死刑

西田夏樹

2章 ② 油断大敵

怖い。身体中に寒気が走る。
脳の整理が追いつかない。
あの男はなぜ突然私の家に来たのか。そしてなぜこのカードを渡したのか。というかこのカードは一体なんなのか。

私は考えた。考えて考えて答えを絞り出そうとした。
だが答えは見つからなかった。
そもそも松岡と私には“同僚”以上の接点が一切無い。そう、だからこそ怖いのだ。

まず、少しでも情報を得たいと思った。このカードのこと。そして松岡自身のこと。
先程まではあの人と話すことには抵抗があったが、今はもうそんな事考えてはいられない。



ドアを開ける。
「真里香!松岡さんが消えてる。」
「え?マジ?賢二どしたの?」
いやだからなんで下の名前で呼び捨てなんだ。
「分かんない。でもまず追いかけないと!」
「え?あ、そんな心配しちゃう?あーやっぱそういう関係なんだぁ~」
「もう今はそういうのいいから!追いかけるよ!」
「え?あ、マジで行っちゃう系?えぇ~ちょっと待って・・・寒いじゃん」
「もう行くよ!」



人が一人消えているというのに何故真里香はこんな調子でいられるのだろう。まあ私もカードの事が聞きたいだけだといわれればそうなのだが。いやとにかく、松岡のことは早く追わなくてはならない、と思う。だが真里香は何故かこのタイミングで荷物を漁り始めた。松岡の貧乏ゆすりの癖は確実に私にうつっている。
「ホントにもう何してるの!?」
「ちょっと待ってよー。色々準備もあるでしょ。ていうかどうせ時間も経ってるんだから少しぐらい遅くなっても一緒でしょー」
「出来るだけ早くがいいの!ホントに早くして!!」
「“出来るだけ早くがいいの!”かぁ~・・・私もそんな事言ってみたいなぁ~」
「うるさい!!早くして!!」
真里香はビクッとした。そして先程までより急いで支度を続ける。というか支度ってなんなんだ。人を追いかけるだけなのに何が必要なのか。
「あー・・・もういいでしょ!ほら行くよ!」
私は真里香の手を握り、無理やり引っ張った。
「待って!コートだけ!!コートだけでも!!!」
「いやなんでそんな大事なもの初めにしないの?」
「だってぇ~」
「ほら、早く行くよ!!」
私はもう真里香を置いていくくらいの気持ちで部屋のドアを開け、廊下を走った。真里香は待ってと言いながら、コートを急いで着ている。
「とにかく私は追いかけるからね!」



かなり私は焦っていた。安心したい。その気持ちでいっぱいだった。正直、今の私は何を追いかけているのかすらよく分かっていない。そして真里香は私を追いかけながら言葉を放つ。
「こんな時に外に出たら危なくない?」
「なんで?」
「だって、殺されたら怖いじゃん?」
「別に犯罪犯さなきゃいいんでしょ?気をつければ大丈夫だって」
「私こんな所で死にたくないよ~・・・」 
なら付いてこなければいいのに。自分が急がせたことも忘れて私は少し真里香の存在が邪魔になっていた。別に真里香のことは嫌いではない。

大通りが見えてきた。あそこに出れば視界も開ける。手がかりも何か見つかるかもしれない。私は少し疲れながらも、勢いよく足を前に踏み出す。



大通りに出た。周りを見渡す。先程の松岡の服装は全身黒。よく考えれば怪しさは半端なものではなかった。何故私はあんな人を自分の家に入れたのだろう。

そんな事を考えながら周りを見渡し、ふと反対車線を見ると、いた。松岡だ。あの怪しさは間違いなく松岡だ。
案外楽だったなとも思ったが、すぐ近くに信号は無い。しかも松岡は何故か周りをキョロキョロしながらかなり急いで走っている。まず信号を探すが、100mほどはあるように感じる。だが、見つからなかった先程までに比べれば、断然安心できるものだった。私は全力で足を進めた。

信号は点滅を始めた。まだ信号までは30mほど残っている。その先もまた横断歩道の分を走らなければならない。だが、私は確信していた。いける。というか確信するしかなかった。大通りの信号は長い。ここで見失うと本当に次は見つけられない気がしていた。
「待って恵子!危ないよ!」
後ろから真里香が頼りない声をあげる。だがもう私には真里香の言葉を聞き入れる気は無かった。
「今ここを逃したらもう見つけられない気がするの!私そんなに足遅くないから!」
「ホントにダメ!!殺されちゃうよ!!!」
もう知らない。私は道路に足を踏み入れた。いける。私は歩行者用信号機を見ながら確信していた。人は道路に出てしまうと、安心感を抱いてしまうようだ。

が、しかし、現実はそうではなかった。あと一歩というところで信号は赤に変わった。目の前が真っ暗になる錯覚を覚える。騒音が耳の中を支配したかと思えば、静寂が辺りを包み込む。それが何度も何度も繰り返された。その時間は一瞬のようでもあり、永遠のようでもあった。もう私の頭はおかしくなっていた。終わりだ。先程まで希望しか無かった私の頭が絶望に染め上げられた。



私は死ぬ。そう、確信していた。

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コメント

  • ぽんちゃま

    KOEEEEEE!!!

    1
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