死刑

西田夏樹

7章 ④ 雑談

まず私は目を疑った。ここは本当に私が昨日まで普通に暮らしていた街なのか。確かにこの街は発展してこそいなかったが、笑顔が飛び交ういい街だったはずだ。それが今はどうだろう。歩けども歩けども死体が目に付く。こんなに不快なことはない。



「人ってこんなに犯罪を犯すものなんですかね・・・?」
「なら、お前がこれまでの人生で犯してきた犯罪の数を数えてみろ。」
「えっと・・・あ、確かに無理ですね。」
「そういう事だ。そもそも俺達が目の前で見ただけで3人もいるんだぞ。」
「いやでもちょっと待ってください、よく考えたらこんな法が発表されたって分かってれば皆気を付けるんじゃないですかね?」
「例えば、犯罪を犯している最中に法が施行された場合。俺もそうだが、その場合は不可避だ。他にはもちろん施行された事を知らなかった場合もあるし、それが罪に問われるという事を知らない場合もある。この国ではないが、バースデーソングを無許可で歌っただけで罪に問われたケースだってあるそうだ。」
「著作権・・・ですか。なるほど。」



確かに言われてみれば理屈は分かる。私だって全部の刑法や法律を知っている訳では無いし、知りたいとも思わない。条例も含まれるのだから、歩きタバコが禁止の地域でタバコを吸うと即刻死刑。そこまでボーダーラインが低いのだから、これだけの死者が出てもおかしくはない。



「ところで、そもそも生きてる人を見ないですね。」
「多分家とかに閉じこもってんだろ。まあ家で犯罪を犯せば殺されるんだろうが、外にいるよりは間違って犯罪を犯してしまうリスクは少ないだろう。だから多くの人間がそちらを選ぶ。まあ、全員がそうなるとこうして話をしてる訳にも行かないほどの大混乱になってるはずだから、結構な人間が頑張ってくれている事も分かるが。」
「そう・・・ですね。あまり実感は湧きませんが。あ、そういえば、何で警察が動かずにガーディアンが殺しに使われているんでしょう?」
「そんなの、人間は信用出来ないから、みたいな臭いSFレベルの理由だろ。第一、人間がそこまで残酷になれる訳が無い。」
「それに対して警察が動かないのは・・・。」
「自分達が犯罪を犯してしまうリスクがかなり高いからだろう。信号無視程度なら緊急車両として許されるが、そう何でもかんでもしていいわけじゃない。」
「まあそうですよね。」



予想が全くつかないことが大量にあるのに対して、逆に容易に想像がつくことも多い。軽犯罪の多様性の事を考えると急に恐ろしくなり、今すぐに情報を得たいと思うが、ポケットの中でバラバラになっている携帯電話を触ると、もうそんな余裕が無いという絶望感に駆られる。などと考えていると、突然瀧川が呟いた。



「俺、今日ラッキーだったはずなんだけどなー。」
「どこがラッキーなんですか・・・。」
「法が施行される前まではラッキーだったんだよ。朝は寝坊しなかったし、テレビのデータ放送のジャンケンは全部勝ったし、何よりもコーヒーとトーストが、同時に出来上がった。」
「それ嬉しいんですか?」
「小さな幸せを集めることで大きな幸せになるんだよ。」
「死ぬほど似合わないこと言いますね。ちょっと池川さんに似てますよ?」
「流石にそれは無い。あと、法が施行されるちょっと前に寄ったコンビニのお釣りが、なんと、10円多かったんだ。」
「くだらないですね。」



そんな話をしながら隣町へと伸びる橋を渡った。この橋が都会へと渡る境界線のような側面も持っており、少し工場街を挟んでその奥は一気に都会になる。ところで私には気になることが一つあった。



「あの、これどこに向かってるんですか?」
「え、お前に付いてきたんだが。」
「は?私、てっきり瀧川さんが先導してくれているんだとばかり・・・。」
確かに言われてみればあの工場から殆ど曲がらずにここまで来た。お互いがお互いの考えを探りながら、結局素直に真っ直ぐ来てしまったようだ。
「とりあえずここまで来たんですし、何か手がかりでも探しませんか?」
「そうだな。じゃあ一時間後ぐらいにここで集まろう。それでいいか?」
「はい。」



そして私たちは、一人ずつで手がかり探しに出ることとなった。

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