ディス=パータ
第5話 欝夢
「レイ……シス……」
頭の中でその言葉が永遠と鳴り響いている。
漆黒のローブで纏ったあの悪魔のような人間が語りかけてくる。
なんども、なんども、それだけを言っては。また消えていくのだ。
それがいつか止むのを待ちながら。
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「んあ……」
目を覚めると見覚えのない天井が見えた。
「あぁ、そういえば家が変わったんだったな」
目が覚めた時、ある重大なことを思い出した。
「ああああ!!起こしに来てくれてない!!」
大きな声が部屋中に響き渡る。すると廊下からノックの音が聞こえてきた。
「レオさん?おめざめですかー?今起こそうとしたんですが、間に合っていたみたいですね。制服をここに置いておくので仕度が終わりましたら昨日のロビーまで来てください。今後に事について話し合われますので」
彼女はドア前に制服を置くとロビーの方向に向かっていった。
しかし……なんということだ。彼女が起こしに来てくれ前に起きてしまったというのか。なんたる失態だ。今後はこんな事が起きないように起こしに来てくれるまでベットこもっていよう。
そう心に決意すると、ドア前に置かれた制服を取りにいった。
「これは……」
その制服はミーティア中尉が着ていた物と同様に共和国軍の男性用制服であった。オレンジ色を基調としていて、着てみると思ったよりもサイズが大きい。
「結構、ぶかぶかだな……うわぁ、似合わん……」
今まで服は黒目の目立たない服装をしていたばかりか、明るい色の服の格好には目が慣れずとても不格好に見える。最後に分厚いコートを羽織ると、ロビーに向かった。
「やぁ、遅かったね」
ロビーには先に軽装のレイシア少佐とミーティア中尉がふかふかソフィーに座って居た。
近くの椅子に座ると窓に目をやりながら質問を投げかける。
「昨日の子供たちはどこに?」
「あぁ、今はちょうどここにはいないよ。是非君に会わせてやりたかったが、タイミングが悪かったね」
「そうですか」
少し残念に思いながらも、昨日の話について思い出していた。
「まずは昨日の続きの機密についてだね。我が国にも覚醒者の集う組織がある。それはイニシエーターと呼ばれていて、さまざま戦地に趣き今も戦っている。敵国のレジオン帝国にも覚醒者による部隊が編成されていて、それらに所属している人間はレイシスと呼ばれている。つまり君が衛生で会ったというレイシスと言ったその人物は、レジオン帝国のレイシスの可能性があるわけだ。そしてあの衛生兵器は帝国のものである可能性も高い」
「共和国にもそのような存在が居る組織があったのか……」
「そして……」
彼女の言い放った言葉は衝撃だった。
「実は私もイニシエーターだ」
「い、イニシエーター……なのか……つまり少佐は覚醒者……?」
「そういうことになるな」
まさか彼女が覚醒者でそのイニシエーターだったとは。
「じゃあ、なにか能力が使えたりするのか?」
「まぁそうだな、それと覚醒者の持つ武器は特殊だ。私のはこのソレイスと言う武器を使う」
そういうと、彼女の手のひらから一本の剣が生成された、その剣は芸術品のように美しく、触れただけで切り裂かれてしまいそうなほどに鋭い刃をしている。
そしてその剣を構える少佐の姿は金色の豪華な装飾に相応しく美しい。
「この剣は、イニシエーターの扱う武器の中でも最も単純な武器だ。この剣の刃は非常に鋭利で、どんなに重装甲な鎧でも容易く切り裂く。覚醒者に流れる力の波動を余りなく発揮することができる」
「まさか剣が武器だったとは驚きだ、本当にそれで戦場を生き残れるのか?火器は使わないのか?」
「火器を使うのは私にはあまり合わない。それに、戦場では全てこの剣が解決してくれる」
そういって少佐は剣を手に収めた。
「なんとも信じ難い話だ、まるで物語の中の英雄のようだ……」
「さぁ、機密も話したところで今後の話しをしよう」
すると、ミーティア中尉が端末を出して予定事項を確認するように話しだした。
「北部第3都市のヌレイ戦線から救援依頼が来ています。まずレオさんは我が部隊の本体と合流し北部第3都市の最前線、ヌレイ戦線に向かっていただきます。その後我が部隊は前線の共和国軍指揮下に入り戦闘に参加します」
「初任務から早速前線行きとは、使い勝手が荒い……」
「レオさんならきっと活躍してくださるだろうと期待していますよ。ね、英雄の傭兵さん」
彼女は反則級の最高の笑顔でそう言い放った。
「はぁ、そう言われちゃ仕方ないな……だが一様三ヶ月のブランクがあることを忘れないでくれ」
「君なら大丈夫だ、それに安心しろ」
「ん?」
「この私が付いているからな」
今日の会議は終わり、さっそく三日後には戦線に向けて出撃することになった。
初任務から戦場送りとはここに鬼畜極まる。
出撃の間までは特にやることもないのでリハビリでもして過ごすことにした。
「しっかし広いなぁここは……ここが拠点というわけでもないのか」
施設内を歩いていると、子供たちが遊んでいた庭が見えてきた。
「あそこに居た子供たちは結局なんだったんだろう、少佐たちと何か関係があるのか?」
この外廊下からは共和国第7都市中央ステーションの巨大な建造物が見える。いくつもの線路が張り巡らせれていて、一日中輸送列車が稼働しつづけている。13億人が住んでいる都市なだけあってあそこはいつも賑やかだ。こんなところに戦火の火が灯ることなんて事はきっとあってはならないのだろう。
各都市には人口の限度が決められていて、それ以上の人数が入ろうとすると規制がかかりその都市に民間人は入ることができなくなる。そのためここ以外にもはや逃げ道はないのだ。
この都市も人口限度が近く、付近の戦線から逃れてくる国民は安全な都市部に入ることができずに都市壁のすぐ外で暮らしている者もいる。
ここから南側に一番近い共和国第8都市は数十年前に既に機械軍によって陥落した。
最近は、難民の増加によって共和国第8都市の奪還作戦も考えられているらしいが、それはまだ厳しいだろうと考えている。
激化する帝国軍と卿国軍の戦闘に大部分の国力が割かれている中、都市駐屯軍だけでの対応が精一杯のはずだ。都市駐屯軍だけでは南部戦線を維持するので限界。
「この都市部もいつ戦場になってもおかしくはないな……」
そんな夜の広大な都市の人工光を見ながら一人でぼやいていた。
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部隊が展開し施設を取り囲んでいる。通信からは配置の完了と、突入の合図が待たれていた。
「合図をしたら突撃しろ。子供がいれば一人も構わずに殺せ。レオ・フレイムスは発見次第最優先で射殺せよ可能ならば拘束しろ。それ以外は排除しろ。少佐……貴様には、裁きの鉄槌が必要なようだ」
静寂な夜が乱されようとしていた。
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