死刑

西田夏樹

7章 ③ 決意

工場の中は血の臭いが充満し、鼻の奥が刺激に襲われる。
擬音では表せない程の何とも言えない不快感が私の身体中を支配する。
それだけでもかなり頭が痛いのに、彼の発言がまた私の頭を痛くする。



「手に入れたって言うとちょっと語弊があるか。」
「どっちなんですか・・・。」
「あれは、たまたまだったんだ。」





俺は、あの時ガーディアンから逃げている所だった。
さっき殺された宏の家に行く少し前の事だ。
記憶ははっきりしないが、かなり怖くて、恐ろしくて、そして生きたかった。
どうにかして助かりたい。その一心だった。

少し開けた道から住宅街の方へと行く曲がり角だった。無論俺はなるべく早く逃げたかったから出来る限り内側を走っていた。その先にいたんだ。アイツが。
いや、確かに記憶は曖昧だ。だが多分、いやほぼ確実にあの男、松岡賢二だった。
俺達はぶつかった。その時にたまたま松岡が巾着のようなものを落としたんだ。
俺は拾ってそれを返そうとした。その時だ。ヤツが、ガーディアンが後ろの方に見えた。その瞬間、身体中に恐怖が込み上げてきた。そしたらもう駄目だ。その恐ろしさはお前も分かるはずだ。

そして俺は必死に逃げた。まだ遠かったから何とか逃げることは出来た。もう訳も分からなくなって、何か少しの手助けでもと巾着を開けた。すると中にはカードが入っていた。shift。その意味を考えて、まさかと思った。確かに冷静に考えればそんな訳が無い。ただ、あの時の俺はもう、藁にもすがりたい気分だった。賭けるしかない。そう思った。だが、それが良かったんだ。いや、良かったのかは分からないが・・・。
それならもう動くしかない。そんな微塵の可能性でも信じるしかない。そして俺は宏を・・・殺してしまったんだ。





「・・・。」
私はかなり混乱していた。私のカードも彼が別の巾着から出したものだとしたら、彼は自分の分も含めてシフトカードが入った巾着を3つ持っていた事になる。どこからそんなものが出てきたのか。なぜそんなものを持っているのか。事態は予想の範囲を遥かに逸脱している。ここまで来るとむしろ、悩んでいても何の考えも浮かばない。もう、進むしか無いと思った。

「じゃあ、壊しますか。」
「ん?何を?」
「携帯ですよ。壊さないと、怖いですよね。」
「ああ、そうか。よし。」

そして私達は、自分の携帯電話を踏み潰した。もしお互いに潰し合いをしたりすると器物破損だとかで殺されるだろう。そして今踏んだゴミも少しでも拾い忘れると不法投棄で殺されるのだろう。何とも気持ちの悪い世界だ。冷たい汗が額から流れ落ちる。私は寒気を感じた。


でも、踏み出さなければならない。この工場から、再び外へ。

「死刑」を読んでいる人はこの作品も読んでいます

「SF」の人気作品

コメント

コメントを書く