邪神と一緒にVRMMO 〜邪神と自由に生きていく〜

クロシヲ

閑話 たった一つの咎と、何百もの善

7章 あゝ神よ


彼は触れた。
いや、触れさせられた。
触れてはならない、起こしてはならない世界を喰らう禁忌の杯に。

ー器を承認、「悪」を形成しますー
ー器への適合を確認ー
ー肉体と精神の変成を開始しますー

「がぁぁぁぁぁぁぁぁあ!!!!」

体は熱く、火炎の中にいるかのような灼熱感が彼を内側から焼き焦がす。
皮が剥げ、筋組織はズタズタに切り裂かれ、骨は粉砕される。
この世の言葉をどのように使っても表現することの叶わない激痛が、彼の体を一瞬にして苛んだ。

激痛と共に変容する体に脳は思考を停止し、五感は働かなくなり、自分と他との境界が曖昧になって溶けて消える。

それと同時に聴こえなくなった筈の耳から名状しがたき怨嗟の重唱が聴こえてくる。

やがてそれらは彼の中へと溶けて一体となり、産声を上げた。

世界悪 Ⅰビースト・ワンに進化しましたー

___そこからの彼は、言うまでもないだろう。

世界悪という機構のひとつの歯車となり、自由意志などなくただ世界に、人にとっての悪を為す心無い機械。

だが、その中で彼は泣いていた。
やりたかったのはこんなものでは無いと。
だが、既に肉体の支配権はない。

皮肉にも、かつてあらゆるものの幸福を願った青年は、人々に悪という名の恐怖を与える機械となってしまった。

彼は、善を為しただけだった。
彼なりの、善を。
それが悪だった訳では無い。
ただ、多くの者にとって、それは恐ろしく見えた・・・・・・・・・・
いや、見えてしまった。

なんの見返りも何も無く、ただ他人の為にと善を為す。
人は、それを信じられなかった。
疑い、怯え、恐れを持ちながらも便利な道具としてこき使う。
それが人間という愚かな生き物のだした結論。
故に彼はいくら善行を為そうが評価されない。
故に彼はひとつのミス、一つの背信でそれまでの善行など関係なく殺された。

だから、彼は悪となった。
望んだ訳では無い。
世界に望まれたから、そうなってしまったのだ。
故に最早彼に自我はなく、行動の選択権もない。
ただ、世界にとっての悪を為すだけの操り人形。

それが、世界悪なのだ。

殺されても、封印されても消えず、それを拘束することは不可能である。
「世界悪」その物が、世界に縛られ、極限まで練り上げられた人の負の感情でしかないために。
それが世界悪 Ⅰビースト・ワン、裏切りと憎悪の化身であるが故に。
仮初の依り代など、殺されようが、封印さんゆが意味はない。

依り代は彼と同じになれば良い。
世界悪となったあの時の彼と、同じに。
即ち、世界全てを恨む、狂気を超越した負の感情さえあれば、世界悪はそれに宿って現れる。

故に、フェンリルの憎悪が最大濃縮されたとも言うべきあの小瓶が世界悪 Ⅰビースト・ワンとなるのは必然であった。

二人共、いや、これまで世界悪となった者達は、人の裏切りによって作られた。

何百もの善を為そうが、それがたった一つの罪でいとも簡単に水泡のように消えてなくなり、行われたのは常軌を逸した差別、生まれたのは世界への憎悪。

故に、世界悪とは、人類より産まれる天災である・・・・・・・・・・・・・


「たった一つの罪と、何百もの善」

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