代は結構ですから、どうぞ!」

シーナ「だっ、誰が子連れよ!ただのパーティよ!」

ゆでダコのように真っ赤に膨れたシーナは少し乙女らしいかった。こいつも女の子だったな。

シズク「私カルパスと一緒にねる!」

カエデ「おいおい!それはまずい気が、、、」

カエデ「シーナ。いいんじゃないか?僕は別に同室で寝なくてもいい。なんなら一夜起きてるよ。」

シーナ「そ、そういう問題じゃ、、、まぁいいわ。気は進まないけど、ここにしましょう。なけなしのお金も浮いたしね。」

しみったれた旅館だ。悪く聞こえるが、俺の中ではかなりな褒め言葉だ。炎の明かりが一段と温かみを増している。

シズク「ぐぅぅー。きゃっ!お腹なっちゃたぁ。」

カエデ「おお!シズク!その恥じらいは100点満点だ!どれ。おひとつカルパスをば。」

シズク「いえーーーーい!」

シーナ「ちょっと待ちなさい。今から夕飯を食べに行くから。それは取っておきなさい」

シズク「ちぇ。わかりましたー。」

カエデ「よーし。いい子だ。あとで2つ上げよう。」

多くの人が集まる酒場についた。かなりな賑わいだ。酔って暴れる人それを笑う人、慰める人。
夕食もそれなりに豪華だった。久しく見る(2次元で)
豚の丸焼き、ビール、まぁとにかく肉料理メインだ。

シズク「がぶっ!むしゃ!ゴクッ!」

さっきからシズクはこの効果音の繰り返しだ。ここまで食いっぷりがいいとなんだか見てて気分がいい。

カエデ「なぁ。シーナこんなに頼んでお金は大丈夫なのか?」

シーナ「ええ!ギルドから支援金もあるし、さっきお金も銀行から下ろしてきたの。」

カエデ「なんだかすまないな。ここまでしてもらって。」

シーナ「なーに改まってるのかしら?あなたが謝ることないわ?私の判断でここまで来たんだもの。後悔なんて、みっともないじゃない?」

ここでは後悔しないなんて当たり前なんだろうな。平凡な生活、平凡な収入、そして平凡な死。僕の世界ではこれが常識だった。なにかに必死になってなにか掴んで、大成したものは、ひと握りだった。環境こそが人間をここまで変化させるのだろう。僕は、僕が興味を持ったものをこなしてきた。好き勝手にやってきた結果、ニートだ。僕はどこかで後悔をしているんじゃないかと思った。

シズク「ぷはぁー!もうお腹いっぱい。しばらく動けないよォ。」

カエデ「ははは。なんだその腹は!好き嫌いせず、いっぱい食べたな!偉いぞ?」

シズク「そんなぁ。好き嫌いなんてないよ。飯にありつけるかなんて、五分五分ってところだからな。毎日こんなだったら、むしろ好き嫌いなんて私が許さないよ!」

それもそうだな。人参が嫌いなんて、この子の前じゃ言えないな。どれ、ちょっと食べてみようかな

カエデ「パクッ。」

なんだ、そんなに悪いもんじゃないな。そんなもんだって思えば、そんなもんだ。

シーナ「くへぇーーー!なんらよ。カエレぇ。あんた魔法使いやがって!わらしも、負けねぇんだがらなぁ。」

カエデ「おいおい!酔ってるのか?誰だよ飲ませたやつは!」

シーナ「みーーーんなして、わらしをばかにしやがってへぇ。うぃーーー。」

カエデ「うわっ、酒臭!頼れるお姉さんが一瞬でお荷物だ。」

僕はシーナの肩を担いで、会計へと向かおうとした。

シズク「おーーーい。うぷっ。カルパスぅ。おぶってくれぇ。」

カエデ「お前腹いっぱいって言ってまだ食ってたのかよ!」

シズク「後悔しないようにぃー。」

カエデ「そりゃ、いいや。全く!ほら!」

お、重い。幼児の体重じゃねぇな。

カエデ「すみませーん。お会計お願いしまーす。」

店員「まいどー!」

ええっと、シーナの財布は、っとここか。
シーナの腰にぶら下げた布袋を取り出した。

シーナ「いやーーーーーん!どこ触ってるのよーーーーーぉ。私たちまだそんな関係じゃ、、スピー。」

カエデ「っこいつ、めんどくせぇ!!」

店員「どうか道中お気をつけてくださいな。人喰い狼やら、人狼なんか彷徨いてるみたいで、なにやら死体は跡形もなく食われ、当たりには血飛沫と血溜まりだけが残ってるって噂だ。」

カエデ「ああ。そうみたいですね。お気遣いありがとうございます!」



宿についた、静かな寝室にすでに眠った二人を寝かせ、テーブルにどっしりと掛けた。

カエデ「はぁーーーーー、二人とも重っ。これで筋力
+2だな。」

鈴虫の鳴き声と静けさが1日の終わりを奏で始めた。
掛けたテーブルのそばの窓からは、小さな湖が見えた。今日は満月だ。なんだかんだ、死んでから丁度1日たった。そんな実感はどうもわかない、最初からここにいたような。そんな気さえしてきた。こんな生活も悪くないな。

さて、このまま寝るのも惜しいものだな。散歩でもするかな。

部屋を出ても静けさはまだ健在だ。廊下は風が通り、あかりの炎がゆらゆら揺れる。
ロビーには少し外出すると言おう。

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