ディス=パータ

ノベルバユーザー196004

第3話 理に触れる手

「レイシス……」


彼女は怪訝な顔をしながらそう復唱した。


「あれは……あれは一体なんなんだ?俺は傭兵を生業にしてから20年以上は経つが、今までにあんなものは一度も見たことがない、今まで俺が培ってきた経験や知識がまるで通じなかったんだ。人間は脆い。俺が今までに殺してきた人間は容易く死んでいった。中にはタフなやつも居たが、銃の前では人間というのは無力なんだ。等しく平等に死が与えられるこの世界で知識や経験を駆使して俺は生き残ってきた。だがあいつは違った。弾ってのは放たれればそのまま人体を貫通してその人間に死を与えるんだ。なのにあいつには弾が届かなかった。奴と俺たちには明らかな壁があった。しかもその壁はあちら側が一方的に干渉できて俺たちは奴に触れることもできないような……」


彼女たちはうつむいたまま俺の話を静かに聞いていた。
まるで子供の話を健気に聞くかのような母の眼差し似た目で。


「あれは、この世に居てはいけない存在だ。あんなものが存在していいわけがない、あんな理不尽なことがあっていいはずがない……なぁ、あんた達は何か知っているのか?奴を、レイシスとやらを」


しばらくの沈黙が続いたあと、レイシア少佐が口を開いた。


「知らない、と言えば嘘になるね」


俺はその言葉だけで驚愕した。
それだけは聞きたくなかった返答だった。
あんなものが本当に実在するというのか……せめて幻であってほしかったと思った。


「知っているのか?!奴はなにものなんだ!!あの力は一体なんなんだ!!」


「まぁ待て、まずはうちのところに来てくれないか?君が聞きたがっている話はそこで答えてやろう」


そういうとレイシア少佐は席を立ち外へ出ていった。
その後すぐにショートヘアのもうひとりの女性が長らくの沈黙をやぶりこっちを見て話しかけてきた。


「えーと、そういえば自己紹介がまだでしたね。私はミーティア・ミルクォーラム中尉です」


「あっ、あぁ。レオ・フレイムスだ。レオとでも呼んでくれ」


「分かりました!レオさん!是非うちのところにきてくれませんか?あなたのような英雄が来たらきっと大騒ぎです!」


「え、英雄??……それにうちのところってどこ……あっ、ちょ、ちょっと!」


彼女は俺の手を無理やり掴みながら外へ連れて行き、無理やり重装甲で覆われた軍事用のような車両に乗せられた。


(これって、ほとんど強制連行みたいなもんじゃないか……しかし、とんでもねぇパワーだな、見た目からは想像もつかないほどの力だ……)


ミーティア中尉はさすが軍人であってか連行されるとき彼女の手を振りほどけなかった。なにか特別な訓練でもしているのだろうか?はたまた何かの特殊部隊か?、
そんな思考を巡らせているうち、俺を乗せた車両は目的地も聞かされないまま走り出した。


「あ、あの。これから一体どこへいくんですか?それに英雄って一体なんのことです?まったく身に覚えがないんですが……」


この質問に答えてはもらえないのだろうかと思っていた矢先に英雄のことについてミル中尉が答えた。


「あれ?知らないんですか?レオさんは巷では空に浮かぶ未知の衛生の脅威からこの国を守った英雄として有名になってるんですよ!」


「え、嘘でしょ……」


まさかそんな事になっていたとは……
ここ三ヶ月はずっと我が家に引きこもっていたせいで何も知らなかった。というのも引きこもっていたのは精神的参っていたわけだからではなく、単純に外に出る必要がなかったからだ。あのあと事前の契約通り、莫大な報酬が俺に支払われていたのだ。
彼女たちは俺が三ヶ月間も精神的に参っていたと思っているのだろうが、そんなことはない。確かに精神に異常をかかえたが、そんなものは初めの数週間で消えた。この膨大な金の中で虚無だけをかかえて過ごしてきたのだ。だが、彼女達がせっかく労ってくれていることだ。
この事は黙っておこうと思った。


(しかし、まさか英雄扱いされていたとは驚きだ。まぁ考えてみれば俺の成し遂げたこと事態はそれなりの偉業であったんだろう。それに俺以外の傭兵が生きて帰ってこなかったことを考えれば尚更だ)


「えぇ、ですからうちのところの子もきっと大喜びすることでしょうね!」


「あの、それとうちのところってどこの事ですか?」


「それは到着してからのお楽しみです」


ミーティア中尉は満面な笑顔で楽しみそうにそういった。
そうかと思いながらふと窓を見ると、この辺は既に都市部近くに来ていることが分かった。
そこはただただ広大に広がる住居区と格差を表すかのような高層ビル郡。住居区には南部戦前から逃れてきた人たちで溢れていた。
南部戦線は長らく機械軍アステロの脅威に晒されており、機械軍が離反してから数十年もの間戦闘が未だ続いている。
つい最近までは共和国第7都市付近まで小規模の部隊が進行してきていたが、都市の駐屯軍がこれを撃退していた。今となっては増殖しつづける機械軍に対してこれを滅ぼす手段がなく戦線は平行線のままだ。
共和国は東西南北の脅威に対して備えなければならなかった。南の機械軍アステロ、西のアルデラン卿国、北と東のレジオン帝国。卿国とアステロに関しては元々自国であったのだから皮肉な話だ。
そんな事を考えていたらどうやら目的の場所についたようだ。場所的には都市部からはそんなに離れてはいないだろうが、樹木が生い茂る自然に溢れた静かな場所だ。
そして車両から降り、しばらく歩くと賑やかな子供たちの声が聞こえてきた。そして遊具で遊ぶ子供たちが見えてきた。


「ここは、幼児施設か何かですか?」


「いえ、違う。けど似たようなものかね。とりあえずここは隠れ家みたいなところさ」


レイシア少佐はそう言うと今ではお目にかかることのない古い門を開け施設の中に入っていった。
そのあと中佐に続きミル中尉も入っていく。中は外観とはイメージのことなる近代的な内装だった。すると中佐が窓張り近くの外の子供たちを眺められる位置に椅子を引きそこに座った。このテーブルの近くに座るよう手招れるままにそこに座った。
全員が座ってからしばらくしてレイシア少佐が最初に口を開いた。



「さて、レイシスについてと君をここに連れてきた理由を話すとしようか」

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