死刑

西田夏樹

8章 ① ハッカー

息はかなり上がっている。体力の事を考えれば、もはやここまで走れた事すら奇跡に近い。もう走りたくない。それは何度も思った。だが、今しかない。俺には今しかないのだ。

ポジティブに考えれば今の状況は使える。俺はそう確信していた。俺にはこれがある。このカードが。もう俺には、どんな事でもやってのけるくらいの自信はあった。既に俺はもう、次に殺す相手を決めていた。





2年ほど前、松岡賢二は水田恵子の事を愛すあまり、水田の男だと思われる伊保との仲を引き裂こうとしていた。

前回の事件を皮切りに松岡に協力し始めたハッカー・佐久間は、国家レベルに立ち向かう仕事として、かなり興奮を隠せず、少なからずの金は受け取りつつもそれ以上に、喜んで仕事を引き受けていた。

2人の目的は、伊保のスキャンダルを暴露もしくは偽装し、首相どころか政治界からも追い出すことであった。これでは一見騒動を大きくしすぎているようにも感じるが、この作戦の利点は、スキャンダルの製造・暴露以外は自らが関与する必要が無く、その後の報道は週刊誌等のマスメディア、そして批判及び弾劾は国民全体が携わる事となる。無論関わる人物が多くなればなるほど、何か問題が生じたとしても2人の事を特定する事は難しいからだ。



佐久間は多少苦戦しながらも、政府のスーパーコンピュータ「載」及びそれに関連するデータサーバー全てにもアクセスを成功していた。

「流石この国最強のサーバーだな。かなりロックも厳重だ。」
「3日で解除しておいてそれは無いだろ。」
「いや、これでもかなり危なかった方だ。例えば、あるセキュリティはわざと解除させる仕組みで、それを解除した途端にこちらの発信源が特定されるというものだった。流石に簡単すぎると思って見抜けたが、もう少し手が込んでいたなら気付くことは無かっただろう。むしろそこに一番時間を食われてしまったな。」
「そんなものがあるのか・・・俺も少しは手伝わないとな。」
「やめておけ。下手に素人が関わると危ない。お前はまず、これでも読んでおくんだな。」
「なんだこれ。・・・パソコン入門?なんでお前こんなもん持ってんだよ。」
「俺レベルになると、そんな幼稚な内容が書いてある本が逆に面白いんだよ。」
「なんだそれ。分かんねえもんだな・・・。」



政府のデータサーバーにアクセスこそしたものの、そのデータは無論途方も無く大きなもので、それを確認・処理する作業はかなりの労力を費やすこととなった。更にスーパーコンピュータレベルのデータであるため、市販されている物を軽く改造した程度のパソコンではデータ読み込みにかなりのラグが発生する事となった。



パソコン入門から始め、結局佐久間が軽く指導を行った甲斐もあり、松岡はかなりの成長を遂げ、計画の実行から1ヶ月ほどで佐久間の仕事を援助出来る程度には上達していた。その頃にはかなりディープなレベルの情報まで到達していたため、彼らは寝る時間をわざとずらし、常にどちらかが起きている事にしていた。

誰にも支えられず、増してやほとんど会話もなく仕事をするのは語るまでもなくかなりの苦痛であったが、その先に見える大きな成果というものは、単なる嫉妬程度のものでは収まりきらず、俗な言い方だとハッカーのロマンとでも表そうか、明らかに佐久間に影響され、松岡はそのゴールを求めて作業を行い続けていた。辛いことも沢山あったが、かなり順調だった。

 

そう、あの日が来るまでは。

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