死刑

西田夏樹

6章 4人目

男もまた、廃工場にいた。その廃工場の中には男の他にも3人の人間がいる。だがその3人は男の存在に気付いてはいない。そして男は、3人をかなり真剣な表情で見つめていた。いや、その中の一人、水田恵子を見つめていた。





2062年某日、男は会社にいた。同じオフィスで働く者と対比しても、男の仕事に対する熱意と実力は決して劣っているものではなかった。
そんな中、彼は珍しく上司から叱責を受けていた。
2日後に提出と言われていた資料が急遽その日中に提出ということになり、もちろん間に合うはずもなく、その責任を取らされているのだ。男はかなり不機嫌そうな顔をしている。



結局彼は夜の11時までかけてその仕事を終わらせた。そして家庭を持たない彼はそのままストレスを発散するためか、近くの繁華街のとあるビルの3Fにあるバーを訪れていた。
彼にとって一番のストレスの発散方法は酒を飲むことであった。そのため、このバーにはかなり常連になっている。
だが、このバーによく来る理由はそれだけではなかった。

そのバーには他にも多くの常連の客がいた。その中の一人の女に、彼は惚れていたのだ。いや、それに近い感情を抱いていたという表現の方が正しいのかもしれない。とにかく、彼はその女に好意を持っていた。

実はその女=水田恵子は会社の同僚であり、普段から会うことも話すことも可能なのである。だが彼にとって昼の彼女と夜の彼女は全く別の人物であり、そして彼には、夜の彼女の方が魅力的に見えるのだ。
 
だが一つ問題点があった。女はいつもサングラスをかけた男と2人で夜を過ごしているのだ。何度も何度も彼はこのバーに通い続けたが、その男の姿が消える事は無かった。



ある休日、男は自宅でパソコンを開いていた。そして固定電話の子機を手に取り、連絡を取り始めた。彼が電話をしている相手は佐久間という男。ハッカーだ。彼は佐久間に恵子の携帯をハッキングさせ、相手の男の正体を突き止めようとしていたのだ。

そして数日後、佐久間から彼の携帯に連絡があった。男の正体が分かったというのだ。そしてそのメールにはこう書かれていた。



男の名は伊保。この国のトップに立つあの男だ。





過去の悪い思い出が蘇り、少し震えた。
恵子は俺のものだ。彼はそう頭の中で再確認する。

とその時、向こうの3人の会話にも進展があったようだ。声が聞こえてくる。
「お前達の携帯は、全てハッキングされている。」
そして彼はその言葉を聞いて小さく笑った。

よし。後はチャンスを待つだけだ。

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