死刑

西田夏樹

3章 巾着袋

白衣の男が一人、静まり返った街を走っている。
いや、一般的な基準で言えば人は少なくはないのだが、普段は人に溢れているこの街で考えれば、そもそも人が自由に走れるというだけでもかなり珍しい。

そう、現状確かに異変は起きている。だが、そんな中でも「白衣で走る男」というのは流石に飛び抜けて変であった。その上に髭面。眼鏡。誰もが思わず振り返ってしまうような怪しさだ。更によりによって走り方まで気持ち悪い。暫く運動していないことが丸分かりだ。

そんな彼に焦点を当てているのには訳がある。それは彼がかなり異様な行動を取っているからだ。いや、確かに走り方や見た目もかなり異様ではあるが、そんなものでは無い。



彼は、当たり前のように信号をすり抜けていくのだ。



いや、確かに小さいといえば小さい信号だ。大通りを曲がった路地裏のような小さな道に繋がるだけの信号で、横断歩道の白線も3本ほどしかない。もちろん普段であればそんなもの、誰もが取るに足らないと思うだろう。だが今はそんなものも馬鹿にしてはならない。まあ、それは道の端に避けられた死体を見れば明らかだろう。

そう、彼らは“信号無視”で殺されたのだ。

そんな異様な世界の中、彼は当たり前のように信号をすり抜けていく。それが不思議でならない。犯罪者を殺害するためと思われるロボットも彼の背中を追いかけるが、あと一歩の所で動きを止める。

いや、むしろその後、ロボットの動きは活発になる。
そう、ロボット達は彼が通り過ぎた後の人を、一人、また一人と殺していくのだ。
そして500m程度の間隔で置きざりにされた死体はまた人々を恐怖に追いやる。



よく見ると、彼は赤信号をパスした後に、通り過ぎる人の背中を触っている。そして必ず触られた人はロボットに殺されるのだ。彼は手に持った巾着袋のようなものから何かを取り出しているようにも見える。



間違いない。彼は何かしらの情報を持っている。



その時、彼は道を左折し、路地裏に走った。





「追うか。」
男はそう呟き、ビルの屋上を後にした。

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