ディス=パータ

ノベルバユーザー196004

第7話 偽りの追跡者

雨音に混じりながら少佐らしき声が聞こえてくる。昨日は徹夜で飲んでいて激しい睡眠が襲う。ボーッとしながら声の出ている端末に耳をよく傾ける。


「おい、聞こえるかゼンベル!おいゼンベル!起きろ!」


部隊間連絡用端末から少佐のどなり声が小型の船内に響き渡る。
少佐からの連絡だと分かると急いで端末を手に取った。


「んあぁ、どうしたんですかい少佐どの……合流予定時刻よりまだ早いですぜぇ……生活必需品のおつかいとか勘弁してくださいよぉほんと……」


「寝ぼけてる暇じゃないぞゼンベル、緊急事態だ。ガンシップをいつでも飛ばせるようにしておけ。今そっちに向かってる」


「なんですと、一体なにがあったんですかい」


「詳しい話は後だ、友軍に追撃されている。ガンシップで合流だ」


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「少佐!後方からアストレア級来ます!」


「ほう、随分と手間をかけてくるじゃないか。このまま逃がすつもりはなさそうだな。レオ・フレイムス、ハッチを開けろ。私が落とす」


「正気か?!あれはガンシップだぞ!個人が敵う代物じゃない!」


「大丈夫だ、あれごときの兵器ならいくらでも落としてきた。まぁ見てろ」


ハッチを開けると少佐が身を乗り出して走行中の装甲車の上に堂々と立ち、アストレア級ガンシップを迎え撃つ姿勢をとった。


「おいおい、ほんとうに大丈夫か?いくらイニシエーターといってもガンシップを相手には無謀だろ」


「大丈夫ですレオさん。少佐は数多の戦場を駆け巡った戦場のエキスパートです。少佐の力を信じてください」


後方よりガンシップがくっきり見える距離に現れる。アストレア級ガンシップは武装に誘導型対地ENミサイルに対人機関砲を標準武装としている。その機関砲の威力は対人を想定していたとは思えない火力を誇り、軽装甲の車両なら数発で原型を失う。
対地ENミサイルは誘爆性の高いエネルギー弾頭を採用し、重装甲車両であっても直撃すれば装甲は融解して内部の人体や電子機器に大きな障害をもたらす。



「フューズ1、標的確認。対地ENミサイルを使用する、ロックオン完了。発射」


「フューズ2、発射」


2機のガンシップからミサイルが発射され、まっすぐこっちに向かってくる。


「やばい、当たる!」


何かが破壊される衝撃波が伝わってくる。


「ど、どうなった……少佐は無事か?!」


ハッチをあけすぐさま少佐の安否を確認する。そこには凛々しくそびえ立つ少佐がいた。彼女の手にはソレイスがあった。


「ミサイルは、どうなった……」


「ミサイルは弾いた。あとは目障りなガンシップを落とす。友軍機を落とすのは気に障るが、やらねば死ぬ」


彼女は先ほどガレージの扉に穴を開ける時と同様に、今度はガンシップに向けて手をかざす。


「おい、まさか……あれに対してもできるのか……」


彼女が手をかざしたとき、二機のガンシップの周りの空間が歪むように見えた。そして歪んだ空間は綺麗な円を描く。まるで空を丸く切り取るかのように。
ガンシップの推進補助スラスターとイオンエンジンが綺麗に斬り落とされ、推進力を失ったガンシップは勢いよく墜落していく。


「まじか……イニシエーター最強かよ……」



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「アウレンツ大佐、ご報告いたします。追撃にあたっていた装甲車隊が全滅、アストレア級ガンシップ2機が撃墜されました」


「そうか、では最後のプランだ。SUPRA隊を空港に派遣せよ。奴らは空港に待たせてる船と合流して都市から脱出する気のはずだ。その船を撃墜しろ。それで最後の追撃とする。ではそろそろ私もここから離脱するとしようかね」




「SUPRA隊に通達。空港に出撃命令が下された。空港に到着次第離陸するレイシア少佐の所属船を速やかに撃墜せよ」



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「少佐!空港が見えてきました!」


「よし、この先に要人連絡道路がある。そこを曲がれ」


要人連絡道路のフェンスゲートの前にやってきた。警備が居たが少佐の顔が利くのか何やら証明書のような物を見せただけで通過することができた。
通り抜けた先は野外でいくつもの要人用機と思われる飛行船が並んであった。民間が使用する飛行船のエリアはここからは遠く離れているようだ。
しばらく走っていると多くの要人らしき人たちがこっちを不信そうに目を追って見ている。
それもそうだ、こんなところにこんな厳つい軍事車両が踏み込んでいたら誰しも不安になる。
しばらくするとガンシップらしき船の前で手を振っている人が見えてきた。


「少佐!ゼンベルさんを見つけました!」


「見つけたな、そこの近くに止まれ」


道路の脇に無理やり止めるが、他の車両が通るには幅を取っていて少々無理がある。


「やぁ!少佐!無事でしたかぁ!!お、そちらが例の傭兵ですな!」


「あっ、あぁ……レオ・フレイムスだ……」


「おお!レオ・フレイムス!歓迎するぞ!俺のことはゼンベルと呼んでくれぇ!!」


ゼンベルは大笑いしながら元気よく手を差し出してきた。ゼンベルは声通りの大柄で体格が良い。だが、どうやら軍服を着ておらずかなりラフだ。一枚きりのシャツのような上着に作業服のようなズボン。傍から見ればヒゲの生やしたただのおっさんに見えるが軍人なのかは分からなかった。


「よっ、よろしく……レオと呼んでくれ」


「挨拶はあとだ、急いでここを離れる」


「了解した!いつでも出せる、乗ってくれ」


ガンシップのような船の輸送席に少佐と俺が乗り込んだが、ミーティア中尉が乗ろうとしない。


「どうした中尉?一緒に行かないのか?」


すると少佐が横から答えた。


「ミーティア中尉にはここでまだやるべきことがある。今回は中尉抜きで我々だけで北部に行く」


「そんな!危険だ!ここには追っ手も来てるはずだ!中尉を一人にしておくのは危ない!!」


レオが必死にミーティア中尉を連れて行こうと訴える中。
ミーティア・ミル・クォーラムは静かに答えた。


「レオさん」


一旦間を開けると、その言葉の続きを話しだした。


「私なら一人で大丈夫です!少佐たちと早く北部へ向かってください!」


「そうは言ってもこんな状況じゃあ危険すぎる……」


ミーティア中尉は真剣な眼差しでレオの手を取った。


「私にはまだここでやらなければならないことがあります。どうか行ってください!そしてまた隊の方達と一緒に会いましょう!大丈夫です。どうか私を信じて」


そういうと手を離し、ガンシップから離れていく。


「おーい!もういいか?早く出ねぇとマズイことになりそうだぞ」


入ってきた通路側の出入り口から追っ手らしき軍事車両が入ってくるのが見えた。


「ゼンベル!発進だ!」


ガンシップは勢いよく停留所から飛び出した。開いた窓からは見送る中尉が見えた。レオは彼女に与えられた危険を冒してまで遂行しなければならない任務とはなんなのかを考えていた。


「おい、おいおーい待てよ!嘘だろ!!あいつらゼノフレームまで出してきやがったぞ!!」


ゼンベルが操縦席からゼノフレームが空港の滑走路離陸地点付近で待機していることを知らせた。ガンシップは滑走路を使わないが空港空域は現在ゼノフレームの射程距離内にある。ゼノフレームは平均して全長約3メートル前後の二脚又は四脚の汎用型高機動戦車であり数百年前に開発されたハイブリット戦車である、基本武装として低反動キャノン砲や自動迎撃レーザー、近接戦用ブレード等があるが、広域対空砲が換装されていた場合。
今飛べば間違いなく撃墜される。


「まずいな、このままではここからでられない」


「どうするんだ?一回もどるのか?」


「いや、このまま対空網を突っ走る」


「承知した!!」


ゼンベルが活きのいい返事をするが、状況は絶望的だ。


「えぇぇぇぇ!!いやいやいや正気か?!このままだと対空砲の餌食だぞ!!!」


「心配ない、ゼンベルならやれるはずだ。たのんだぞ」


「任せろ!要は当たらなきゃいいんだよな!!」


「回避できたら対空砲の意味がないだろ……このタイミングのゼノフレームとなると磁気誘導性ミサイルも積んでそうだが……」


「大丈夫だ、もしもの時は私が守ろう」


そしてガンシップはスラスターを全開にし勢いよく空港外へ向かった。案の定レーダー警戒装置のアラームが鳴る。


「ミサイルがくるぞー!!衝撃に備えろ!!」


ミサイル第1波が飛来。だがこれをガンシップは軽快に回避。


「撹乱チャフを使わずにミサイルを避けたのか?!信じられない腕前だ。」


「当然だ。我が隊のエースパイロットの実力を舐めるなよ。だが、次は厳しいか」


第一波が一発も命中しなかったことにより、第二波対空ミサイルが発射された。その数は倍であるため回避行動だけでは直撃する。


「チャフを使う!!これを乗り越えれば対空網からは出られる!!チャフを使った後は頼みましたよー少佐!!」


「分かった。これを乗り越えるぞ」


もはや状況めちゃくちゃだと思っていた。心の中ではほとんど諦めかけていた。だが、ここには何とも頼もしい味方がいる。今までにはなかった仲間たちだ。そして必ず仲間たちと一緒に生き残ることを決心し、少佐の方を見る。


「ん?なんだ」


何か用かと不思議そうな目でこちらを見つめてくる。


そして言った。


「必ず生き残るぞ少佐!!」


「もちろんだ」


ガンシップはミサイルの波に突っ込んでいく。ゼンベルが撹乱チャフを放出し、ミサイルの機動があらゆる方向に逸れていく。チャフ再使用にはクール時間があるためすぐには使えない。他の防衛手段にフレアがあるが最新鋭の対空兵器には無意味であることが多く標準装備であるが使えない。
近くに逸れたミサイルが爆発して衝撃波が伝わってきた。


「もう少しで対空網から抜けられるがどんない急いでも第三波からは逃れられない!フレアは使えるが期待はできない。任せました少佐!」


「任された。ゼンベルはそのまま直進しろ。レオは手すりに掴まれ。放り出されないようにな」


「えっ……」


ガンシップの側面扉が開いた。強い雨風が吹き荒れる中、少佐は身を乗り出し後方から迫り来る第三波を視認。


「さて、これをするのは初めてたが、私の陣の応用がどこまでできるか試すいい機会だ、いくぞ!」


その言葉を聞いた後、真っ白な閃光が目に入り込んできた。眩しすぎるその光はガンシップを通見込んでいくようだった。
しばらくすると閃光は止み、視界が良好になる。衝撃波は感じなかった。


「無事……なのか……?」


「あぁ、どうやら上手くいったようだ。これで対空網からは逃れられた。我々の勝利だ」


「おおおおおおおおおおおおお!!!!!!!!!」


ゼンベルが勝利を盛大に祝う。
まさか本当に突っ走って抜け出すとは。
信じられなかった。


「さて、ゼンベル。今は予定通りに北部前線基地に向かってくれ。私は今から今回の襲撃について本部と問い合わせる。返答次第ではアジトに行く」


「了解です少佐ァ!!」


こんな危機的状況を過ごしたすぐ後にも関わらず勝利の余韻に浸らない少佐を見て、どんな世界を生きてきたのか想像もつかなかった。
傭兵をやってたといえ、危険なリスクの伴う依頼は蹴っていたし、現場でも常に自分の安全だけは確保してきた。住む世界が違うなんてものじゃない。少佐と俺には明らかに壁がある。


そしてそれは、決して触れることのできない遥か高みの存在であるが故に。




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「ほうほう、まさかあの共和国の対空網から抜け出すとはな。やはり一筋縄ではいかないか……。では仕方ない。軌道衛生で会った傭兵に再び会えるいい機会だ。今度は自ら赴くとしよう……」

          

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