ダンジョンを現役冒険者パーティーで経営、そして冒険者から金品+命を奪うのはアリですか?

ゴッティー

第5話 ボス戦

 琥珀、エレガ、エルクの3人で近距離戦闘。後方からディアブル、メルの高距離戦闘によりこのパーティーは程よい戦闘ポジションのバランスを保ちながら現在、たったの数週間で地下11階からすでに12階へと足を踏み入れていた。

 このパーティーで指示を出すのは後衛の呪魔法師ディアブル。一見、よく決断をするエレガがリーダーのように見えるが、実はディアブルがパーティーリーダーなのである。彼はパーティーの脳の役目を果たし、彼の天才的情報収集と戦略を即座に見出す為、戦闘時には必ず彼がパーティーの指揮を取る。その他でも彼の能力は非常に高く、地下10階でたまたま隠し部屋を見つけると彼は何かしらこの隠し部屋を再び探し当てることの出来るような他の場所とは明確に違い、隠し部屋があるということを知らせる印などがあるのではないかと言い始め、最初は彼を疑っていたが最終的にはその印を見つけることに成功した。

 その後、能力の高いアイテムの眠る隠し部屋をディアブルは次々に探し当て、何の戦闘も無しにアイテムをこのパーティーは多数獲ることに成功した。そして現在…。

「私達、ある程度強くなったわよね?」

「ああ」

「12階での狩りもとても簡単になったわよね?」

「はい、そうですね」

「隠し部屋からとても強い武器とかもたくさん見つけて装備しているわよね?」

「まあ、そうだな」

「なら私達、ボスにも勝てるかしら…?」

「「「「……………………….」」」」

 琥珀たちはダンジョンボスの部屋をついに探し当てることに成功した。ここがこのダンジョンの最終地点。現在このパーティーは隠し部屋から得たアイテムの数々を琥珀以外の全員が最低3つ以上装備していた。そして一体一なら琥珀以外の全員が一人でも地下12階の魔物を倒せるようにまで成長していた。しかし、ダンジョンボスの力は桁違い。他の魔物と比べ物にならないほど強い。

 お互いに顔を見合わせる。少しの間、5人の間には沈黙が続いたがやがてエルクを始めとして次々と武器を強く握りしめボスの扉へ顔を向ける。そして決断の時。いざ、ボス攻略へ。

― ― ― ― ― ― ― ― ―

「全員、攻撃用意…」

 ボス部屋の中心で寝ているのは超巨大鼠。尻尾には鋭い刃が複数付いており、体のほとんどはいかにも硬そうな紫色の鉄のようなもので包まれている。流石に顔は普通のネズミのような柔らかそうな毛の生えた普通の肌質のようだが、もう琥珀は騙されたりはしない。この数週間で琥珀が学んだ事、地下10階からの魔物達の弱点は弱そうな場所ではなく、逆にその場所はその魔物にとって一番の強さを誇る何かがあったりする。だから琥珀は一つ、絶対に魔物の弱点である場所を見つけたのだ。それは首筋や足首ではなく、とげととげの間の柔らかそうな場所ではなく、ましてや甲羅状の皮膚と皮膚の間でも無い。

 ディアブルの合図と共に全員が武器を構える。ボスである鼠はまだ目を覚まさない。これは挑戦者がボスを攻撃しないと起きないようになっているのだろうか? 真実はどちらでも良い。ただこのボスを倒す事だけを考えて最初の一撃でボスを倒す気で挑む。それがこのパーティー、全員の出来る唯一の事。

「行け!」

 真ん中。敵の一番硬そうな甲羅状の皮膚のど真ん中。そこを集中的に攻撃する。ただそこを突き抜く感じでただただその皮膚を壊し、破る。そう。ここをピンポイントに。

 琥珀は両方の短剣を腰から引き抜き両手で交互に、連続で一つの場所を一ミリもずらさずに斬り裂えていく。後方からの連続爆裂魔法攻撃により物理防御壁は問題ないほどにまでズタズタに割れており、後はディアブルはボスを呪魔法で能力を低下させ、メルは近距離攻撃をしている3人の能力強化と回復能力に専念。近距離攻撃をしている3人は盾使いのエルク、剣術使いのエレガ、短剣使いの琥珀の交互で守備と攻撃の二つを同時に効率よくこなしていた。ボスは攻撃をする暇も無く、後ろへ押されていき、壁に付く頃にはもうボスである超巨大鼠は酷く弱っており、あっという間に消滅していった。

 あっけなかった。かなり楽勝な戦い!とはいかなかったが、それでも全員生きている。全員の全魔力と体力を使いこのパーティーの最大値の攻撃を短時間で行った琥珀たちは魔力と体力が尽きる寸前で超巨大鼠を倒すことに成功した。初めてのボスとの戦闘、5人のみの戦闘と前代未聞のボス攻略、一瞬で使った体内全エネルギーの消費により全員、地面に腰を下ろし、その場でボスの消滅した場所から出現したアイテムを見た。アイテムは目の前にあるが、誰も立ち上がろうとはしない。立てないのだ。しばらくして琥珀はようやく立ち上がることができ、ボスを倒した報酬として出現したであろうアイテムを見た。

 地面の上に現れた6つのアイテム。こんなに難易度の高く、死亡率の高いダンジョンがたったの6つのアイテムで済まされる。ダンジョンとは皮肉なものだ。琥珀は6つのアイテムの中から二つ、刃先から柄頭まで黒で染まった短剣を手にとった。

 4人もその後次々と自身の使用している武器を取り、その剣と能力を確かめた。

『裂』

 琥珀が二本の短剣を始めに手にした瞬間、頭の中に直接、裂という文字が浮かんだ。

「琥珀、貴方の短剣の能力は何だったの?」

「短剣の能力?」

「そうよ? 短剣を持った時、頭に何かしらの文章が思い浮かんだでしょ? 私の場合は筋力増加。威力が少し上がるみたいよ」

「俺も同じようだな。魔力が1.2倍になるらしい。実際魔力に1.2倍なんて言われても分からないが、確かに少し魔力が多くなったような気もする」

「私は回復と強化の扱い能力が上昇するみたいです」

「俺は防御能力と体力が増加されるようだ。盾の硬さも見た目的には良好だ。これで数か月間は新しい盾を買わなくてもいいようだ! はっはっはっはっ!」

「エルク、うるさい。で、琥珀、琥珀は何て?」

 琥珀はエレガに裂という文字が頭に浮かんだことを話す。少し妙だ。他のメンバーたちは曖昧ではあるが、ある程度明確な能力説明が頭の中に浮かんできたようだ。しかし、琥珀の場合、思い浮かんできたのは『裂』、たった一文字。

「えっと…。それだけ?」

「ああ、それだけだ。他には何も思い浮かばなかった」

「何か一人だけ特殊なんてなんだかカッコいいわね…」

「いや、普通に弱い装備って可能性もあるからな」

「それでも特殊って憧れる」

「そうですな~。冒険者にとって特殊なアイテムや能力を持っているのは憧れであるからな~」

「まあ、そういうことだ」

 4人は特殊という言葉に目を輝かせ、琥珀とその短剣を見つめた。まるで相手の武器をねだるように…。

「ま、まあ、どんな能力であれこの中で短剣を使っているのは俺だけだ。それにもうお前らは自分の武器を受け取ったはずだ」

「まあ、それもそうね。その武器はすぐにでも使ってみて能力を確かめたいところだけど今日はもう全員、魔力や体力がカラカラ。残念ながらその短剣の能力試行はまた明日になりそうね」

「そういうことだな! まあ、明日になっても魔物は逃げないからな! また明日、来るとしよう! はっはっはっは!」

 確かにもうパーティーメンバーは全員、疲れ切っていて帰る気力もあるかないかと言ったところだ。彼らに魔力が残っていないのかは琥珀自身、魔力を持っておらず魔法も使えない為、なんとも言えないのだが、今日はエレガとエルクの言う通り素直に琥珀たちはダンジョンから出ることにした。

 帰り道、琥珀たちは非常口階段でダンジョン外へと真っ直線で繋がっている階段で地上まで登って行った。流石にパーティー全員がこの有様では普通に魔物と戦いながら再び一階づつ登って行くのには無理がある。

 ~追加知識~

 非常口階段とはどの階からでも階と階の間、要はその中間点に位置する階段の近くに設置されてある扉の中にあるもう一つの階段のことなのだ。その階段はどの階からでも入ることが出来るが、一度入るとどの階に出ることも出来ない為、地上に行く以外の選択は無くなるのだ。そのため、地上からその階段を使い、最下階へ向かったとしてもその扉を開けることは出来ないのである。

 つまり、この階段はダンジョン内で魔物と戦った後に冒険者たちが帰る際の方法以外にこの階段の使用方法はない。

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